目次
カルシウムは,人体内で最も一般的なミネラルである。体内のカルシウムの約99%が骨と歯に存在し,残りの1%が血液と軟質組織に認められる。血液中及び細胞周辺の体液(細胞外液)中のカルシウムは,正常な生理機能のために極めて狭い範囲内に維持されなければならない。カルシウムの生理学的機能は,生命維持に極めて重要であるため,カルシウム摂取量が不足すると,生体は,正常な血液中のカルシウムレベルを維持するために骨の脱ミネラル化を行う。そのため,適正な食事からのカルシウムが,健康な骨組織を維持するにあたって極めて重要な要素である (1)。
カルシウムは,骨と歯において主要な構成元素である。骨のミネラル成分は,主としてカルシウムとリンを大量に含むヒドロキシアパタイト [Ca10(PO4)6(OH)2]結晶で構成される (2)。骨は,生涯を通して再構築される動的な組織である。破骨細胞と呼ばれる骨細胞が,骨を溶解または再吸収することによって,再構築プロセスを開始する。それから骨芽細胞(造骨細胞)と呼ばれる骨形成細胞が,新たな骨を合成し再吸収された骨と置き換わる。正常な成長では,骨形成が骨吸収を凌駕する。骨粗鬆症は,骨吸収が慢性的に骨形成を上回るときに起こる (1)。
カルシウムは,血管の収縮と弛緩(血管収縮と血管拡張),神経インパルス伝達,筋肉収縮,及びインスリンなどのホルモン分泌を媒介する役割を持つ (3)。骨格筋や神経細胞のような興奮性細胞は,細胞膜中にカルシウム濃度を速やかに変化させる電位依存性のカルシウムチャンネルを持っている。例えば,筋繊維が収縮するよう刺激する神経インパルスを受けると,細胞膜内のカルシウムチャンネルが開口し,少量のカルシウムイオンを筋肉細胞へ送る。これらのカルシウムイオンは細胞内の活性タンパク質と結合し,細胞内部の貯蔵小胞からカルシウムイオン流を放出する。カルシウムとタンパク質,トロポニン-C,との結合が,筋肉を収縮させる一連のステップを開始する。カルシウムとタンパク質,カルモジュリン,との結合が,筋肉収縮のエネルギーを供給するために筋肉グリコーゲンを分解する酵素を活性化する (1)。
カルシウムは,多くのタンパク質と酵素を安定化させ,それらの活性を最適化するのに必要である。血液凝固カスケードにおける7つの「ビタミンK依存性」凝固因子を活性化するために,カルシウムイオンとの結合が必要とされる(「ビタミンK」参照)。「血液凝固カスケード」という用語は,一連のイベントをさし,それぞれが,凝血形成により出血を止める他の反応に依存する (4)。
細胞を取り巻く血液や体液中のカルシウム濃度は,正常な生理機能を維持するために堅固に制御されている(図)。血液中のカルシウムが減少すると(すなわちカルシウム摂取量が不足した場合),副甲状腺(上皮小体)内のカルシウム感知タンパク質がシグナルを送り,副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌させる (5)。PTHは,腎臓中でビタミンDを活性型のカルシトリオールへ変換する。カルシトリオールは,小腸からのカルシウム吸収を増加させる。PTHとともに,カルシトリオールは,破骨細胞(骨を再吸収する細胞)を活性化させ骨からのカルシウム放出を刺激し,腎臓における再吸収を増加させることにより,カルシウムの尿からの排泄を減少させる。血液中のカルシウムが正常レベルに上昇したとき,副甲状腺がPTH分泌を中止し,腎臓は過剰のカルシウムを尿中へ排泄し始める。この複雑なシステムは血中カルシウムの速やかで堅固な調節を可能とするが,骨格の消費でもある (1)。
血中カルシウムが低い状態は,副甲状腺機能の異常を意味し,骨格が正常な血中レベルを維持するためにカルシウムを多量に供給するため,食事からのカルシウム摂取量が低いときまれに起こる。異常に血中カルシウムが低い状態の他の原因は,慢性の腎臓疾患,ビタミンD欠乏及び主として重度のアルコール中毒症の場合に起こる血中マグネシウムの欠乏である。マグネシウム欠乏は,破骨細胞のPTHに対する応答性の低下を起こす。成長期の人の慢性的なカルシウム摂取不足は,最適なピーク骨量の達成を妨害する可能性がある。一度ピーク骨量が達成されると,カルシウム摂取量不足は,骨量減少を加速し,最終的に骨粗鬆症の発症に関係してくる可能性がある(「疾病予防」参照)(1)。
ビタミンDは最適なカルシウム吸収に必要である(「機能」または「ビタミンD」参照)。いくつかの他の栄養成分(及び非栄養成分)は,体内のカルシウム保持に影響を及ぼしカルシウムの栄養状態に影響する可能性がある。
高いナトリウム摂取量は,おそらく腎臓での再吸収の際のナトリウムとカルシウムの拮抗によるか,あるいは副甲状腺ホルモン(PTH)分泌に及ぼすナトリウムの影響によって,尿からのカルシウム消失を増加させる。腎臓により排泄される2.3 gのナトリウムの増加(NaClとして6 g)が,カルシウムの約24~40 mgを尿へ導くことが認められている。尿からの消失が個人間のカルシウム保持の約半分の差に相当するため,食事からのナトリウム摂取は,骨量減少に大きく影響する可能性がある。成人女性において,一日の消費されるナトリウムの余剰のグラム当たり,カルシウム消失が全て骨から由来すると仮定して,1年で1%の骨の消失率に追加されると考えられている。動物実験では,骨量減少が,食塩摂取量が高くなるにつれ大きくなることが示されているが,人における食塩摂取量と骨の消失との間の相関を確認するための管理された臨床試験は実施されたことがない (1,6)。しかしながら,閉経後女性による2年間の研究において,尿中ナトリウムの排泄量の増加が(ナトリウム摂取量増加の指標),腰部の骨ミネラル密度(BMD)の減少と相関することが認められている (7)。さらに,40人の閉経後女性についての縦断研究(経年的研究)から,6ヵ月間の低ナトリウムの食事(2 g/日)を堅持することが,ナトリウム排泄,カルシウム排泄及び骨吸収のバイオマーカーであるI型コラーゲンのアミノ末端プロペプチドを有意に低減させることと相関がみられた。しかしながら,これらの相関は,試験開始時の尿中ナトリウム排泄量が,3.4 g/日以上(すなわち米国成人の平均ナトリウム摂取量)である女性にだけ認められた (8)。尿中のナトリウムとカルシウムの排泄と保持についての食事からのナトリウムの影響における人種間の差が,思春期の女子で報告されている。白人の女子は高い食塩食事で余分なナトリウムを排泄するが,黒人の女子はプラスのナトリウムバランスへ向かっており,それは白人の女子と比較して尿中のカルシウム消失が低い結果によるものであった (9)。
食事からのタンパク質摂取量が増えると,カルシウムの尿中排泄量も増加する。米国人の推奨カルシウム摂取量は,米国人のタンパク摂取量が概して高いため,比較的工業化されていない国々の人より高くなる。タンパク質のRDA(推奨栄養所要量)は,成人女性で46 g/日,成人男性56 g/日であるが,米国におけるタンパク質の平均摂取量は高い傾向にある(成人女性65~70 g/日,成人男性90~110 g/日)(3)。最近,全体のカルシウム収支は,カルシウム吸収の変化を相殺することにより,食事からのタンパク質により影響を受けることが確認されなかった (10)。タンパク質の摂取不足は,骨粗鬆症関連骨折からの回復の遅さと相関が認められ,血清中アルブミンの値(タンパク質栄養状態の指標)が,股関節骨折リスクと逆相関することが認められた (3)。
タンパク質が多い食品には一般的に認められるリンは,尿中のカルシウム排泄を減少させる傾向がある。しかしながら,リンの多い食品は,消化排泄されるカルシウム含量を増加させ,便中のカルシウム消失を増加させる傾向にもある。従って,リンは,タンパク質摂取増加に関連するカルシウム消失の全量を相殺しない (1)。ソフトドリンクと食品添加物からのリン酸塩摂取量の増加は,骨の健康についての意義に関して,いくつかの研究者から懸念を生じさせている。リンが多くカルシウムが少ない食事は,カルシウムが低くなるにつれ,副甲状腺ホルモン(PTH)分泌を増加させることが認められた (3,6)。カルシウムバランスと骨の健康に及ぼすリンの高摂取の影響は,現在のところ不明ではあるが,牛乳や他の食事からのカルシウム供給源を多量のソフトドリンクへ変えることは,青少年や成人における骨の健康に関する懸念を起こす。
多量のカフェインは,短時間で尿中カルシウム含量を増加させる。一方,400 mg/日のカフェイン摂取量は,閉経後女性において24時間内の尿中カルシウム排泄を,対照群と比較し有意に変化させなかった (11)。一つの観察研究から,カルシウムを744 mg/日以下摂取する閉経後女性において,骨量減少の加速が認められ,彼女らはコーヒーを2~3杯/日飲むと報告されたが (12),カフェイン摂取量を測定したその後の研究では,閉経後女性において,カフェイン摂取量と骨量減少との間に何の相関も認められなかった (13)。平均して,8オンスカップ1杯のコーヒーは,わずか2~3 mgのカルシウム保持を減少させるだけである (1)。
骨の健康の最適性に基づく最新の推奨カルシウム摂取量が,2010年に米国医薬品協会の食品栄養委員会(FNB)から発表された。カルシウムの推奨栄養所要量(RDA)を,ライフステージと性別により下表に示した。
大腸癌は,最も一般的な胃腸器官のがんで,米国における第二位のがんによる死因である。大腸癌は,遺伝的要因と環境要因が組み合わさって起こり,これら2つの要因が人の結腸癌リスクに影響を及ぼす程度は大きく異なる。家族性大腸腺腫症を持つ人々において,結腸癌の原因は,ほぼ完全に遺伝性と考えられているが,食事要因も他の種類の結腸癌リスクに影響すると考えられる。動物実験からは,腸癌を予防するのにカルシウムが保護的な役割をすることが強く裏づけされている (14)。人における管理された臨床試験で,直腸結腸腺癌(前がん性ポリープ)の穏やかな減少が,カルシウムの1,200~2,000 mg/日補給によって確認され (15,16),その後の研究から,介入終了後5年間まで予防効果が続くことが認められた (17)。564,536人の男女が関与した10例の前向きコホート研究のメタアナリシスで,カルシウム摂取量(食品からの)の最大5分位の人が,最小5分位の人より大腸癌リスクが14%低いことが認められた。食事からのカルシウム摂取量は10例のコホートで674~1,051 mg/日の範囲であった (18)。このメタアナリシスにおいて,総カルシウム摂取量(食品とサプリメントから)が最大5分位の被験者は,大腸癌リスクが22%低かった。調査された研究の一日総カルシウム摂取量は732~1,087 mgであった。一方,大部分の前向き研究は,個々には,カルシウム摂取量増加が,大腸癌リスク減少にわずかに弱い相関があると報告されている。これらの弱い相関は,カルシウムに対する応答が異なる群が集団内に存在することにより説明できるかもしれない。例えば,インスリン様成長因子-1(IGF-1)の循環レベルが高い人は,大腸癌リスクが高く,カルシウム摂取量増加が,この亜群では他の群以上に効果があるという証拠がいくつかある。511人の男性による症例-対照研究では,カルシウム摂取量の増加が,IGF-1の循環レベルの高い人で大腸癌リスク減少とより強く相関が認められた (19)。結論を導く前に,大規模集団内の特定亜集団が,大腸癌リスク低下に関して,異なるカルシウム必要量を有するかどうか解明するために,さらに多くの研究が必要である。
骨粗鬆症は,骨の強度が損なわれる骨格障害で,骨折のリスクを高めることになる。股関節骨折を招くことが,骨粗鬆症の最も深刻な結果である。骨粗鬆性の股関節骨折を招く人のほぼ1/3は,骨折後,年内に老人ホームに入居し,1年以内に骨粗鬆性股関節骨折を経験した人の5人に1人が死亡する。骨粗鬆症は,白人の閉経後女性で最も多く診断されるが,他の人種や年齢群の女性,男性及び子供も骨粗鬆症を発症する可能性はある (20)。
骨粗鬆症は多因子性の障害であり,栄養が,その発症と進行に関係する唯一の因子である(2)。骨粗鬆症を発症するリスクを高くする他の因子は,これだけとは限らないが,加齢,女性,エストロゲン欠乏,喫煙,代謝疾患(甲状腺機能亢進症など)及び特定治療薬(コルチコステロイド,抗痙攣薬など)の使用である。骨粗鬆症関連骨折の素因は,その人のピーク骨量とピーク骨量に到達した後の骨量減少率と関連している。成人の身長に達した後,骨格は,人生の30年まで骨の蓄積を続ける。ピーク骨量に遺伝的要因が強く影響するが,生活習慣の要素も有意な役割を果たす可能性がある。骨粗鬆症性の骨折リスクを低減する方法には,最大のピーク骨量の達成と人生後期での骨量減少を少なくすることである。カルシウムは,ピーク骨量を達成し骨粗鬆症を予防するために最も重要な栄養成分であることは一致して確認されているが,適正なビタミンD摂取量も,最適なカルシウム吸収に必要である (20)。
運動が,骨粗鬆症と骨粗鬆症性骨折を予防するために有効なもう一つの生活習慣要素である。人生初期の運動が,より高いピーク骨量の達成に寄与することを示唆するエビデンスがある。適正なカルシウムとビタミンDの摂取量の下での運動は,おそらく人生後期の骨量減少率を遅くするのに適度な効果がある。公表されたカルシウムの試験の1つの編集物では,運動増加による骨格への有用な効果が,1,000 mg/日以上のカルシウム摂取量においてのみ達成可能であることが示唆された (21)。骨量減少を予防するため,高衝撃性の運動や抵抗運動(ウェイト)が,最も有効と考えられる。歩行,水泳及びサイクリングのような比較的低衝撃性の運動は,健康や機能の他の面で有効であるが,骨量減少についての効果は少ない。しかしながら,人生後期の運動は,90歳を超えても,なお骨の強度を高め,別の股関節骨折の重要なリスク因子である転倒の可能性を低下させる (20)。カルシウムサプリメントだけでは,骨粗鬆症の人では,減少骨量の回復は通常できない。しかしながら,いかなる薬物治療を用いた骨粗鬆症の最適な治療でも,カルシウム(1,200 mg/日)とビタミンD(600 IU/日)の適正な摂取量を必要とする (2,20)。骨粗鬆症についての追加情報は,国立骨粗鬆症基金のウェブサイト参照。
米国人の約12%が,何らかのときに腎臓結石になる。ほとんどの腎臓結石は,シュウ酸カルシウムかリン酸カルシウムからなる。その原因は通常不明であるが,異常に高い尿中カルシウム(高カルシウム尿症)が,カルシウム結石の発症リスクを増加させる。食事からのカルシウム増加は尿中カルシウムを少し増加させ,この上昇は高カルシウム尿症患者でより顕著である。しかしながら,ナトリウムやタンパク質のような他の食事要因も,尿中カルシウムを増加させることが知られている (22,23)。12年間男性を追跡した大規模な前向き研究から,症状のある腎臓結石の発症率が,カルシウム摂取量が平均1,326 mg/日である最大5分位(1/5)の男性で,平均516 mg/日である最小5分位の男性と比較して44%低かった (24)。女性を12年間追跡した大規模な前向き研究でも同様の結果が得られた (25)。14年間男性を追跡した研究から,カルシウム摂取量が,60歳以下の人で腎臓結石リスク低下と相関し,60歳以上の男性では相関がないと報告された (26)。さらに,96,245人の27~44歳の比較的若い女性コホートにおける前向き研究において,高いカルシウム摂取量は腎臓結石のリスク低下と相関が認められた (27)。これら2つの試験の著者らは,食事からのカルシウム増加が,シュウ酸カルシウム結石のリスク因子である食事からのシュウ酸の吸収を阻害し,尿中シュウ酸塩を低減させる可能性があると示唆した。この概念の裏づけは,カルシウム補給の有る無しによるシュウ酸塩吸収を調査した試験に由来する (28)。カルシウム元素相当200 mgをシュウ酸塩とともに供給すると,シュウ酸塩の吸収と排泄の両方が有意に低減された。
カルシウム結石の形成者は,これまではカルシウム摂取量を制限するよう助言されていたが,シュウ酸カルシウム結石患者282人による症例-対照研究からは,尿中ナトリウム排泄量を測定したときに,食事からの食塩が尿中カルシウム排泄と最も強く相関する食事要因であることが認められた (29)。カルシウム結石を生成している患者85人の研究において,骨ミネラル密度の低い人が,高い食塩摂取量と高い尿中ナトリウム排泄量であることが認められ,このことから,著者らは,食塩摂取量を減らすことを,カルシウム結石生成患者に推奨すべきであると提案した (30)。カルシウム摂取量が低いカルシウム結石形成患者の骨ミネラル密度が低くなる可能性を示すという結果は,食事からのカルシウムを制限する治療法にも疑問を投げかけている。現在,腎臓結石の再発を減らすのに効果的と証明されている唯一の食事内容の変更は水分摂取量を増やすことである。しかしながら,36,282人の閉経後女性による最近の無作為二重盲検プラセボ対照試験からは,サプリメントからのカルシウム(1,000 mg/日)とビタミンD(400 IU/日)の組合せ使用が,腎臓結石リスクを有意の増加させることと相関すると報告されている。サプリメントからのカルシウムが腎臓結石の発生に影響があるかどうかを決定するため,さらに多くの管理された試験が必要である (31)。
妊娠が誘発する高血圧(PIH)は妊娠の10%で発生し,妊婦とその産子における大きな健康リスクである。PIHは,妊娠高血圧,子癇前症及び子癇発作を包含する用語である。妊娠高血圧症は,通常妊娠の20週目以降に発症する異常に高い血圧として定義される。妊娠高血圧症の他に,子癇前症には,浮腫(重度の腫れ)やタンパク尿症(尿中タンパク質)がある。子癇前症は子癇発作(妊娠中毒症とも呼ばれる)へと進行し,生命を危うくする痙攣や昏睡を起こす可能性がある (32)。PIHの原因は完全に解明されているわけではないが,カルシウム代謝が作用していると考えられている。PIHのリスク因子は,初めての妊娠,多胎妊娠(双子や三つ子),慢性の高血圧,糖尿病及びある種の自己免疫疾患である。疫学研究の結果では,カルシウム摂取量とPIH発症率との間に逆相関が示唆されているが,カルシウム補給とPIHに関する実験結果はあまりクリアではない。無作為対照研究の系統的レビューからは,PIH高リスクの妊娠女性だけでなくカルシウム摂取量の低い妊娠女性において,カルシウム補給が高血圧の発生率を低減させることが認められた。しかしながら,PIHのリスクが低くカルシウム摂取量が適正な女性において,カルシウム補給の恩恵が小さく臨床的に有意とは考えられないと判定された (33)。4,500人以上の妊娠女性による「子癇前症予防に関するカルシウム」についての大規模多機関臨床試験において,PIHにおけるカルシウムの2,000 mg補給の効果は認められなかった。しかしながら、補給群の女性が平均2,300 mg/日の摂取量であったのに対して、対照群の女性は960 mg/日の平均摂取量であった, (34)。一般集団については,妊娠時に現在の推奨カルシウム摂取量に適合することがPIH予防につながるかもしれない。PIHに対し高リスクの女性が現在の推奨以上にカルシウムを補給することで効果があるかどうか判断するために,追加研究が必要である。
たとえ少量でも慢性的に鉛に曝露されている子供は,学習障害,行動の問題及びIQ値の低下を起こす可能性が高い。発育異常と神経系発達異常は,妊娠期に鉛に曝露された女性の乳児で起こりやすい。成人において,鉛中毒は腎臓障害や高血圧症を起こす可能性がある。鉛塗料や加鉛ガソリンの使用は米国では中止されているが,鉛中毒は,特に都会に住む子供で重要な健康問題として継続している。都市近郊の300人以上の子供における調査では,1~8歳の子供の49%は血液中の鉛レベルの現行ガイドラインを超えており,過剰の鉛曝露が示唆された。この調査において,1~3歳児の59%と4~8歳の子供の41%だけが,カルシウムの推奨摂取量を満たしていた (35)。適正なカルシウム摂取量は,少なくとも2つの方法で鉛の毒性に対する予防を可能とする。食事からのカルシウム摂取量増加は,胃腸器官からの鉛の吸収を減らすことが知られている。鉛が体内に入ると,骨格に蓄積されやすく20年以上残るといわれている。適正なカルシウム摂取は,骨の脱ミネラル化の間に骨格から移動する鉛による曝露も防止する。最近の妊娠中の血液中鉛レベルの研究では,妊娠の第二半期における不十分なカルシウム摂取量が,おそらく蓄積された鉛の血液中への放出によると考えられる骨の脱ミネラル化を増進させることに関連して,血液中の鉛レベルを上昇させる可能性が高まることが報告された (36)。妊娠女性における血中鉛は,胎盤を速やかに通過し,神経系の発達に極めて影響しやすい時期に胎児の鉛曝露を起こす。さらに,閉経後女性において,カルシウム摂取量の増加が血液中の鉛レベル低下と相関が認められた。エストロゲン代替療法や運動などの骨の脱ミネラル化防止として知られる他の要因も,血液中の鉛レベルと逆相関がみられる (37)。
カルシウム摂取量と高血圧との間の相関関係は,最近20年間で広範囲に調査されている。23例の大規模な観察研究の解析から,カルシウムの1日あたり100 mg摂取が収縮期血圧を0.34 mmHg下げ,拡張期血圧をカルシウム100 mgあたり0.15 mmHg下げることが認められた (38)。カルシウムの血圧に及ぼす効果をプラセボ群と比較した42例の無作為対照研究の大規模な系統的レビューから,全体として,収縮期血圧を1.44 mmHg低下させ,拡張期血圧を0.84 mmHg低下させることが認められた (39)。これらの無作為対照試験におけるカルシウム補給は,500~2,000 mg/日の範囲で,1,000~1,500 mg/日が最も多い用量であった。DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)研究において,549人の人が,8週間,無作為に次の3つの食事を割り当てられた。1) 果実・野菜及び乳製品の少ない対照食事,2) 果実(5食/日)と野菜(3食/日)の多い食事,3) 果実・野菜の多い食事と低脂肪乳製品を組み合わせた食事(3食/日)(40)。この組合せ食事は,対照群より約800 mg/日カルシウムが多く,総量で約1,200 mg/日カルシウムが果実・野菜の多い食事には相当していた。組合せ食事は,対照群より,収縮期血圧を5.5 mmHg下げ,拡張期血圧を3.0 mmHg低下させた。一方,果実・野菜食事は,対照群より,収縮期血圧を2.8 mmHg下げ,拡張期血圧を1.1 mmHg低下させた。高血圧と診断された人の中で,対照群と比較し,組合せ食事が収縮期血圧を11.4 mmHgまで,拡張期血圧を5.5 mmHgまで低下させ,一方,果実・野菜食事は,対照食事と比較し収縮期で7.2 mmHg,拡張期で2.8 mmHg低下させた (41)。この研究から,推奨レベル(1,000~1,200 mg/日)でのカルシウム摂取量が,軽度の高血圧の予防及び治療に有用である可能性が示唆された (42)。DASH食事試験についてのさらに多くの情報はNational Institutes of Health(NIH)から入手できる。
PMSは,疲労とは少し異なり,イライラ,不機嫌/うつ状態,体液貯留及び乳房圧痛を含む,排卵(中間期)にしばしば始まり,月経開始(月一回)でおさまる症状群のことをさす (43)。食事からのカルシウム不足がいくつかの試験でPMSと関連付けられ,カルシウム補給が症状をやわらげることが認められている (44)。466人女性による無作為二重盲検プラセボ対照において,3つの月経周期におけるカルシウム補給(1,200 mg/日)が,プラセボ群の30%低減と比較し,総合的な症状スコアを48%低減させることと相関がみられた (45)。カルシウムを1,000 mg/日投与された2つの二重盲検プラセボ対照試験クロスオーバー試験においても,同様の効果が報告された (46,47)。Nurses' Health Study IIに参加した女性における症例-対照研究では,食品から最大のカルシウム(中央値1,283 mg/日)を摂取していた人が,最小カルシウム摂取量(中央値529 mg/日)の人と比較し,PMS発症のリスクが30%低いことが認められた (48)。しかしながら,サプリメントからのカルシウム摂取はこの研究ではPMSに効果がなかった。食事からのカルシウム摂取量の増加やカルシウムサプリメントの摂取が,PMSの治療や予防に治療効果があるかどうか判断するために,大規模な臨床試験が必要である。
米国におけるカルシウムの平均食事摂取量は,全ての年齢群と性別,特に女性でRDA(推奨栄養所要量)をかなり下回っている。9~17歳の男子約25%と女子の10%だけしか,推奨量を満たさないと推定される。乳製品は,アメリカ人食事においてカルシウムの75%を供給する。しかしながら,青少年 が牛乳の代わりに清涼飲料を摂取する傾向があるのは,一般的に,骨量発達に最も重要な期間である (1, 3)。乳製品はカルシウムが豊富で吸収容易な摂取源であるが,特定の野菜や穀類もカルシウム供給源である。一方,カルシウムの生体利用能は考慮されなければならない。カルシウムの多いケール属植物(ブロッコリー,チンゲン菜,キャベツ,マスタード及びカブの葉)は,牛乳と同等の生体利用能を持つカルシウムを含有するが,ある種の食品成分がカルシウムの吸収を阻害することが認められている。シュウ酸塩ともいわれるシュウ酸は,最も作用の強いカルシウムの吸収阻害剤であり,ホウレンソウやルバーブ中に高濃度認められ,スウィートポテトや乾燥豆類にやや低濃度存在している。フィチン酸はシュウ酸塩よりも弱いカルシウム阻害剤である。酵母は,発酵中に穀類のフィチン酸を分解する酵素(フィターゼ)を持ち,パンなどの発酵食品ではフィチン酸含量が低下する。小麦のぬかや乾燥ビーンズなどは,フィチン酸の濃縮要因で本質的にカルシウム吸収を弱める (1)。カルシウムが多く含まれる食品を,カルシウム含量と牛乳1杯から吸収できるカルシウム相当量に必要な食品の一食数とともに下表に示した (49)。食品中の栄養成分含有量についての追加情報は,USDAの食品成分データベース(USDA food composition database)で検索できる。
食品中のカルシウムは,体内がカルシウム利用するのを補助する他の重要な栄養成分を伴うため,多くの専門家は,食品から可能な限り多くのカルシウムを摂るように推奨する。一方で,食品から十分なカルシウムを摂取することが困難な人には,カルシウムサプリメントが必要かもしれない。サプリメントはバルク製品(かさが大きい)で,錠剤の場合飲み込むには大きすぎるため,カルシウムの推奨一日摂取量(DV)を100%含有するマルチビタミン/マルチミネラル・サプリメントはない。現在米国市場で全てのサプリメントに要求されている「サプリメントファクト」ラベルには,元素カルシウムとしてサプリメント中のカルシウム含量が表示されている。サプリメントに使用されるカルシウム製剤は,炭酸カルシウム,乳酸カルシウム,グルコン酸カルシウム,クエン酸カルシウム及びクエン酸リンゴ酸カルシウムである。サプリメント中のカルシウム製剤がどれであるか判断するために,有効成分表示を見なければならない。炭酸カルシウムが一般に,最も安価なカルシウムサプリメントである。吸収を最大化するためには,一回でカルシウム元素を少なくとも500 mgは摂る必要がある。大部分のカルシウムサプリメントは,食事といっしょに摂る必要があるが,クエン酸カルシウムやクエン酸リンゴ酸カルシウムは,いつ摂ってもよい (50)。
数年前に,天然由来(カキ貝殻,骨粉,ドロマイト)のカルシウムサプリメント中の鉛に関する懸念が提起された。1993年に,研究者が,試験した70種製剤のほとんどから鉛を定量下限以上検出した (51)。それ以来,製造者は,カルシウム元素1,000 mg中で0.5 g以下まで,カルシウムサプリメント中の鉛含量を下げるよう尽力している。連邦基準値は,7.5 g/1,000 mgカルシウム元素である。鉛は広く存在し長く残留するため,完全に鉛が含まれない食品やサプリメントを誰も保証できない。最近の研究では,21のサプリメント製品中の8製品から鉛が検出され,その量はカルシウム元素1,000 mg中で平均1~2 gであった (52)。カルシウムは鉛の腸からの吸収を阻害し,適正なカルシウム摂取量は鉛の毒性に対し予防効果があるため,カルシウムサプリメント中に存在する微量の鉛は,不十分なカルシウム摂取ほどには,過剰の鉛曝露のリスクが少ない。現在の大部分のカルシウム摂取源は比較的安全であるが,ラベルに「鉛フリー」の表示があるサプリメントを捜し,多量(1,500mg/日以上)のサプリメント服用は避ける必要がある。
カルシウムの過剰摂取により起こる血液中カルシウムの異常な上昇(高カルシウム血症)は,食品から起こった報告はこれまでなく,カルシウムサプリメントからだけである。軽度の高カルシウム血症は症状がないか,あるいは,食欲減退,吐き気,嘔吐,便秘,腹痛,口内乾燥,口の渇き感,及び頻尿を起こす。さらに重度の高カルシウム血症は,錯乱,精神錯乱,昏睡及び処置しなければ,死に至る。高カルシウム血症は,制酸薬とともに多量のカルシウムサプリメントを摂取した場合,特に消化性潰瘍が多量の牛乳,炭酸カルシウム(制酸薬)及び炭酸水素ナトリウム(吸収可能アルカリ)により処置されたとき,のみ報告されている (1)。この症状は乳アルカリ症候群と呼ばれ,カルシウムサプリメントを1.5~16.5 g/日を2日間から30年間まで摂取した場合に報告されている。消化性潰瘍の治療が変えられたため,この症状の発生率はかなり減少している (3)。
腎臓結石を起こすリスクは,尿中カルシウムが異常に上昇した人(高カルシウム血症)で高くなるが,この症状は常にカルシウム摂取量と相関しているわけではなく,むしろ腎臓によるカルシウム排泄の増加と関係している。全体として,食事からのカルシウム増加は腎臓結石のリスク低下と相関している。一方,大規模前向き研究において,カルシウムサプリメントを摂っている女性における腎臓結石の発症リスクは,サプリメントを摂らない人より20%高かった (25)。この作用は,カルシウムサプリメントを食品なしで摂取し,腸のシュウ酸吸収を軽減する有益作用を消失させるということと関係するのかもしれない。
2010年に,米国医薬品協会の食品栄養委員会は,カルシウムの耐容上限摂取量(UL)を改訂した。年齢群ごとのULを下表に示した。
年齢群 | UL (mg/day) |
---|---|
乳児;0~6ヵ月 | 1,000 |
乳児;6~12ヵ月 | 1,500 |
子供;1~8歳 | 2,500 |
子供;9~13歳 | 3,000 |
青少年;14~18歳 | 3,000 |
成人;19~50歳 | 2,500 |
成人;51歳以上 | 2,000 |
最近の疫学研究からは,高いカルシウム摂取量が前立腺癌のリスク増加と相関するとの懸念が提起されている。米国における大規模前向きコホート研究で,8年間50,000人以上の健康従事者男性が追跡され,カルシウム摂取量が2,000 mg/日以上であった男性が,500 mg/日以下のカルシウム摂取量の人より進行性の前立腺癌発症リスクが3倍高く,転移性前立腺癌の発症リスクが4倍高かった (53)。スウェーデンの症例-対照研究でも同様の結果が認められ,前立腺癌と診断された526人男性のカルシウム摂取量は対照群の536人との比較であった (54)。どちらの研究でも,カルシウム摂取量は,総前立腺癌リスクや非進行性前立腺癌リスクの増加と相関は認められなかった。その後,米国医学者の別の前向き研究で,乳製品からのカルシウム摂取量増加が,前立腺癌リスクの増加と相関があることが認められた (55)。この研究はサプリメント使用を試験したものではなかったが,乳製品からのそれぞれ500 mg/日のカルシウム摂取量増加が,前立腺癌(進行性と非進行性を結合)のリスクの16%増加と相関がみられた。さらにその後,29,133人の男性喫煙者を17年間追跡した前向きコホート研究において,高いカルシウム摂取(>1,000 mg/日)が,前立腺癌のリスク増加と相関が認められた (56)。カルシウム摂取量と前立腺癌との間の相関関係の背景にある生理メカニズムはまだ不明である。食事で摂取した高レベルのカルシウムが,活性型ビタミンDのカルシトリオールの循環レベルを低下させるのかもしれない。前立腺癌の細胞系及び実験動物で実施された実験において,カルシトリオールは予防作用があることが認められた。しかしながら,人において,血清中カルシトリオールレベルと前立腺癌リスクに関して実施された研究において,あまり関連性はみられていない。
全ての疫学研究が,カルシウム摂取量と前立腺癌との間の相関を証明しているわけではない。レビューの一つでは,14の症例-対照研究の中の7つ,及び9つの前向きコホート研究中の5つが,前立腺癌と乳製品摂取の数種の尺度との間に統計的に有意な相関関係を確立していると報告されている。カルシウムの摂取量を試験したそれらの研究の中で,6つの症例-対照研究のうち3つと4つのコホート研究中2つが,前立腺癌とカルシウム摂取量との間に統計的に有意な相関関係を報告している (57)。一方,セルビアの症例-対照研究からは,カルシウム摂取量の増加が前立腺癌リスク低減と相関することが認められた (58)。6例の前向き研究のメタアナリシスにおいて,Gaoらは,1日のカルシウム摂取量が高い男性が,摂取量の低い人と比較し,前立腺癌の発症リスクが39%増加することを報告した。乳製品の摂取量が高い男性は,乳製品の摂取量が低い人より前立腺癌リスクが11%高かった (59)。しかしながら,このメタアナリシスに含まれる各種研究の半分だけが,高いカルシウム摂取量と前立腺癌との間の相関を報告していた。その後のメルボルンでの14,642人男性が参加した共同コホート研究において,カルシウム摂取量は前立腺癌リスクとは相関がみられなかった (60)。Gaoらは,この報告を加えて再度メタアナリシスを行った (59)。彼らは,カルシウム摂取量が高い人が,前立腺癌リスクも32%高かったことを確認したが,7つ全てのメタアナリシスでは,乳製品の摂取量が前立腺癌リスクの増加と何ら関係しないことが示された (60)。研究の間に一致性がないことは,前立腺癌のリスク因子間の複雑な相互作用があることを示唆しており,自由生活型(食道楽)の人におけるカルシウム摂取量を評価する困難さをも反映している。カルシウムと前立腺癌の間の相関関係が明らかににされるまで,男性は,医薬品協会の食品栄養委員会が推奨するカルシウムの総量1,000~1,200 mg/日(食事とサプリメントの両方から)を摂取することが妥当である(RDA参照)。
チアジド系利尿剤(ハイドロクロロチアジドなど)との組合せでカルシウムサプリメントを服用すると,腎臓におけるカルシウムの再吸収が増大し,高カルシウム血症の発症リスクが高くなる。高用量のカルシウムサプリメントは,心臓死予防にジギタリス(ジゴキシン)を服用している人において,不整脈の可能性を高める (61)。カルシウムは,静脈から供給した場合,カルシウムチャンネル遮蔽剤の効果を弱める可能性がある (62)。しかしながら,食事や経口からのカルシウム補給は,カルシウムチャンネル遮蔽薬の作用には影響しないと思われる (63)。カルシウムは,テトラサイクリン系とキノロン系抗生物質,ビスホスフォネート類及びレボチロキシン系薬物の吸収を低下させるため,これらの医薬品とカルシウムが多い食品やサプリメントは2時間空けて服用することが推奨される。H2遮蔽薬(シメチジンなど)やプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾ-ルなど)の使用は,炭酸カルシウムやリン酸カルシウムの吸収を減少させる可能性がある (50, 64)。
カルシウムの存在は,非ヘム由来の鉄(すなわち,大部分のサプリメントと肉以外の食品)の吸収を阻害する。しかしながら,最大12週間までのカルシウム補給は,鉄の栄養状態を変化させないことが確認され,それはおそらく鉄吸収における補完的な増加と考えられる。鉄サプリメントを摂取する人は,鉄の吸収を最適化するために,カルシウムの多い食品またはサプリメントを,2時間は間を空けて摂取するべきである。ラットにおいて,高いカルシウム摂取量は相対的なマグネシウム欠乏を起こすが,カルシウム摂取量は人におけるマグネシウム維持に影響は認められなかった (1)。多くの研究により,高いカルシウム摂取量が,亜鉛吸収や亜鉛の栄養状態に影響することは認められていないが,10人の男女のよる研究から,食事とともにカルシウムを600 mg摂取すると,その食事からの亜鉛吸収を50%まで減少させることが示唆された (65)。
カルシウム密度の高い食事(総カロリーあたりのカルシウム)は,いくつかの研究において,過体重や肥満の発生率を低減させることと相関がみられた。これらの研究は,肥満や体脂肪に及ぼすカルシウムの効果を調べるために設計されたものではなく,その意義は,その後の培養細胞と動物実験から,カルシウム不足が,脂肪細胞が脂肪を蓄積する傾向を高めるホルモン変化と代謝変化を起こすことが示唆されるまでよくわからなかった (66)。2年間の運動試験において,食事から多くカルシウムを摂取することが,参加者が運動グループまたは対照グループの中にいたかどうかにかかわらず,体重減少と相関が認められた (67)。カルシウム補給のプラセボ対照試験では,高齢女性にカルシウムを1,200 mg/日補給したとき,対照群と比較し有意に高い体重減少が認められた (68)。その後,健常女性での1年間の乳製品介入試験(カルシウム1,000~1,400 mg/日)において,対照群(カルシウム <800 mg/日)と比較し,体重や脂肪量に変化がみられなかった (69)が, 6ヵ月追跡時に高用量群(1,300~1,400 mg/日のカルシウム)で,体脂肪の量のわずかな減少が認められた (70)。体脂肪や体重に及ぼすカルシウムの影響が少しでもあるのであれば,カロリーを固定した管理された介入試験が必要である。そのような試験が現在行われている。
Linus Pauling Instituteは,米国医薬品協会の食品栄養委員会によって設定された推奨食事摂取量(RDA)レベルを支持する。これらの推奨に従うと,適正なカルシウムが供給され骨格の健康が増進され,さらにいくつかの慢性疾患リスクの低減にもなる。
最大のピーク骨量の達成を促進するため,子供や青少年は,カルシウム総量(食事とサプリメントから)を1,300 mg/日摂取する必要がある。
成人の身長に到達した後,ピーク骨量に達する人生の30年まで,骨格は骨を蓄積し続ける。最大のピーク骨量の達成を増進し,人生後期の骨量減少を低減するために,成人女性(50歳以下)及び成人男性(70歳以下)は,カルシウムを総量(食事とサプリメント)1,000 mg/日摂取すべきである。
骨量減少を最小化するために,閉経後女性は,カルシウムを総量(食事とサプリメント)で1,200 mg/日摂取すべきである。最低10 g(400 IU)/日のビタミンDを含有するマルチビタミン/マルチミネラル・サプリメントを摂取することが,適正なカルシウムの吸収を確実にするために有用である(ビタミンD参照)。
骨量減少を最小化するために,高齢男性は,カルシウムを総量(食事とサプリメント)で1,200 mg/日摂取すべきである。最低10 g(400 IU)/日のビタミンDを含有するマルチビタミン/マルチミネラル・サプリメントを摂取することが,適正なカルシウムの吸収を確実にするために有用である(ビタミンD参照)。
妊婦及び母乳授乳の女性(19歳未満)は,カルシウムを総量で1,300 mg/日摂取すべきで,妊婦及び母乳授乳の成人女性(19歳以上)は,カルシウムを総量で1,000 mg/日摂取すべきである。
Written in April 2003 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in October 2007 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in October 2007 by:
Connie M. Weaver, Ph.D.
Distinguished Professor and Head of Foods and Nutrition
Purdue University
Does a high calcium intake increase the risk of prostate cancer?
Reviewed in June 2007 by: June Chan, Sc.D.
Associate Professor,Departments of Epidemiology & Biostatistics and Urology
University of California, San Francisco
Last updated 11/30/10 Copyright 2001-2023 Linus Pauling Institute
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目次
三価のクロムは栄養的に不可欠なミネラルとして認識されているが、それが体内でどのように機能するのかについては未だに正確にわかっていない。クロムのもっとも一般的な形態は三価クロムと六価クロムである。三価クロムは食品中での主な形態であり、人体で利用される形態でもある。六価クロムは三価クロムをアルカリ性のpHにおいて加熱することによって得られ、工業用クロムの原料として使用される。強い刺激性があり、吸入すると発がん性を示すことがわかっている。低濃度では、食品中や胃の酸性環境における物質を還元することで六価クロムは三価クロムにたやすく還元され、それによって六価クロムの摂取が防がれている(1-3)。
生物学的活性型の形態のクロムは、インスリンの効果を増進してブドウ糖の代謝に関わる。インスリンは、食後等の血糖値の上昇によって膵臓の特殊な細胞から分泌される。インスリンは細胞表面のインスリン受容体と結合し、それによって受容体を活性化させ、細胞によるブドウ糖の取り込みを促す。インスリン受容体との相互作用を通して、インスリンは細胞にエネルギーとしてブドウ糖を供給し、血糖値の上昇を防ぐ。炭水化物(ブドウ糖)の代謝への効果に加えて、インスリンは脂肪やタンパク質の代謝にも影響する。インスリンへの反応が低下したり、インスリン感受性が低下したりすると、インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)としても知られる耐糖能異常(境界型糖尿病)や、2型糖尿病になる可能性がある。2型糖尿病は、血糖値の上昇とインスリン耐性が特徴である(1)。
生物学的活性型クロムの正確な構造は不明である。最近の研究では、低分子量クロム結合物質(LMWCr)がインスリン受容体のインスリンに対する反応を促進している可能性が示されている。以下はインスリンの作用に対するクロムの効果として提案されたモデルである(下図)。まず、不活性型インスリン受容体がインスリンと結合することで活性型に変わる。インスリン受容体とインスリンの結合は、細胞へのクロムの移動を刺激し、クロムのないLMWCrであるapoLMWCrがクロムと結合することになる。いったんクロムと結合すると、LMWCrはインスリン受容体と結合し、そのチロシンキナーゼ活性を増進する。LMWCrがインスリン受容体を活性化させる能力は、そのクロム含有量に依存する。血糖値の正常化によってインスリン濃度が減少すると、LMWCrはその効果を終了させるために細胞から放出されるのかもしれない(4)。その後の研究では、インスリンによって刺激されるブドウ糖輸送体の細胞膜への移動を促進することで、クロムがインスリンの作用を強めていることが示された(5)。インスリンの作用におけるクロムの効果のメカニズムは、現在研究中である(5-7)。
クロムは鉄の輸送タンパク質であるトランスフェリンの結合部位の1つで鉄と競合する。しかしながら、年配(中高年)の男性に925μg/日のクロムを12週間にわたって服用してもらった結果では、鉄の栄養状態を示す値に重大な影響はなかった(8)。より若い男性の研究では、200μg/日のクロムを8週間にわたって服用した後に、鉄と飽和しているトランスフェリンがわずかに減ったとの結果になったが、この問題を長期間調べた研究はない(9)。遺伝性ヘモクロマトーシスにおける鉄の過負荷は、トランスフェリンとの結合をめぐってクロムと競合することで、クロム輸送を妨げている可能性がある。このことから、クロム輸送の減少が遺伝性ヘモクロマトーシスに伴う糖尿病に関わっているのではないかという仮説が導かれた(1)。
ビタミンCと同時摂取すると、動物でのクロムの摂取が強化される(3)。3人の女性の研究では、100mgのビタミンCを1mgのクロムとともに摂取すると、ビタミンCを同時に摂らない場合に比べて血漿中のクロム濃度が高くなった(1)。
複合糖質(未精白穀物など)に富む食事に比べて、単糖(ショ糖など)を多く含む食事は成人の尿へのクロムの排出を増加させることになる。これは、複合糖質より単糖の消費にインスリン分泌が増加することと関係している可能性がある(1)。
クロムの欠乏症は、点滴液にクロムが補われていない静脈栄養補給を長期間受けた3人の患者で報告されている。これらの患者は異常なブドウ糖消費を示し、クロムの補給に反応してインスリンの所要量が増えた。加えて、栄養失調の幼児における耐糖能異常は、塩化クロムの経口投与に反応を示す。クロムがインスリンの作用を強化するようであること、およびクロム欠乏症が耐糖能異常になることから、クロムの不足は2型糖尿病の進行に寄与する要素であると仮定されてきた(1,10)。
男性ランナーを調べたいくつかの研究では、尿中へのクロムの排出は持久運動によって増え、定期的に運動をする個人にはクロムがより必要である可能性を示唆している(11)。より最新の研究では、抵抗運動(ウェイトリフティング)が中高年男性で尿中へのクロムの排出を増やすことがわかっている。しかしながら、クロムの吸収もまた増加し、抵抗運動の結果としてのクロムの損失はほとんどなかった(12)。
現在では、クロムの栄養状態を決定する感度のよい正確な試験が不足していることから、クロムの不適切な摂取の効果とクロム欠乏症のリスク要因に関する研究は限られている(1,3)。
クロムの必要性に関して推奨量(RDA)を設定するための情報の不足により、米国食品栄養委員会は目安量(AI)を通常の食事におけるクロムの含有量に基づいて設定している(1)。
耐糖能異常を持つ患者を対象とした15の対照試験のうち12の試験で、クロムの補給がブドウ糖消費の値を向上させたり、血中脂質プロフィールに有益な効果があることがわかった(13)。耐糖能異常とは、正常なブドウ糖調節と明白な糖尿病との間のメタボリックな状態をいう。一般に、血糖値が正常より高いが、糖尿病と診断されるには低い状態である。耐糖能異常は心血管疾患のリスク上昇を伴うが、糖尿病のその他の典型的合併症は伴わない。耐糖能異常を持つ個人の約25%から30%が、最終的には2型糖尿病を発症する(14)。一般的に、多様な形でのクロムの補給を約200μg/日の用量で2~3ヶ月行うと、有効であることがわかっている。いくつかの研究における効果のバラ付きや効果がなかった理由ははっきりしないが、クロムの欠乏のみが耐糖能異常の原因として知られているわけではない。加えて、クロムの栄養状態の正確な測定がないことが、クロムの補給によって最も恩恵を受けるであろう患者の識別の妨げになっている(3,15)。最近の15のランダム化臨床試験をメタ分析した結果では、糖尿病でない個人にはブドウ糖やインスリンの濃度にクロムが何の影響もおよぼさないことが報告されている(16)。
耐糖能異常と2型糖尿病は、脂質プロフィールの悪化や心血管疾患のリスクの増大と関連する。クロムの補給が脂質プロフィールに及ぼす影響を調べた研究は、結果の不整合が著しい。ある研究では血清総コレステロール量、LDLコレステロール量、および中性脂肪量の減少またはHDLコレステロール量の増加を示すが、他の研究では何の効果も見られない。クロムの補給に対するそのような脂質およびリポタンパク質濃度の不整合な反応は、クロムの栄養状態の違いを反映している可能性がある。食事からのクロムの摂取が不十分な個人のみが、クロムの補給によって脂質プロフィールに有効な結果を得るということが考えられる。
クロムの補給が除脂肪体重を増加させ体脂肪を減少させるという主張は、クロムとインスリンの作用との関係に基づく(「機能」の項参照)。ブドウ糖の代謝に影響をおよぼすだけでなく、インスリンは脂肪やタンパク質の代謝にも影響することが知られている。少なくとも12のプラセボ対照試験では、運動有りまたは無しでクロムの補給(ピコリン酸クロム200-1,000μg/日)を行って除脂肪体重および体脂肪の値への効果を比べた。一般に、体脂肪と除脂肪体重を最も感度良く正確に測定する方法(二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)やハイドロデンシトメトリー(水中体重秤量法)を用いた研究では、クロムの補給が体組成に与える有益な効果は示されていない(2,17)。
クロム補給の対照試験(ピコリン酸クロム200-400μg/日)では、体重や体脂肪の減少に有益な効果はほとんど示されていないし(18)、ヒトの体重が減少したという主張は誇張されているようである。1997年には、ピコリン酸クロムがヒトの体重および脂肪の減少を促進するという主張には裏付けがないと米国連邦取引委員会(FTC)が断定した(2,15,17)。その後、ピコリン酸クロム補給に関する10のランダム化二重盲検プラセボ対照試験のメタ分析で、ピコリン酸クロムによって1.1kgの体重減少がみられたことが判明した。しかしながら、そのようなわずかな変化は臨床的に関連があるとはいえない可能性がある(19)。そして最近の研究では、ピコリン酸クロムの補給がスルホニル尿素剤を服用している2型糖尿病患者の体重増加を緩和すると報告されている(20)。
2型糖尿病は高い血糖値とインスリン抵抗性が特徴である。2型糖尿病患者のインスリン濃度は健康な個人より高いかもしれないが、インスリンの生理学的効果は低下している。クロムはインスリンの作用を強めることが知られているので、クロムの栄養状態と2型糖尿病の関係は科学的に考慮すべき対象となっていた。2型糖尿病患者は健康な個人よりもクロムの尿中への排出率が高いことがわかっており、2年以上にわたって患っている場合は特にそうである(21)。1997年以前は、よく計画された2型糖尿病患者へのクロム補給に関する研究で血糖値調整に何の向上も見られなかったが、インスリン濃度の減少と血液脂質プロフィールの向上にいくつかのエビデンス(根拠)が示された(22)。1997年に中国で行われたプラセボ対照試験の結果、2型糖尿病の治療にクロム補給が有益である可能性が示された(23)。180人の試験参加者が、プラセボまたは200μg/日および1,000μg/日のピコリン酸クロムを服用した。4ヶ月後、プラセボ(偽薬)を服用した人よりも1,000μg/日の補給をした人の方が血糖値が15~19%低下した。200μg/日の服用をした人はプラセボを服用した人と比べて血糖値に大きな差がなかった。ピコリン酸クロムを200μg/日または1,000μg/日服用した人のインスリン濃度は低かった。長期間の血糖調整を測定するグリコヘモグロビン濃度もクロム補給をしたグループの方が低く、1,000μg/日の服用をしたグループでは特にそうであった。中国人試験対象者のクロムの栄養状態が評価されていない上、肥満の割合が米国における2型糖尿病患者に典型的に見られるよりもずっと低いため、これらの結果を米国に当てはめることは困難である。2型糖尿病の治療におけるピコリン酸クロムの効用を調べたその後の研究がある。15の臨床研究のうち、中国での研究を含む13の研究でピコリン酸クロムが糖尿病患者の血糖調整の少なくとも1つの測定値を向上させることが最近のレビューで報告された(24)。ピコリン酸クロムはその他のクロムサプリメントよりも生物学的に利用可能で、したがってより有効である可能性がある。しかしながら、2型糖尿治療病にクロムが有効かを決定するための2型糖尿病に対するクロム補給の大規模なランダム化対照試験が必要である。
妊娠糖尿病へのクロム補給の効果を調べた研究はほとんどない。妊娠糖尿病は約2%の妊婦に発生し、通常は妊娠期間の第二もしくは第三の三半期にみられる。発達中の胎児への悪影響を防ぐために、血糖値は厳しく調整されなければならない。出産後、耐糖性は一般的に正常に戻る。しかし、妊娠糖尿病を経験した妊婦のうち30~40%が、5~10年以内に2型糖尿病を発症する。妊婦の観察研究では、妊娠後期における耐糖能測定値またはインスリン測定値と血清クロム濃度が関連しているという結果はみられなかったが、血清クロム濃度は組織中のクロム濃度を反映していない可能性がある(25)。8週間にわたって毎日体重1kgあたり4μgのピコリン酸クロムを補給した妊娠糖尿病の妊婦は、空腹時血糖値およびインスリン濃度がプラセボを服用した妊婦よりも低かった。しかしながら、重大な高血糖を正常化するには、ピコリン酸クロムよりもインスリン療法の方が必要である(2,26)。
食品中のクロムの量は変動が大きく、比較的少数の食品でのみ正確に測定されている。現在では、食品中のクロム含有量の大規模なデータベースはない。加工肉、未精白穀物製品、すぐに食べられるふすま入りシリアル、サヤインゲン、ブロッコリ、およびスパイスがクロムを比較的豊富に含む。ショ糖や果糖といった単糖を多く含む食品はクロムが少ないだけでなく、クロムの損失を促進することすらわかってきた(2)。米国でのクロムの推定平均摂取量は、成人女性で23~29μg/日、成人男性で39~54μg/日である(1)。下にいくつかの食品のクロム含有量をマイクログラム(μg)で示す(27)。同じ食品でもサンプル群ごとにクロム含有量が大きく異ることがわかっているため、下表の数字は食品のクロム含有量の目安として捉えなければならない。
三価クロムは、塩化クロム、ニコチン酸クロム、ピコリン酸クロム、および高クロム酵母などの形態で、サプリメントとして入手可能である。これらは、単体のサプリメントまたは他の成分との組み合わせのサプリメントとして販売されている。服用量は通常、クロム元素の量として50~200μg/日である(28)。ニコチン酸クロムとピコリン酸クロムは、塩化クロムよりも生物学的に利用しやすい可能性がある(17)。耐糖能異常や2型糖尿病の研究の多くでは、ピコリン酸クロムがクロム源として使用された。しかし、ピコリン酸クロムのサプリメントの長期間使用に関する安全性について、懸念が示されている(「安全性」の項参照)。
六価クロムは発がん性物質であると認識されている。塵に含まれる六価クロムにさらされると、肺がんの発生が増え、皮膚の炎症(皮膚炎)を引き起こすことが知られている。対照的に、三価クロムは人体に有害であるというエビデンスはほとんどない。食品やサプリメントからの三価クロムの過剰摂取で副作用があったという説得力のある報告がないので、米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)はクロムの許容上限摂取量(UL)を設定していない。情報が限られているので、FNBは三価クロムのサプリメントの大量摂取によって副作用がおこる可能性も認識し、注意を促している(1)。
長期の三価クロム補給による安全性への懸念の大部分は、いくつかの細胞培養研究から出たものであり、三価クロム、特にピコリン酸クロムがDNAの損傷を増大させる可能性を示唆している(29-31)。現在、三価クロムが生体組織のDNA損傷を増やすというエビデンスはない(1)。ピコリン酸クロムを400μg/日摂取した10人の女性の研究では、酸化されたDNAの塩基に対する抗体として測定されるDNAの酸化損傷が増えたというエビデンスはなかった(32)。
いくつかの研究では、毎日最大1,000μgのクロムを数ヶ月服用しても安全であったことが示されている(23,33)。しかし、ピコリン酸クロムへの重大な薬害反応の単独報告もいくつかある。ピコリン酸クロムとしてクロムを6週間にわたって600μg/日摂取した5ヶ月後に、腎不全が報告された(34)。また、ピコリン酸クロムとしてクロムを4~5ヶ月間1,200μg~2,400μg/日使用した後に、腎不全と肝機能障害が報告された(35)。さらに、24才の健康な成人男性がピコリン酸クロムを含むサプリメントを2週間摂取したところ、可逆性の急性腎不全を発症したと報告された(36)。腎臓や肝臓に既存の疾患がある個人は副作用のリスクが高まるかもしれないので、サプリメントでのクロムの摂取を限定すべきである(1)。
ヒトでのクロムに関する薬物相互作用については殆ど知られていない。炭酸カルシウムや、制酸薬を含む水酸化マグネシウムの大量摂取は、ラットではクロムの吸収を減少させる。対照的に、アスピリンおよびインドメタシン(非ステロイドの抗炎症薬)はともにラットでのクロムの吸収を増大させる(3)。
ヒトにおけるクロムの栄養状態を感度良く示す指標がないことから、健康を最大に増進するであろうクロムの摂取量を決定することは困難である。大部分の栄養素の一日摂取量(DV)を100%含むマルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントを摂取するというLPIの推奨に従えば、60-120μg/日のクロムが一般的に摂取できる。これは成人女性で20-25μg、成人男性で30-35μg/日という目安量を大きく上回る。
年齢が高くなるとクロムの需要も増えるのかどうかは知られていないが、髪、汗、および尿のクロム濃度は年齢とともに減少するという研究がある(37)。大部分の栄養素の一日摂取量(DV)を100%含むマルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントを摂取するというLPIの推奨に従えば、大部分の中高年に十分な量のクロムが摂れる。
耐糖能異常や2型糖尿病は潜在的に重大な健康上の問題を伴うので、これらの症状を治療するために高用量のクロムサプリメントの摂取を検討している個人は、有資格のヘルスケア提供者と連携して摂取すべきである。
Written in April 2003 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in September 2007 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in September 2007 by:
Richard A. Anderson, Ph.D.
Lead Scientist
Beltsville Human Nutrition Research Center
Beltsville, Maryland
Copyright 2001-2023 Linus Pauling Institute
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目次
非金属微量元素であるヨウ素は、ヒトの甲状腺ホルモンの合成に必要である。ヨウ素の欠乏は世界の多くの地域における重要な健康問題である。地球上のヨウ素の大部分は海に存在し、土壌のヨウ素の含有量は地域によって異なる。むき出しになった土壌表面が古いほど、ヨウ素は侵食によって浸み出してしまっている可能性が高い。ヒマラヤ、アンデス、アルプスといった山岳地帯や、ガンジス川のような洪水のあった川の流域は、世界でも最もひどくヨウ素が欠乏している地域に挙げられる(1)。
ヨウ素は甲状腺ホルモンであるトリヨードチロニン(T3)とチロキシン(T4)の必須成分で、したがって甲状腺が正常に機能するために不可欠である。人体の甲状腺ホルモンの需要に答えるために、甲状腺は血液からヨウ素を捕捉し、甲状腺ホルモンにそれを取り込む。その甲状腺ホルモンは貯蔵され、必要に応じて血液に放出されて循環する。肝臓や脳といった標的組織では、生理学的活性を持つT3が細胞核の甲状腺ホルモン受容体と結合し、遺伝子発現を制御する。標的組織では、脱ヨード酵素として知られるセレン含有酵素によって、最も多く循環している甲状腺ホルモンであるT4がT3に変換される。このようにして甲状腺ホルモンは、成長、発達、代謝、生殖機能を含む多数の生理学的プロセスを制御している。(1,2)。
甲状腺機能の制御は、脳(視床下部)や脳下垂体も関係する複雑なプロセスである。視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌により、脳下垂体が甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌する。これが甲状腺によるヨウ素の捕捉、甲状腺ホルモンの合成、およびT3やT4の放出を促進する。T4やT3が適切に循環して視床下部や脳下垂体のホルモン濃度にフィードバックされ、TRHやTSHの生成を減少させる(下図)。循環しているT4の濃度が減少した際には、脳下垂体がTSHの分泌を増やす。それによりヨウ素の捕捉が増え、T3およびT4の生成と放出も増える。ヨウ素が欠乏すると、T4の生成が不十分になる。血液中のT4の濃度が下がると、脳下垂体はTSHの排出量を増やす。TSH濃度が常に高いと、甲状腺腫としても知られる甲状腺肥大を引き起こす可能性がある(「欠乏症」の項参照)(3)。
視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌により、脳下垂体が甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌する。これが甲状腺によるヨウ素の捕捉、甲状腺ホルモンの合成、およびT3(トリヨードチロニン)やT4(チロキシン)の放出を促進する。食物からのヨウ素の摂取が十分であると、T4やT3が適切に循環して視床下部や脳下垂体のホルモン濃度にフィードバックされ、TRHやTSHの生成を減少させる。循環しているT4の濃度が減少した際には、脳下垂体がTSHの分泌を増やす。それによりヨウ素の捕捉が増え、T3およびT4の生成と放出も増える。食事から摂取するヨウ素が欠乏すると、T4の生成が不十分になる。血液中のT4の濃度が下がると、脳下垂体はTSHの排出量を増やす。TSH濃度が常に高いと、甲状腺腫としても知られる甲状腺肥大を引き起こす可能性がある。
ヨウ素の欠乏は、予防可能な脳損傷の最も一般的な原因として世界中で認められている。ヨード欠乏症(IDD)の症状は、精神遅滞、甲状腺機能低下症、甲状腺腫、および様々な程度のその他の成長上や発達上の異常などを含む(1,4)。WHOは世界人口の30%以上(20億人)が、ヨウ素の栄養状態を示す尿中への排出ヨウ素濃度が100マイクログラム(μg)/リットル未満で、ヨウ素の摂取が不十分であると推定している。さらに、世界中の学童期(6~12歳)の子供のうち推定31.5%(2億6,600万人)は、ヨウ素の摂取が不足している(5)。大規模な国際的取り組みの結果、ヨウ素不足の国でのヨウ素添加塩の使用などにより、1990年代にヨウ素の欠乏は劇的に是正された(6)。今日では、世界の70%の世帯がヨウ素添加塩を使用している(7)。ヨード欠乏症を根絶するための国際的取り組みについては、ヨード欠乏症国際対策機構(ICCIDD)やWHOのウェブサイトを参照されたい。
甲状腺腫である甲状腺肥大は、ヨード欠乏症の最初の最も明白な兆候の一つである。甲状腺は、持続的なTSHの刺激によって肥大する(「機能」の項参照)。軽度のヨード欠乏症では、十分な甲状腺ホルモンがこれによる反応だけで人体に供給される可能性がある。しかし、もっと重度のケースのヨード欠乏症では、甲状腺機能低下症に陥る。適切にヨウ素を摂取することで甲状腺腫の大きさは一般的に小さくなるが、甲状腺機能低下症の可逆性は個人の発育段階によって異なる。ヨード欠乏症は発育のすべての段階において悪影響を及ぼすが、発達途上の脳に最も損害を与える。成長や発達の様々な側面の制御だけでなく、出生前および産後すぐに最も活発となる中枢神経系の髄鞘形成に、甲状腺ホルモンは重要である(2,6)。
胎児のヨウ素欠乏は、母体のヨウ素欠乏に起因する。母親のヨウ素欠乏による最も深刻な影響の一つが、先天性甲状腺機能低下症である。重度の先天性甲状腺機能低下症は時にクレチン病と称される症状になり、不可逆性の精神遅滞に至る可能性がある。クレチン病は2つの形態で起こるが、それらにはかなりの症状の重複が見られる。神経性の症状では、精神や身体発育の遅滞および聴覚消失が特徴で、胎児の甲状腺が機能する前に胎児に影響する母体のヨウ素欠乏の結果である。粘液水腫性または甲状腺機能低下性の症状は、低身長および精神遅滞が特徴である。甲状腺機能低下性の症状は、ヨウ素欠乏に加えてセレン欠乏を伴い(「栄養素の相互作用」の項参照)、甲状腺ホルモン生産を阻害する食事中の甲状腺腫誘発物質と関係する(「甲状腺腫誘発物質」の項参照)(8)。
ヨウ素欠乏地域では乳児の死亡が増え、ヨード欠乏症を治すことで子供の生存率が上がることがいくつかの研究で示されている(9)。乳児期は急速な脳の成長および発達の時期である。適切なヨウ素の摂取による十分な甲状腺ホルモンが正常な脳の発達に欠かせない。先天性甲状腺機能低下症がなくても、乳児期のヨード欠乏は、異常な脳の発達やその結果としての知的障害に至る可能性がある(10)。
子供や青少年のヨウ素欠乏は、しばしば甲状腺腫を伴う。甲状腺腫の発生は青少年期にピークとなり、女子に多い。ヨウ素欠乏地域の学童は、ヨウ素が十分な地域の学童に比べて学業成績が不振で、IQが低く、学習障害の発生率が高い。18の研究のメタ分析により、ヨード欠乏症だけで子供の平均IQが13.5%低下したと結論づけられた(11,12)。
成人では、不適切なヨウ素の摂取によって、甲状腺腫や甲状腺機能低下症になる可能性がある。甲状腺機能低下症の影響は、成人の脳では子供よりも軽微であるが、甲状腺機能低下症によって応答時間が鈍化したり、精神機能が損なわれたりする(1)。甲状腺機能低下症のその他の症状としては、疲労、体重増加、寒冷不耐性、および便秘などがある。
妊娠中および授乳中の女性は、ヨウ素の需要が増える(「RDA」の項参照)(6)。妊娠中のヨード欠乏症は、流産、死産、および先天性異常の発生と関係がある。しかも、妊娠中の深刻なヨード欠乏症は、出生児の先天性甲状腺機能低下症や神経認知欠損になる可能性がある(「出生前の発育」の項参照)(6,8)。ヨード欠乏症の授乳中の女性は、ヨード欠乏症の影響を特に受けやすいその子供たちに十分なヨウ素を供給できない可能性がある(「新生児および乳児」の項参照)(1)。米国甲状腺学会が推奨するように(13)、出生前に毎日150μgのヨウ素サプリメントを服用することは、米国の妊娠中および授乳中の女性がこれらの危険期に十分なヨウ素を確実に摂取することに役立つであろう。
ヨウ素の欠乏が甲状腺による血液中のヨウ素の捕捉を増加させるので、ヨード欠乏症の個人はすべての年齢で、放射線誘発性甲状腺がん(「疾病の予防」の項参照)やヨウ素に起因する甲状腺機能亢進症(「安全性」の項参照)になりやすい(1)。
セレンの欠乏がヨード欠乏症を悪化させることがある。ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に欠かせないが、セレンに依存する酵素(ヨードチロニンデヨージナゼ)も、チロキシン(T4)が生物学的活性を持つ甲状腺ホルモンであるトリヨードチロニン(T3)に変換されるのに必要である(6,8)。加えて、ビタミンAまたは鉄の欠乏が、ヨード欠乏症を悪化させる可能性がある(6,14)。
食物の中にはヨウ素の利用や甲状腺ホルモンの生産を妨げる物質を含むものがあり、これらの物質は甲状腺腫誘発物質と呼ばれる。コンゴ民主共和国における甲状腺腫の発生は、キャッサバを食したことと関係する。これはチオシアン酸塩に代謝される化合物を含み、甲状腺によるヨウ素の摂取を阻害する。ある種のキビおよびアブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリ、カリフラワー、および芽キャベツなど)も甲状腺腫誘発物質を含む。さらに、大豆イソフラボン、ゲニステイン、およびダイゼインが甲状腺ホルモンの合成を阻害することがわかっている(15)。これらの甲状腺腫誘発物質の大部分は、大量に摂取したりヨード欠乏症時に摂取したりしない限り、臨床的に問題ではない。最近では、喫煙がヨウ素欠乏地域における甲状腺腫のリスクの増大に関連している可能性があることが示された(16)。
適切なヨウ素強化プログラムなしでヨウ素欠乏地域に住む人々のヨード欠乏症のリスクはよく認識されているが、ヨウ素が十分だと思われている国でも、ある集団はヨウ素を適切に摂取していないのではないかという懸念が持ち上がっている。ヨウ素添加塩、魚、および海藻を摂らない菜食主義および非菜食主義の食事は、ヨウ素がほとんど含まれていないことが判明している(1,6,17,18)。尿中へのヨウ素の排出の研究によれば、ヨウ素の摂取はスイス(19)、ニュージーランド(20)、および米国(21)で減っていることが示唆されている。これはおそらく塩分摂取を減らす食事の推奨に固執する人が増えたからであろう。しかし、米国での2003~2004年の全国健康栄養調査のデータでは、ヨウ素の摂取は安定し(22)、米国は現在ヨウ素が足りていると考えられている。また、スイスにおける子供や妊婦のヨウ素の栄養状態が、1998年にヨウ素添加塩のヨウ素濃度の増加が義務付けられた後で改善したことが最近の研究でわかった(19)。スイスも現在ではヨウ素が足りていると考えられている(23)。
ヨウ素のRDAは、2001年に米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)によって再評価された。推奨量は、正常な甲状腺機能を持つ個人の甲状腺へのヨウ素蓄積量を測定する方法を含むいくつかの方法を用いて計算された(6)。これらの推奨量は、ヨード欠乏症国際対策機構、世界保健機構、およびユニセフの推奨量と一致している(2)。
放射性ヨウ素、特にヨウ素131Iは、原子炉事故の結果として環境中に放出されることがある。放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積は、特に子供で甲状腺がんのリスクを高める。ヨウ素欠乏状態で甲状腺のヨウ素捕捉活動が高まると、放射性ヨウ素(131I)の甲状腺への蓄積が増えることになる。したがって、ヨード欠乏症の個人は放射線誘発性甲状腺がんの発症の危険性が高まる。なぜならそうした個人は放射性ヨウ素をより多く蓄積することになるからだ。原子炉事故による放射線被曝の48時間前または8時間後以内に薬理学的服用量のヨウ化カリウム(成人に50~100mg)を投与すると、甲状腺のヨウ素131Iの摂取を著しく減らすことができ、放射線誘発性甲状腺がんのリスクを減らすことができる(24)。1986年のチェルノブイリ原子炉事故後に、ポーランドで予防としてヨウ化カリウムを迅速に広範囲で使用したことが、ヨウ化カリウムによる予防が広く行われなかった放射性物質の降下地域に比べてポーランドでの子供の甲状腺がんの発生に著しい増加が見られなかったことを説明している可能性がある(25)。米国では、原子力発電所からの重大な放射性物質放出の事態における一般大衆の防護措置として、ヨウ化カリウムの使用を考慮することを原子力規制委員会(NRC)が要求している(26)。
繊維嚢胞性乳腺症とは、良性の(がんでない)乳房の状態で、片方または両方の乳房にしこりや不快感があるのが特徴である。エストロゲンで治療したラットでは、ヨード欠乏症によって繊維嚢胞性乳腺症に見られるものと似た変化が現れたが、ヨウ素を再補充してやるとこれらの変化が元に戻った(27)。繊維嚢胞性乳腺症の233人の女性を対象とした非対照研究(比較群を設定しない研究)では、ヨウ素分子(I2)の水溶液を毎日体重1kgあたり0.08mgの分量で6~18ヶ月間服用することで、70%以上が痛みやその他の症状がよくなった(28)。約10%の試験参加者が副作用を報告したが、それは研究者が軽微とみなすものだった。繊維嚢胞性乳腺症を持つ56人の女性によるヨウ素分子水溶液の二重盲検プラセボ対照試験(体重1kgあたり0.07~0.09mgのI2を毎日6ヶ月間)では、ヨウ素分子水溶液を服用した女性の65%が症状の改善を報告したのに対して、プラセボを服用した女性では33%であった(28)。近年行われた胸の痛みの記録がある111人の女性の二重盲検プラセボ対照臨床試験では、ヨウ素分子(3mg/日または6mg/日)を5ヶ月間服用することで全体的に痛みが軽減した(29)。この研究では、ヨウ素分子の服用量が最も高かった女性の半数以上が胸の痛みが50%以上軽減したと自己評価したのに対して、プラセボを服用した女性では8.3%だった。繊維嚢胞性乳腺症に対するヨウ素分子の治療効果を決定するには、大規模な対照臨床試験が必要である。これらの研究で使用されたヨウ素の服用量(体重60kgで3~7mg/日)は、米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)が推奨する許容上限摂取量(UL)よりも数倍高く、医師の管理下でのみ使用されるべきである(「安全性」の項参照)。
大部分の食品のヨウ素含有量は、土壌のヨウ素含有量に依存する。海洋動物は海水からヨウ素を濃縮できるので、シーフードはヨウ素が豊富である。ある種の海藻(わかめなど)も、ヨウ素を非常に多く含む。加工食品は、ヨウ素酸カルシウムやヨウ素酸カリウムといった食品添加物またはヨウ素添加塩を加えてあるため、ヨウ素濃度が若干高い可能性がある。米国では動物の餌にヨウ素が一般に添加されているため、乳製品は比較的良好なヨウ素の摂取源である。英国および北欧では、ヨウ素含有量の低い牧草地で牛が草をはむ夏に、乳製品のヨウ素濃度が低下する傾向がある(6)。下表はヨウ素を豊富に含む食品のヨウ素含有量をマイクログラム(μg)で示したものである。ヨウ素の含有量は食品によって大きく変化するので、これらの数値は近似値とみなされるべきである(30)。
ヨウ化カリウムは、典型的にはマルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントのような、他の成分との組み合わせの栄養補助食品として入手可能である。ヨウ化カリウムの全重量の約77%がヨウ素である(15)。ヨウ素の一日摂取量(DV)を100%含むマルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントで、150μgのヨウ素が摂取できる。米国民の大部分はヨウ素添加塩や食品添加物によって十分なヨウ素を食事から摂取しているが、150μg/日のヨウ素を追加して摂取してもヨウ素摂取過多にはなりにくいであろう。(「安全性」の項参照)。
ヨウ化カリウムおよびヨウ素酸カリウムがヨウ素添加塩に使用されていることがある。米国およびカナダでは、ヨウ素添加塩1gあたり77μgのヨウ素を含む。その他の国では、塩1gあたり通常20~40μgのヨウ素を含む。ヨウ素の添加濃度は、その他の摂取源からのヨウ素の摂取量や毎日の塩の消費量などの変数で変わってくる。ヨウ素添加植物油の年間摂取量も、ヨウ素の摂取源として変数に使用する国もある(2,15)。
急性のヨウ素中毒はまれで、普通は何グラムも服用した場合にのみ起こる。急性ヨウ素中毒の症状は、口、喉、および胃の灼熱感、発熱、吐き気、嘔吐、下痢、弱脈、および昏睡である(6)。
自然食品の食事で2,000μg/日より多いヨウ素を摂取することはまれであり、大部分の食事では1,000μg/日未満である。食事に多量の海藻を含む北日本の海岸地域に住む人々は、50,000~80,000μg/日(50~80mg/日)のヨウ素を摂取していることがわかっている(1)。
ヨウ素欠乏状態では:ヨウ素不足の人々へのヨウ素補給プログラムで、主に年配者や多結節性甲状腺腫を持つ人々にヨウ素誘発性の甲状腺機能亢進症(IHH)の発生が増えた。ヨウ素欠乏状態の人々では、150~200μg/日のヨウ素摂取でIHHの発生が増えることがわかっている。ヨウ素の欠乏によって、正常な甲状腺の調節システム(「機能」の項参照)に反応しない自発的な甲状腺結節になるリスクが高まり、ヨウ素補給の後で甲状腺機能亢進症になる。IHHはヨード欠乏症であると考える専門家もいる。一般に、ヨウ素不足の人々への小さなリスクよりも、ヨウ素供給プログラムによる大きな利益の方が勝っている(1,31)。
ヨウ素充足状態では:ヨウ素が足りている人々(米国民など)では、過剰なヨウ素摂取が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中濃度の上昇、甲状腺機能低下症、および甲状腺腫に関連することが最も一般的である。TSH濃度のわずかな上昇が甲状腺ホルモンが不適切に生成されていることを示すとは必ずしも限らないが、それはヨウ素摂取が過剰な場合の甲状腺機能の異常を示す最初の兆候である。ヨウ素が十分な成人では、1,700~1,800μg/日のヨウ素摂取でTSH濃度が上昇することがわかっている。甲状腺機能低下症を発症するリスクを最小限にするため、米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)は、ヨウ素の許容上限摂取量(UL)を成人で1,100μg/日に設定している。非常に高用量の(薬理学的服用量の)ヨウ素は、TSHによる甲状腺の刺激が高まることで甲状腺肥大(甲状腺腫)を引き起こす可能性がある。18,000μg/日(18mg/日)を超す量を長期間摂取することで、甲状腺腫の発生が増えることがわかっている。ヨウ素のULを年齢層ごとに下表に示す。ULは、医師による管理下でヨウ素による治療を受けている個人に適用されるものではない(6)。
年齢層 | UL(μg/日) |
---|---|
乳児(0-12ヶ月) | 設定不能* |
幼児(1~3歳) | 200 μg/日 |
子供(4-8歳) | 300 μg/日 |
子供(9-13歳) | 600 μg/日 |
青少年(14-18歳) | 900 μg/日 |
成人(19歳以上) | 1,100 μg/日(1.1 mg/日) |
*摂取源は食物および人工乳のみであるべきである。 |
ヨード欠乏症、結節性の甲状腺腫、または自己免疫性甲状腺疾患を持つ個人は、一般の人々には安全であると考えられている摂取量でも敏感であり、ヨウ素摂取のULでは安全でない可能性がある(6)。嚢胞性線維症を持つ子供も、ヨウ素の過剰摂取による有害作用に対してより敏感である可能性がある(32)。
観察研究によって、ヨウ素の摂取増加が甲状腺乳頭がんの発生増加と関連することがわかった。この理由ははっきりしない。以前にヨウ素不足だった人々では、塩へのヨウ素添加計画で相対的に甲状腺乳頭がんの増加が増え、甲状腺濾胞がんが減った。一般に、甲状腺乳頭がんは甲状腺濾胞がんよりも侵攻性が弱く、予後も良い(33)。
異常な心臓鼓動の予防に使用される薬のアミオダロンはヨウ素の含有量が高く、甲状腺の機能に影響する可能性がある。プロピオチオウラシル(PTU)やメチマゾールといった甲状腺機能亢進症の治療薬は、甲状腺機能低下症のリスクを増やす可能性がある。さらに、薬理学的服用量のヨウ化カリウムと一緒にリチウムを使用すると、甲状腺機能低下症になる可能性がある。また、薬理学的服用量のヨウ化カリウムは、ワルファリンの抗凝固効果を下げる可能性がある(6,32)。
ヨウ素のRDAは、甲状腺の正常な機能を十分に保証する。今日では、RDAより多くヨウ素を摂取しても利益があるというエビデンス(根拠)はない。米国の大部分の人々は食事で十分なヨウ素を摂取しており、補給は不要である。胎児の発育期と乳児期に十分なヨウ素を摂ることが重要であるので、妊婦および授乳中の女性は150μg/日のヨウ素を補給するサプリメントの服用を考慮すべきである(「欠乏症」の項参照)。
加齢によってヨウ素の需要が著しく変化するということはないので、中高年にもヨウ素の摂取に関する推奨に変化はない。
Written in April 2003 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in March 2010 by:Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in March 2010 by:
Elizabeth N. Pearce, MD, MSc.
Associate Professor of Medicine
Section of Endocrinology, Diabetes, and Nutrition
Boston University School of Medicine
Copyright 2001-2024 Linus Pauling Institute
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目次
セレンは少量で必須の微量元素であるが,全ての必須元素と同様に,高レベルでは毒性を示す。人や動物は,セレノタンパク質とも呼ばれる多数のセレン依存性酵素の機能のためにセレンを必要とする。セレンタンパク質合成時に,セレノシステインは,機能性タンパク質を生成するために,アミノ酸配列中の極めて特異的な位置に導入される。動物と異なり,植物は生存にセレンを必要としないと考えられる。しかしながら,セレンが土壌中に存在すると,植物はセレンを非特異的にイオウ含有化合物へ取り込む (1)。
少なくとも25種のセレノタンパク質が同定されているが,代謝機能が確認されているのは,それらの半分程度である (2)。
以下のセレノタンパク質について,機能が確認されている。
5種のセレン含有グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)が確認されている。細胞質型または古典型GPx,血漿型または細胞外型GPx,リン脂質ヒドロペルオキシド型GPx,消化器型GPx,嗅覚器型GPxの5種である (2)。各々のGPxは異なるセレノタンパク質であるが,それらは全て,グルタチオンの酸化と自身の還元と連動して,過酸化水素や脂質過酸化物のような活性酸素種(ROS)を分解し,水やアルコールに無害化し減少させる能力がある抗酸化酵素である(図参照)。酸化的損傷から発育精子を保護し,後に成熟精子に必要な構造タンパク質を形成する抗酸化酵素である精子ミトコンドリア鞘中のセレノタンパク質は,かつては別のセレノタンパク質と考えられていたが,現在ではリン脂質ヒドロペルオキシド型GPxと考えられている (3)。
過酸化水素1分子が2分子の水へ還元され,グルタチオン(GSH)2分子が,セレノ酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼによる触媒反応で酸化される。酸化型グルタチオンは,フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性酵素のグルタチオン還元酵素により還元される。
化合物チオレドキシンと協同し,チオレドキシン還元酵素は,おそらくビタミンCを含む数種の抗酸化物質の再生に関与する。チオレドキシン還元酵素により還元型チオレドキシンを維持することが,細胞の生育と生存力の制御に重要である (2,4)。
甲状腺は,極少量の生物学的に活性のある甲状腺ホルモン(トリヨードチロニンまたはT3),及び多量の不活性型甲状腺ホルモン(チロキシンまたはT4)を循環器系に放出する。循環器系及び細胞内に存在する生理活性型のT3の大部分は,セレン依存性のヨードチロニン脱ヨウ素酵素による触媒反応でT4からヨウ素1原子を除去することによって生成する。3種のセレン依存性ヨードチロニン脱ヨウ素酵素(タイプI,II及びIII)は,T3,T4または他の甲状腺ホルモン代謝物に作用し,甲状腺ホルモンを活性型と不活性型の両方にすることができる。従って,セレンは,甲状腺ホルモン制御の役割があるため,正常な発生,発育及び代謝に必須の元素である (2,5)。
セレノタンパクPは血漿中に存在し,血管内皮細胞(血管内壁に位置する細胞)とも関係している。セレノタンパク質Pの主要な機能は,セレンを輸送することと考えられる (6)。このタンパクは,活性窒素種(RNS)である過酸化亜硝酸のような化合物による損傷から内皮細胞を保護する抗酸化剤としても働く (7)。
セレノタンパクWは筋肉中に存在する。その機能は今のところ不明であるが,筋肉の代謝に役割を持つと考えられている (8)。6種の異なる動物由来のセレノタンパクWは約80%の相同性がある (9)。セレノタンパクWの追加情報は,
セレノシステインのセレノタンパクへの組み込みは,遺伝子コードにより指示され,セレノリン酸合成酵素を必要とする。セレノタンパク自体もセレノリン酸合成酵素で,セレノタンパク合成に必要なセレノシステイン前駆体であるリン酸一セリンの合成を触媒する (2)。
メチオニン-R-スルホキシド還元酵素は,2つの別々の試験室によってセレノタンパクR及びセレノタンパクXとして最初に同定された。しかしながら,その後の研究で,このタンパク質が,還元剤としてチオレドキシンを利用する反応において,酸化型のメチオニン残基の立体特異的な還元反応を触媒することが明らかにされた。この特異的なセレノタンパクには2つの型が存在する (2)。
Sep 15は,細胞の小胞体に位置する哺乳類のタンパク質である。ここで,Sep 15は,タンパク質の折畳みを感知する酵素であるUGGT(UDP-グルコース:糖タンパク質/グルコシルトランスフェラーゼ)と結合する。Sep 15は酸化還元機能を持ち,がん予防とも関連している (2)。
セレノタンパクVは精巣だけに発現し,精子形成に働くと考えられている (2)。
セレノタンパクSは,小胞体から細胞基質(サイトゾル)へのタンパク質の誤った折畳みを復帰転写することに関与している。このタンパク質は,炎症反応や免疫応答にも関与している (2)。
グルタチオンペルオキシダーゼとチオレドキシン還元酵素の必須部分として,セレンは細胞の酸化還元状態に関係する栄養成分と相互作用する(すなわち,酸化促進剤/抗酸化剤バランス)。抗酸化性酵素の重要成分である他のミネラル類は,銅(スーパーオキシド・ジスムターゼとして),亜鉛(スーパーオキシド・ジスムターゼとして)及び鉄(カタラーゼとして)である。グルタチオンペルオキシダーゼとしてのセレンは,脂質酸化を抑制するビタミンE(α-トコフェロール)の活性も助けると思われる。動物実験から,セレンとビタミンEが互いを補い,セレンが酸化ストレスにおいてビタミンE欠乏から起こる障害をいくつか抑制すること示唆されている (10)。さらに,チオレドキシン還元酵素は,酸化型ビタミンCのデヒドロアスコルビン酸からのビタミンC再生を触媒し,ビタミンCの抗酸化作用を維持する (6)。
セレン欠乏は,ヨウ素欠乏の影響を悪化させる。ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に必須であるが,ヨードチロニン脱ヨウ素酵素と呼ばれるセレノ酵素も,チロキシン(T4)から生理活性のある甲状腺ホルモンのトリヨードチロシン(T3)への変換に必要とされる。少数の高齢者におけるセレン補給が血液中のT4を減少させ,脱ヨウ素活性が高くなってT4からT3への変換率が高くなることが示唆された (1)。
セレンの摂取不足は,数種のチオレドキシン還元酵素や甲状腺脱ヨウ素酵素だけでなく,グルタチオンペルオキシダーゼの活性低下を引き起こす。重度の場合でも,セレン欠乏だけでは,通常は明らかな臨床症状は起こさない。しかしながら,セレン欠乏者は,さらに生理的ストレスに対する感受性が増すと考えられる (11)。
臨床的なセレン欠乏症は,継続的にセレン添加のない完全非経口栄養(TPN)を受けている慢性疾病患者に認められている。これらの患者において,筋力低下,筋消耗,心筋症(心筋の炎症と損傷)が観察されている。TPN液は,現在そのような問題を防止するためセレンが添加されている。小腸の大部分を外科除去された人やクローン病のような重度の胃腸障害の人もまた,吸収障害によるセレン欠乏リスクがある。フェニルケトン尿症(PKU)のような代謝障害の治療に用いられる特別な医療食は,しばしばセレン含量が低い。長期間にわたりそればかりが使用される特定用途食は,セレン補給が必要かどうか判断するためにセレン含量を調査すべきである (11)。
ケシャン病は,中国のセレン欠乏地域の若い女性と子供がかかる心筋症である。この疾病の急性症状は,心不全の突然の発症により特徴付けられ,慢性型は,中度~重度の心臓肥大を引き起こし,心不全の程度によってその症状が異なる。ケシャン病の発生率は,食事からのセレン摂取量が極めて低いことと乏しいセレンの栄養状態と密接に相関している。セレンの補給はケシャン病を発症している人の予防になるが,一度発症した心筋損傷を元に戻すことはできない (11,12)。セレン欠乏がケシャン病の病因の中の基本的因子であるとの強い証拠はあるが,その発生の季節変動や年度変動から,セレン欠乏に加えて感染病原体が関与していることが示唆される。コクサッキーウィルスは,ケシャン病患者から単離されたウィルスの一種で,セレン欠乏マウスにおける研究において,このウィルスが,心筋炎と呼ばれる心臓の炎症を起こすことが認められている。マウスの研究においても,セレン欠乏により誘発される酸化ストレスが,ウィルスゲノムの変化を起こす。そのようなゲノム変化が,比較的毒性の低いウィルス株を心筋炎誘発性の株へ変換する (13,14)。ケシャン病と診断されなくても,セレン欠乏症は,心筋に侵入し障害を起こす作用を持つさらに毒性の強いウィルス株を発生させる可能性がある。セレンとウィルス感染に関する追加情報は「疾病の予防」参照。
カシンベック病は,関節間の軟骨の退化により特徴づけられ(骨関節炎),中国北部,北朝鮮及びシベリア東部の各地域における乏しいセレン状態と関係している。この疾病は,5~13歳の子供がかかる。重度の疾病症状は,関節の奇形と矮小化を起こす。ケシャン病と異なり,セレンの栄養状態を改善することがカシンベック病の予防になるとの証拠はほとんどない。そのため,カシンベック病の病因におけるセレン欠乏の役割はあまり確実ではない。穀類中のカビ毒,ヨウ素欠乏及び汚染した飲料水など,多くの他の要因がカシンベック病について提案されている (11,12)。
RDAは,医薬品協会の食品栄養委員会(FNB)により2000年に改訂された。最新のRDAは,血漿中の抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼの活性を最大化するために必要な食事からのセレン量に基づいている (15)。
セレンの欠乏は,免疫系の機能損傷と関係している (16)。さらに,明らかにセレンが欠乏していない人でのセレン補給は,免疫反応を刺激すると考えられる。2つの小規模研究において,セレンを亜セレン酸ナトリウムとして200 μg/日を8週間補給された健常者 (17,18) と免疫抑制のある人 (19) が,対照群と比較し,生体外抗原に対する免疫細胞の応答を増感することが認められた。かなり多くの基礎研究から,セレンが,免疫反応を組織化するサイトカインと呼ばれる細胞のシグナル伝達物質の発現を制御する役割を担うことが示されている (20)。
セレン欠乏は,ある種のウィルス感染症の毒性や進行を増強すると考えられる。セレン欠乏に起因する酸化ストレスの増加は,いくつかのウィルス遺伝子の突然変異や発現の変化を誘発する可能性がある。セレン欠乏マウスに,比較的無害なコクサッキーウィルス株を接種したとき,ウィルスをさらに有害化させるウィルスゲノムの突然変異を発生させ,心筋炎といわれる心筋の炎症を誘発した。一度変異すると,このウィルスは,毒性の増強が,宿主の免疫系に及ぼすセレン欠乏の効果というよりも,むしろウィルスの変化によることが確認されたことから,セレン欠乏でないマウスにも心筋炎を誘発する。細胞質型(古典型)グルタチオンペルオキシダーゼ酵素を欠損したマウス(GPx-1ノックアウトマウス)の研究から,細胞質型グルタチオンペルオキシダーゼが,以前は良性であったウィルスのゲノムにおける突然変異に起因する心筋炎に対して,保護作用を持つことが確認された。セレン欠乏症は,グルタチオンペルオキシダーゼ活性を低下させ,ウィルスゲノムの酸化的損傷と突然変異率を増加させる。数名のケシャン病患者の血液から単離されたコクサッキーウィルスは,人におけるセレン欠乏に関係する心筋症発症の補助因子であることが示唆されている (21)。
高レベルでのセレン補給が,実験動物でがん発生頻度を低減することを示す多数の証拠がある。20種の動物モデルにおける自然発生,ウィルス性及び化学物質が誘発するがんについて報告された100以上の研究のうちの2/3以上から,セレン補給が腫瘍の発生頻度を有意に低減することが認められている (22)。セレンのメチル化体が,腫瘍に対する活性化学種で,メチル化セレン化合物が,過剰のセレン摂取で多量に産生することが示されている (23)。セレン摂取量と人におけるがんとの関係,及びセレン状態と動物における腫瘍発生頻度との関係が,要約されている (24)。
地域的な研究では,一貫して土壌中のセレン濃度が低く,食事からのセレン摂取量が比較的低い集団において,がんによる死亡率が高いことが認められている。セレン摂取量の変動が少ない集団におけるがん発生率についての疫学研究結果はあまり一致性がないが,そのような研究からも,セレンレベル(血液及び爪)の低い人が数種のがんの発生率も高い傾向が認められている。一方,この傾向は女性ではさほど顕著ではない。例えば,米国における60,000人以上の看護婦による前向き研究で,足指爪のセレン含量と全体のがんリスクとの間に相関が認められなかった (25)。
ウィルス性肝炎と喫煙は,様々ながんリスクを増加させることが知られており,低い食事からのセレン摂取がさらにがんリスクを高めるかもしれない。ウィルス性のB型肝炎やC型肝炎の慢性的感染は,有意に肝臓癌リスクを高くする。慢性のウィルス性B型またはC型肝炎である台湾男性の研究において,低い血漿中のセレン濃度が,肝臓癌のさらに高いリスクと相関がみられ,喫煙者と血漿中のビタミンAや他のカロテノイドレベルが低い人において,セレンレベルと肝臓癌との間の逆相関が強くなった (26)。9,000人以上のフィンランド男女における前向き研究内の症例-対照研究において,後に肺癌と診断された95人の血清中セレンレベルが,対照群190人と比較された (27)。低い血清中セレンレベルは,肺癌のリスク増加と相関が認められ,その相関関係は喫煙者でより顕著であった。このフィンランド人の集団において,セレンレベルは,他の西洋諸国で通常みられるレベルのわずか約60%であった。最近の16例の研究についてのメタアナリシスから,セレンが肺癌に対する保護作用を持つことが示唆されている。この解析において,足指爪のセレン含量によってセレン曝露を評価した研究を結合させた場合,肺癌の有意なリスク減少(54%減少率)が,セレン状態と相関していた。血清中のセレンレベルによりセレン状態を評価した研究を選択的に解析したところ,有意性はないながらも肺癌リスクの低下(20%減少率)が認められた (28)。
低い食事からのセレン摂取が,前立腺癌のリスク増加と相関を示すことを報告した研究もいくつかある。米国における50,000人以上の男性医療従事者による前向き研究内の症例-対照研究において,足指爪のセレン含量と前立腺癌リスクとの間に有意な逆相関が認められた。この研究では,進行性前立腺癌と診断された181人男性と181人の対照が参加していた (29)。この研究において,足指爪のセレン含量が平均の食事セレン摂取量159 μg/日に相当する人は,足指爪のセレン含量が平均摂取量86 μg/日に相当する人と比較して,進行性の前立腺癌リスクが65%低かった。9,000人以上の日系アメリカ人男性の前向き研究の範囲内で,249人の前立腺癌症例と249人対照を試験した症例-対照研究から,血清中セレンレベル最大四分位の男性が,最小四分位の人と比べ前立腺癌発症リスクが50%低いことが認められた (30)。ある症例-対照研究では,診断前血漿中セレンレベルの最小四分位の男性が,最大四分位の男性より,前立腺癌を4~5倍高い確率で発症することが認められた (31)。724人の前立腺癌症例と対照879人を比較した症例-対照研究において,血清中のセレンレベルは前立腺癌と相関が認められなかった (32)。対照的に,現在まで最も大規模な症例-対照研究の一つから,足指爪のセレンと結腸癌リスクとの間に有意な逆相関が認められたが,足指爪のセレンと乳癌や前立腺癌のリスクの間には,相関関係が認められなかった (33)。20例の疫学研究(主に症例-対照研究)のメタアナリシスでは,血清中や足指爪中のセレン濃度が,前立腺癌の人では有意に低かった (34)。一方で,295,000人男性コホートにおける最近の前向き研究で,高頻度のマルチビタミン使用(>週7回)とセレンサプリメント使用が,ともに進行性及び致死的な前立腺癌の有意な増加と相関がみられた (35)。セレン状態が前立腺癌と関係するかどうか解明するために,明らかに,さらに多くの前向き研究と臨床試験が必要である。
栄養不良の集団:セレン補給による介入試験が,ウィルス性B型肝炎と肝臓癌の高リスク地域である 中国の啓東市の5地域に住む130,471人の一般集団で実施された。この試験では,1地区の集団(20,847人)に亜セレン酸ナトリウムを添加した食卓塩を供給し,4地区の人を対照とした。8年の追跡期間中に,肝臓癌の平均発症率がセレン強化群で35%まで低下し,対照群では減少が認められなかった。同じ地域での臨床試験において,慢性のB型肝炎感染者226人に,セレン強化酵母錠剤としてセレン200 μgまたはプラセボ酵母錠剤のいずれかを毎日供給された。4年間の追跡で,対照群113人中の7人が原発性の肝臓癌を発症し,セレンを補給された113被験者の誰も肝臓癌の発症がなかった (36)。
栄養が満たされた集団:米国において,非黒色腫性(非メラノーマ性)皮膚癌病歴のある1,300人以上の高齢者による二重盲検プラセボ対照試験で,平均7.4年間セレン強化酵母を200μg/日補給したとき,男性における前立腺癌発生率の49%の減少と相関がみられた (37)。セレン補給による予防効果は,初発時の血漿中セレンと前立腺特異性抗原(PSA)のレベルが低い男性で最も高かった。驚いたことに,この研究の最新結果では,セレン補給が皮膚癌の一種(扁平上皮がん)のリスクを25%まで増加させ (38),肺癌リスクを有意に低下させない (39) ことが示唆されている。セレンの補給は前立腺癌予防に有望であることは認められているが,他のタイプのがんリスクについての効果は不明である。これらの知見を確認する必要性に対応して,セレンの前立腺癌予防における役割をさらに調査することを意図した大規模なプラセボ対照研究がいくつか,現在行われている (24,40,41)。しかしながら,前立腺癌予防における効果証拠がないことから,セレンとビタミンEの補給による大規模な無作為プラセボ対照介入研究(すなわちSELECT研究)は,現在停止している (42)。SELECT研究で5.5年追跡された後,セレン補給(200 μg/日)だけ,またはビタミンEとの共補給は,前立腺癌,肺癌または大腸癌のリスクに影響がなかった (67)。
セレンのがん予防作用について,数種のメカニズムが提案されている。1) 抗酸化性セレノ酵素の活性を亢進させ抗酸化状態を改善する,2) 免疫系機能を改善する,3) 発がん物質の代謝に影響を与える,4) 腫瘍細胞の生育を阻害するセレン代謝物の濃度を高める,5) アポトーシスにおけるセレン影響,6) DNA修復におけるセレンの影響,及び7) 血管新生抑制剤としてのセレン。セレンの異なる用量で異なる抗がん作用を明らかにするための2段階モデルが提案されている。栄養的または生理学的用量(成人において40~100 μg/日)において,セレンは,抗酸化性セレノ酵素の活性を最大化し,おそらくは免疫系機能を亢進し,発がん物質の代謝に影響を与える可能性がある。栄養的に過多状態または薬理的レベル(成人で200~300 μg/日)において,セレン代謝物,特にセレンメチル化物の生成も,抗発がん作用を示すかもしれない (22,23)。
理論的には,セレン酵素の活性を最適化することは,脂質過酸化を抑制しプロスタグランジンのような細胞シグナル伝達物質の代謝に影響を及ぼすことによって,心血管系疾患リスクを低下できる。しかしながら,人における前向き研究では,セレンの心血管保護作用を強く支持するものは確認されていない。ある研究で,血清中のセレンレベル45 μg/L未満の人が45 μg/L以上の人と比較して心血管系疾患による病気や死亡が有意に増加することが認められているが,同じ血清中セレンのカットオフ値を用いた別の研究では,脳卒中による死亡だけに有意差が認められた (44)。中高齢のデンマーク人男性における研究で,血清中のセレンレベル79 μg/L未満の男性で心血管系疾患リスクの増加が認められたが (45),いくつかの研究から,セレンの栄養状態と心血管系疾患リスクとの間に,明確な逆相関は認められていない (46)。ヨーロッパにおける多機関研究において,足指の爪中セレンレベルと心筋梗塞(心臓マヒ)が,セレンのレベルが最小の機関だけ相関が認められた (47)。疫学研究の中には,低レベルのセレン(米国の一般人以下)が心血管系疾患リスクを高めることを示唆するものもあるが,心血管系疾患予防におけるセレンの役割に関する決定的証拠を得るためには,管理された臨床試験が必要である。
セレン状態が2型糖尿病のリスクに影響を及ぼすかどうかを調査した研究は少ししかないが,結果は様々である。ある研究では,2型糖尿病の男性の足指の爪中セレンレベルが,糖尿病でない男性より低いことが認められた (48)。対照的に別の研究では,2型糖尿病患者における高い血清中セレンレベルが報告された (49)。栄養によるがん予防研究(Nutritional Prevention of Cancer)の試験において1,202人男女が参加した最近の無作為二重盲検プラセボ対照試験では,セレン補給(200 μg/日;平均7.7年の追跡)が,2型糖尿病の罹患率の増加と関連することが認められた (50)。セレンとビタミンEによるがん予防研究(SELECT)において,セレン補給(200 μg/日;5.5年追跡)は,2型糖尿病のリスク増加と統計的に有意ではないが相関を示した (67)。
セレンと後天性免疫不全症候群(AIDS)を起こす人の免疫不全ウィルス(HIV)との間に,特異的な相互作用があると考えられている。HIV感染者のセレンレベル低下は,栄養不良が一つの要因になるとしても,疾病の進行と重度についての感度の良いマーカーである。低レベルの血漿中セレンも,HIVによる死亡リスクの有意な増加と相関がみられている。適切なセレンの栄養状態は,T細胞と呼ばれる重要な免疫系細胞の機能亢進とサイトカインと呼ばれる細胞内メッセンジャーの産生を変化させることによって,HIV感染への抵抗性を高めるかもしれない (20,51)。HIV感染において,酸化ストレスの増加は,おそらく特異的な転写経路を活性化することによって,ウィルスの複製をしやすくすると思われる。グルタチオンペルオキシダーゼとチオレドキシン還元酵素の必須成分として,セレンは,HIV感染細胞における酸化ストレス低下に重要な役割を持ち,おそらくHIVの複製率を抑制するものと考えられる (51)。最近の研究からは,HIVが,宿主のセレンをグルタチオンペルオキシダーゼ活性のあるウィルスのセレノタンパク質へ取り込むことができることが示唆されている。これらの知見の有意性はさらに解明する必要があるが,人の免疫系とウィルスの活性が,セレンの栄養状態に影響されることを示唆している (51-53)。
HIV感染者におけるセレン補給試験は数件だけ報告がある。2つの管理されていないセレンの補給試験(一つは,セレン強化酵母400 μg/日,もう一つは亜セレン酸ナトリウム80 μg/日+ビタミンC 25 mg/日を用いている)において,自覚的な改善は報告されたが,AIDS進行に関連する生物学的パラメータにはいかなる改善も認められなかった (54)。亜セレン酸ナトリウム100 μg/日を投与された15人のHIV感染患者と無投与群22人を1年間追跡した別の試験において,酸化ストレス抑制及び免疫活性化とAIDS進行の生物学的マーカーの有意な減少に関するエビデンスが得られた。しかしながら,補給群と無補給群の患者間で,CD4 T細胞数(HIV感染進行の重要な生物学的マーカー)や死亡率に有意差はみられなかった (55,56)。186人のHIV陽性男女における無作為対照試験から,セレンを200 μg/日で2年間補給したとき,入院率が有意に減少した (57)。最近の174人のHIV-1-陽性者における無作為二重盲検プラセボ対照試験で,9ヵ月間のセレン補給(セレン強化酵母200 μg/日)が,血清中のセレン濃度増加,CD4 T細胞数の増加及びHIV-1ウィルス量の進行停止と相関が認められた (58)。
セレンの最も豊富な食品摂取源は肉臓と水産食品であり,ついで肉類である。一般に,植物はセレンを必要としないと考えられているため,植物や穀類のセレン含量は広く変動している。従って,セレンの植物タンパク質への取り込みは,土壌からのセレン含量だけに依存する。ブラジルのセレンが多い土壌で生育したブラジルナッツは,ナッツ一粒で100 μg以上のセレンを供給し,セレンが少ない土壌で生育したナッツ類はセレンが10倍少ない (59)。米国において,穀類は良質のセレン摂取源であるが,果実や野菜は,セレン摂取源としては相対的によくない。概して,北米では飲料水は重要なセレン摂取源ではない。米国成人における平均の食事摂取量は,約80~110 μg/日の範囲である。米国における食品流通の傾向から,土壌中のセレンが低い地域に居住する米国人は,土壌中のセレンが比較的多い地域で生産される食品を食べているため,欠乏症を免れている (11,15)。数種のセレン摂取源となる食品とそのセレン含有量(μg)を下表に示した。特定食品についての追加の栄養成分情報は,USDA food composition databaseで検索できる。
セレンのサプリメントは数種の形態で市販されている。亜セレン酸ナトリウムとセレン酸ナトリウムは無機態のセレンである。セレン酸塩はほぼ完全に吸収されるが,タンパク質へ取り込まれる前にかなりの量が尿中に排泄される。亜セレン酸塩は,約50%しか吸収されないが,いったん吸収されるとセレン酸塩より保持されやすい。天然に食品中に存在する有機態セレンであるセレノメチオニンは,約90%吸収される (15)。セレノメチオニンと主としてセレノメチオニンを供給するためのセレン強化酵母も,サプリメントとして市販されている。消費者は,市場に出ているセレン酵母の形態が,酵母に主に無機態セレンをプラスしているものが含まれていることを知っておく必要がある。無機態と有機態の両方のセレンが,体内でセレノシステインへ代謝されセレノ酵素に取り込まれる (60)。
セレンを強化されたニンニク,ブロッコリー,タマネギ及びランプ(細長い球根と白っぽい花を持つ北米の多年生植物)は,ラットにおいて化学物質が誘発する腫瘍を抑制することが認められている (24,61,62)。セレン強化野菜は,それらが産生するある種のセレン形態(メチル化セレンなど)が,既存のサプリメント形態より腫瘍生成の阻害作用が強いため,科学者の関心が寄せられている。
セレンは,他の栄養成分と同様健康に必要であるが,高用量のセレンは毒性を示す。急性及び致死性の毒性は,グラム量のセレンを偶発的または自殺のために摂取したことにより起こされている。臨床的に重要なセレン毒性は,製造上のミスによって錠剤あたり27.3 mg(27,300 μg)のセレンを含むサプリメントを摂取した13人で報告されている。慢性のセレン毒性(セレン中毒症)は,比較的少量のセレンを長期間摂取したときに起こる可能性がある。最も多く報告されているセレン中毒の症状は,髪と爪の脆弱化と消失である。その他の症状には,胃腸障害,皮膚発疹,ニンニク口臭,倦怠感,いらいら及び神経系異常がある。セレン中毒の罹患率が高い中国のある地域において,血液中のセレン濃度が摂取量850 μg/日に相当するレベルに達する頻度が高くなると毒性影響が発生していた。医薬品協会の食品栄養委員会(FNB)は,最近,髪や爪の脆弱化と消失の予防と初期の慢性的なセレン毒性に基づいて,セレンの耐容上限摂取レベル(UL)を成人で400 μg/日と設定した (15)。成人についてのUL 400 μg/日(下表参照)は,食品に由来するセレンも含まれ,食品からのセレンは,サプリメントからのセレンと合わせ,米国成人で平均約100 μg/日である。最新のRDAとULの設定に用いられたデータについての詳細情報について,
年齢群 | UL (μg/日) |
---|---|
乳児:0~6ヵ月 | 45 |
乳児;6~12ヵ月 | 60 |
子供;1~3歳 | 90 |
子供;4~8歳 | 150 |
子供:9~13歳 | 280 |
青少年;14~18歳 | 400 |
成人;19歳以上 | 400 |
現在,セレンと医薬品との間の相互作用はあまりわかっていない (63)。抗てんかん治療薬のバルプロ酸が,血清中のセレンレベルを減少させることが認められている。動物実験では,亜セレン酸ナトリウムの補給が,抗菌剤のニトロフラントインと除草剤パラコートの毒性を弱めることが認められている (64)。
冠動脈心疾患(CHD)の病歴がありHDLレベルが低い160人の患者における3年間の無作為対照試験において,シンバスタチン(Zocor)とナイアシンの併用がHDL2レベルを増加させ,冠状動脈狭窄(狭小化)の進行を抑制し,心筋梗塞(心臓マヒ)や脳卒中などの心血管系症例の発生頻度を減少させることが認められた (65)。驚くべきことに,抗酸化剤混合剤(ビタミンC 1,000 mg,α-トコフェロール 800 IU,セレン100 μg及びβ-カロテン 25 mgを毎日)をシバスタチン-ナイアシン混合剤とともに服用すると,予防効果がなくなった。セレンのこの効果への個別寄与は判断できないが,これらの結果は,抗酸化サプリメントとHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン類)などのコレステロール降下薬との間の潜在的な相互作用について,追加研究が必要であることを強調している。
平均的な米国人食事は,現行RDA(55 μg/日)を十分超える量である約100 μg/日のセレンを供給していると推定され,血漿中および細胞内のグルタチオンペルオキシダーゼ活性を最大化するために十分と考えられる。マルチビタミン/マルチミネラル・サプリメント中のセレン量はかなり様々であるが,まれに,一日栄養所要量(DV)の70 μg以上を供給するマルチビタミン/マルチミネラル・サプリメントもある。様々な食事を摂り,毎日マルチビタミン・サプリメントを摂取することが,米国の大部分の人々にとって十分なセレンを供給することになる。
栄養状態の良好な集団におけるセレン補給ががんリスクに及ぼす効果を試験した,管理された研究から,200 μg/日のセレン補給が,男性における前立腺癌のリスクを49%まで有意に低減させることが認められている (37)。一方,皮膚癌の一種のリスクは25%まで増加した (38)。前立腺癌による死亡率は,皮膚の扁平上皮癌による死亡率よりかなり高いが,これらの知見から,セレン補給ががんリスクに及ぼす全体的な影響は,いまだセレンサプリメントの追加補給の一般的推奨を支持するには十分クリアではない。より最近の,かなり大規模な無作為プラセボ対照介入試験,SELECT研究において,200 μg/日のセレンは,前立腺癌リスクに変化を与えなかった (67)。前立腺癌リスク低減のためにセレンを補給する男性は,200 μg/日を超過しないようすべきであり,扁平上皮癌リスクを低減するために,日焼け止めや長い間の日光曝露を避けるなどの注意を払う必要がある。
セレン補給が,セレン欠乏症ではない女性でのがんリスクを低減するというエビデンスはないため,女性が余分にセレンサプリメントを摂る理由はない。しかしながら,動物実験からは,乳房腫瘍がセレンによって有意に低減されることが示唆され (66),現在進行中の2つの人による試験が,女性におけるこの相関関係についてのより決定的な情報を提供するはずである (24)。
加齢はセレンの必要量における有意な変化とは相関がないため,Linus Pauling Instituteのセレンに関する推奨は,高齢の男女でも同じである。
Written in October 2003 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in November 2007 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in November 2007 by:
Philip D. Whanger, Ph.D.
Professor, Emeritus Dept. of Environmental and Molecular Toxicology
Oregon State University
Last updated 1/22/09 Copyright 2001-2024 Linus Pauling Institute
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目次
塩(塩化ナトリウム)は生命に不可欠である。人体におけるナトリウムと塩化物の濃度を厳格に管理することは非常に重要なので、それらを制御するために複数のメカニズムが協働する。最低限の量の塩が生きるために必要であることは科学者も認めるところであるが、過剰な塩の摂取が健康に与える影響は、科学者、臨床医、および保健専門家の間で継続して研究がなされている分野である(1)。
ナトリウムイオン(Na+:以下「ナトリウム」と称する)および塩化物イオン(Cl-:以下「塩化物」と称する)は、血漿を含む細胞外液の主要なイオンである。したがって、それらは多数の生命維持プロセスにおいて重要な役割を果たす(2)。
ナトリウムおよび塩化物は細胞膜の内外での濃度維持や電位差に寄与する電解物である。カリウムは細胞内で正の電荷を帯びたイオン(カチオン)の主たるものであり、ナトリウムは細胞外液での主なカチオンである。カリウムの濃度は細胞内では細胞外より約30倍も高い。一方で、ナトリウムは細胞内では細胞外より10倍以上も濃度が低い。細胞膜の内外でのカリウムとナトリウムの濃度差は、細胞膜電位として知られる電気化学的勾配を作り出す。細胞膜電位は、細胞膜のイオンポンプ、特にナトリウム-カリウムポンプによって維持される。これらのポンプは、カリウムと交換にナトリウムを細胞外に汲み出すためにATP(エネルギー)を使用する(下図参照)。その活動は、典型的な成人では安静時のエネルギー消費の20~40%を占めると推定される。ナトリウム/カリウムの濃度勾配の維持に使われるエネルギーの割合が多いということは、この機能が生命維持に重要であることの証である。細胞膜電位の厳密な制御は、神経インパルスの伝達、筋肉の収縮、および心機能にとって重要である。(3,4)
細胞壁を挟んでのカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差が、細胞膜電位として知られる電気化学的勾配を生む。アデノシン三リン酸(ATP)が、3つのナトリウムイオンを2つのカリウムイオンと交換に細胞の外に汲み出すエネルギーを提供し、細胞膜電位を維持する。
小腸でのナトリウムの吸収は、塩化物、アミノ酸、ブドウ糖、および水分の吸収に重要な役割を果たす。同様のメカニズムは、これらの栄養素が腎臓によって血液から濾し取られた後でのこれらの栄養素の再吸収にも係る。塩酸(HCL)の形での塩化物は胃液の重要な成分でもあり、それは多くの栄養素の消化と吸収を助ける(2,5)。
ナトリウムは血液量を含む細胞外液の量を決める主要な決定要因であるので、血液量や血圧を調整する数々の生理的メカニズムは、体内のナトリウム量を調整することによって機能する。循環器系では、圧力の受容体(圧受容器)が血圧の変化を感知し、興奮性または抑制性の信号を神経系および/または内分泌腺に送って、腎臓によるナトリウムの調整に作用する。一般に、ナトリウムの保持は水分の保持となり、ナトリウムの損失は水分の損失となる(4,5)。下にナトリウムの調整を介して血液量と血圧に影響する多くの系統の中から2つを記載する。
血液量または血圧の著しい減少(重篤な失血または脱水など)に反応して、腎臓はレニンを放出して循環させる。レニンは、肝臓で作られる大きなタンパク質(アンジオテンシノーゲン)を小さなペプチド(アンジオテンシンI)に分割する酵素である。アンジオテンシンIは、血管内面、肺、肝臓、および腎臓にあるアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってさらに小さいペプチド(アンジオテンシンII)に分割される。アンジオテンシンIIは小動脈の収縮を促し、その結果血圧が上昇する。アンジオテンシンIIは、副腎によるアルドステロンの合成も強く促す。アルドステロンはステロイドホルモンで、腎臓に作用してナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を増やす。腎臓がナトリウムを保持することで水分も保持され、結果として血液量や血圧も上昇する(4)。
血液量や血圧の著しい減少は、脳下垂体後葉によるADHの分泌を促す。ADHは腎臓に作用して、水分の再吸収を増やす(4)。
ナトリウム(および塩化物)の欠乏は、たとえ非常に低塩分の食事をしていても、食事による摂取不足から起こることは一般にはない(5)。
血清ナトリウム濃度が136ミリモル/リットル未満の低ナトリウム血症は、体液保持の増進(希釈性の低ナトリウム血症)またはナトリウム損失の増加で起こることがある。希釈性の低ナトリウム血症は、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が不適切である可能性があり、中枢神経系に影響する障害や特定の薬(「薬物との相互作用」の項参照)の使用と関連している。時として、過剰な水分摂取も希釈性低ナトリウム血症を起こす可能性がある。ナトリウムや塩化物の損失を増やす条件は、激しかったり長引いたりする嘔吐や下痢、過剰で持続する発汗、抗利尿剤の使用、およびある種の腎臓病などである。低ナトリウム血症の症状は、頭痛、吐き気、嘔吐、筋肉の痙攣、疲労、見当識障害(方向感覚の喪失)、および失神である。重篤で急に発症する低ナトリウム血症の合併症として、脳水腫(脳のはれ)、脳卒中、昏睡、および脳損傷などがある。急性または重篤な低ナトリウム血症は、迅速で適切な医療的処置がなされないと、致命的になることもある(6)。
マラソン、ウルトラマラソン、鉄人トライアスロンレースなどの非常に長時間の持久競技に参加する個人にとって、低ナトリウム血症は潜在的な問題であると最近では認知されている。1997年に鉄人レースに参加した650人のうち25人(ほぼ4%)が、低ナトリウム血症で治療を受けた。鉄人レースで低ナトリウム血症を起こした参加者は、比較的控えめな水分補給にもかかわらず水分過負荷の症状を示していた。このことから水分排出が不十分だったこと、および/またはこれらの超長距離アスリートは現在推奨されているよりも水分需要が低い可能性がうかがわれる(8)。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用が、水分の排泄を損なうことで運動関連の低ナトリウム血症のリスクを高めているのではないか(9)と疑われているが、確固たる根拠は現在のところない。
2004年に米国医学研究所の食品栄養委員会は、適度に活動的な人々が汗として損失するナトリウムを補充し、その他の必須栄養素を十分に摂れる食事を実現するのに必要な量に基づいて、ナトリウム摂取の目安量(AI)を設定した(5)。この推奨量は、ほとんどの米国民が平均的食事から摂取する量をはるかに下回っている。
主にアジアの国々で行われた疫学調査では、塩漬け、燻製、および塩酢漬けの食品摂取が多いと、胃がんのリスクが高まることが示された(10,11)。これらの食品は塩分が高く、ニトロソアミンのような発がん性物質も含んでいる可能性がある。ニトロソアミンとがんについての詳細は、ライナス・ポーリング研究所の2000年秋/冬リサーチ・ニュースレター(Research Newsletter)の記事を参照されたい。さらに、塩漬け食品の摂取が多い集団は、胃がん予防によい果物や野菜の摂取が少ない傾向がある(12)。胃がんのリスクは、胃の慢性的な炎症やヘリコバクター・ピロリ菌の感染によって高まる。高濃度の塩分は胃の内側の細胞を傷つけ、ピロリ菌の感染やがんを促しやすい遺伝子損傷のリスクを潜在的に高める可能性がある。塩そのものが発がん性物質だという根拠はほとんどないが、特定の塩漬け食品、たとえば塩漬けの魚などをたくさん摂取することは、胃がんになりやすい個人のリスクを高めるかもしれない(11,13,14)。
骨粗しょう症は多因子的な骨障害で、骨の強度が損なわれ、その結果骨折のリスクが高まる。栄養は、骨粗しょう症の発症と進行に関与する多数の要素の中の一つである。塩分摂取が多いと、カルシウムの尿中への排泄が増えることがわかっている。腎臓から排泄されるナトリウム2.3gごと(塩(塩化ナトリウムNaCl)では5.8gごと)に、約24~40ミリグラム(mg)のカルシウムが尿に出て行く(15)。塩分摂取が骨の再吸収の生化学的マーカーと関連しているとする研究もあるが、そうではないものもある。一般に、横断研究ではナトリウム摂取と骨密度(BMD)の関連は見つかっていない(16)。しかしながら、閉経後の女性を2年間調べた研究では、尿中ナトリウム排泄(ナトリウム摂取の指標)の増加と、腰部のBMDの減少という関連が見られた(17)。さらに最近では、40人の閉経後女性の縦断的研究で、6ヶ月間低塩分の食事(2g/日)に固執すると、ナトリウムの排泄、カルシウムの排泄、および骨の再吸収のバイオマーカーであるI型コラーゲンのアミノ末端プロペプチドに著しい減少が見られた。しかしこれらの関連は、基線尿中ナトリウム排泄が3.4g/日(米国成人の平均的ナトリウム摂取量)以上の女性にのみ見られた(18)。塩分摂取を減少させることが、骨粗しょう症のリスクのある個人のBMDや骨折リスクに臨床的に意義のある効果があるかどうかを決定する長期の前向き研究が必要である。骨粗しょう症についての詳細は、「カルシウム」の記事を参照されたい。
腎結石の大半は、カルシウムを主要成分とする。その原因はしばしば不明であるが、尿中カルシウムが異常に高くなる(高カルシウム尿症)と、カルシウム結石発症のリスクが高まる(19)。食事からの塩分摂取が増えると、尿中へのカルシウムの排泄が増えることが知られており、カルシウムを含んだ腎結石の病歴のある患者にはこの効果がより顕著である可能性がある(20)。9万人以上の女性を12年間にわたって追跡した大規模な前向き研究では、ナトリウムの摂取が平均4.9g/日(塩では12.6g/日)の女性は、平均1.5g/日のナトリウム(塩では4.0g/日)を摂取する女性よりも、腎結石の兆候の発症リスクが30%高かった(21)。しかし、男性を対象とした同様の研究では、ナトリウムの摂取と腎結石の兆候との間に相関は見られなかった(22)。臨床的研究では、ナトリウムの摂取を制限すると、カルシウム結石のできやすい個人の尿中カルシウムの量が減った(23)。また、再発性シュウ酸カルシウム結石の男性に2種類の異なった食事を与えた5年間の無作為化試験では、塩分と動物性タンパク質を控えた食事は、低カルシウムの食事よりも結石の再発を著しく減らすことがわかった(24)。
数十年にわたって行われた複数連の研究で、ナトリウムの摂取と血圧の因果関係が示唆されてきた。動物研究は、この関係についての生理学的情報を多く提供している。特に重要なのは、ヒトの近接種であるチンパンジーの大人26匹に行われた主要な動物実験で、ナトリウムの濃度を実験的に高くしたり低くしたりした結果、血圧が上下したことが示され、ナトリウムの摂取が多いと血圧が上がり、低いと血圧も下がることの強力な根拠となった(25)。
ヒトでは、非常に低塩分な食事の文化を持つ人々と高塩分な食事の文化を持つ人々とを比べた異文化集団間の研究や、大半が横断的研究である観察研究の結果、塩の消費の増大と血圧の上昇の関連が示唆されている。しかし、異文化間研究に使われる集団群は血圧に影響するかもしれないその他のたくさんの点で異なっている可能性があり、観察研究は紛らわしい要素をコントロールする技量がまちまちである(26)。ナトリウムと血圧に関する最も大規模で最も厳密に計画された観察研究はインターソルト(INTERSALT)であり、32カ国で1万人以上の男女を研究した。集団横断的分析および集団内分析のどちらにおいても同じ結論が支持されており、24時間の尿採取で測定されたナトリウムの摂取と血圧には相関があった(27)。より高度な統計技術を用いたその後の分析は、この相関を以前報告されていたよりもさらにもっと強くしている(28)。
多くの無作為化臨床試験では、高血圧および非高血圧(非高血圧の血圧は現在では前高血圧と呼ばれる血圧の範囲を含むので、非高血圧は必ずしも正常血圧ではないことに注意)の人々を対象に、食事の減塩が血圧に及ぼす効果を調べてきた。中には、多くの異なった試験で集まったデータを分析するメタ解析と呼ばれる技法を用いて、食事の減塩が血圧にもたらす効果の大きさを推定したものもある(29-34)。様々なメタ解析に含まれる試験の数やタイプは実質的に異なっているが、食事の減塩が血圧にもたらす効果の大きさの推定は、解析結果で大きな差はない。コクラン・メタ解析は高血圧の参加者による20の試験と、高血圧でない参加者の11の試験から中程度の減塩の結果を評価した。中程度の減塩(24時間尿中ナトリウム排泄に基づく1.7~1.8g/日のナトリウムの減少)によって、収縮期血圧(最高血圧)/拡張期血圧(最低血圧)が、高血圧の参加者で平均で5.1/2.7mmHg、高血圧でない参加者で平均2.0/1.0mmHg減った(34)。
特に重要なのはTONE(35)およびTOHP-Phase II(36)と呼ばれる2つの大規模長期(2年以上の期間)試験の結果で、臨床および公衆衛生活動に最も関連があるものである。TONEでは、中程度の約1.0g/日のナトリウム摂取の減少で、始めは血圧の投薬を受けていた中高年の高血圧をより良くコントロールできることが示された。TOHP -Phase II(2つの高血圧予防試験のうちの2つ目の試験)は、同じ程度のナトリウム摂取の減少で、高血圧でない肥満の参加者の最高/最低血圧が1.2/1.6mmHg減っただけでなく、4年後には高血圧の発症が14%減ったことを示した(36)。高血圧の参加者の血圧減少値がささやかであることに疑問を呈する臨床医もいるが、観察研究および無作為化試験の概要では、米国人が平均2mmHg最低血圧を下げれば高血圧の蔓延が17%抑えられ、心臓発作のリスクが5%減り、脳卒中のリスクも15%減る(37)。したがって、血圧が平均してささやかに減少しただけでも、米国人全体の公衆衛生に大きな利益となる可能性がある。
ナトリウム摂取の短期的変化による血圧反応の変動に関する文献は相当量ある(38,39)。しかし、たいていはたったの1回しか行われない実験用手順に従って塩分変化に対する血圧の反応を基に個人を分類することは、非常に問題である。大部分の生理的反応と同様に、塩分摂取変化に対する血圧反応は、連続的にほぼ正規分布を示す(40)。食事に変化がなかった時でも、日々の血圧は変動する(40)。個人を塩分に敏感であるとか抵抗性があると分類するのは、今のところでは集団のサンプルに基いていないし、経時的によく再現できるとは未だに示されていない。加えて、「塩分への感受性」の研究に使われる手順のほとんどでは、数日から1週間という短期間に極端な塩分摂取の操作(ナトリウム過剰および欠乏)を行う。これらの非常に短期間の研究が、長期間にわたって徐々に穏やかに変化する塩分摂取による血圧変化に関連するという根拠はない。にもかかわらず、集団内の特定の部分集団では、ナトリウム摂取の変化に平均血圧の反応が大きい傾向がある。それらの人々はすでに高血圧であったり、より高齢であったり、アフリカ系の米国人であったりする(41)。塩分への感受性に対する遺伝的根拠の研究から、ゆくゆくは塩分への感受性に関してより良くて信頼性のある個人分類ができるようになる可能性がある。多形性として知られる特定の遺伝子の共通変異が現在調査されており、これにはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(「機能」の項参照)において顕著に機能する生産物を作る遺伝子の共通変異が含まれる(42)。さらに、食事の質(たとえば下のDASH食)と体重減少も、血圧を減少させる(43-45)。したがって、遺伝的要因に加えて環境的影響が塩分への感受性に影響しているようである。
DASH(高血圧防止の食事療法)試験という名称の、多機関による無作為化摂食研究は、果物、野菜、精白されていない穀物、家禽、魚、木の実、および低脂肪乳製品を多く摂る食事が、典型的な米国の食事に比べて、高血圧および非高血圧の人々の血圧を実質的に低下させた(高血圧の人の最高/最低血圧で11.4mmHg/5.5mmHg、非高血圧の人では3.5/2.1mmHg)ことを示した(46)。DASH食は、典型的な米国の食事よりもカリウムとカルシウムが顕著に多く、タンパク質はやや多めで、総脂肪、飽和脂肪、およびコレステロールが低めである。しかし、ナトリウム以外の食事成分の効果をよりよく評価するために、研究ではナトリウムの濃度は一定に保たれた。その後DASHナトリウム試験では、DASH 食と典型的な米国の食事(対照食)を、塩分摂取が低(2.9g/日)、中(米国の食事指針で上限として推奨されている5.8g/日)、高(米国で典型的摂取量である8.7g/日)という3レベルに分けて比較した(47)。DASH食は、対照食に比べてどの塩分摂取レベルでも高血圧および非高血圧の人々の最高および最低血圧を著しく低下させた。塩分摂取の減少は、最高および最低血圧をさらに下げることになったのだ。DASH食と減塩は、どちらもそれ単独で行うよりも、組み合わせるとさらに血圧を下げたということである。高塩分の対照食と比べて、低ナトリウムのDASH食を摂った人の平均血圧は8.9/4.5mmHg下がった。これは、対照食での減塩効果はDASH食よりも高く、典型的な米国の食事をしている人々には減塩がより有益である可能性を示唆している。DASH試験の結果は、健康的な食事パターンが高血圧の予防および治療に効果的な方法であるという考えを支持している(48)。さらに、88,517人の中年女性を24年間追跡した前向きコホート研究で、DASH式の食事に固執すると冠動脈性心疾患と脳卒中のリスクが著しく低下することがわかった(49)。DASH食の詳細情報は、米国国立衛生研究所(NIH)の国立心肺血液研究所(NHLBI)から入手可能である。
米国の高血圧教育プログラムおよびNIHの国立心肺血液研究所は、塩の摂取を6g/日以下にするよう勧めており(50)、米国医学研究所の食品栄養委員会は最近、成人は5.8g/日以下の塩分摂取に留めるよう勧めている(5)(「安全性」の項参照)。塩分摂取に関する米国の食事指針の詳細用に、高血圧教育プログラムの記載および国立心肺血液研究所のナトリウムと血圧に関するワークショップの所見の要約がオンラインで閲覧可能である。
慢性的な高血圧は、心臓、血管、および腎臓を損傷し、それによって心臓疾患や脳卒中、さらには高血圧性腎臓疾患のリスクを高める。いくつかの臨床研究では、塩分摂取は左心室肥大という異常な心筋の肥厚と著しく相関があり、これは心血管疾患による死亡率の上昇と関連がある(51)。最近の研究は、高塩分摂取が血圧への影響とは別の意味で臓器の損傷に関与しているいう可能性を示している(52-54)。たとえば、動物およびヒトでの研究で、塩分摂取の増加が血圧の変化とは無関係の太い弾性動脈の構造と機能の病理変化と関連があることがわかっている(55)。
ナトリウム摂取の減少が心血管疾患および死亡率にもたらす効果を調べた研究は少なく、まちまちの結果となっている(56-61)。一般に、それらの研究では直接の関連が示唆され、特に尿中ナトリウムをナトリウム摂取の測定法として使用した研究ではそうであった(56-58)。TONE研究ではナトリウムを減らすように割り当てられた参加者の心血管疾患の減少傾向が見られた(35)。重要なのは、以前の2つのTOHP試験でナトリウム摂取の介入試験に参加したもともと高血圧でなかった人々は、対照群と比べて10~15年後に心血管疾患の発症が25%減ったことが最近の研究でわかったことである(62)。このTOHPの追跡研究をその後分析したところ、ナトリウム-カリウムの比率が容量-反応関係における心血管疾患のリスク上昇と関係があることがわかり、ナトリウムの摂取と心血管疾患の間の有害な関連を補完する証拠となっている。
食事に含まれるナトリウムも塩化物も、大部分は塩に由来する。米国での塩の摂取の75%は、食事時にかけたり料理の際に入れたりする塩ではなく、食品の加工や製造の過程で添加される塩に由来する。最も少ない塩分摂取に関連しているのは、加工されていない食品、特に果物、野菜、豆類などを重視する食事である。最近の調査で、米国の食事からの平均塩分摂取は、成人男性で7.8~11.8g/日で、成人女性で5.8~7.8g/日であるとわかった(5)。これらの数字は、食事時に食べ物にかける塩を含んでいないので、少なめの見積もりである可能性がある。
下の表は、塩分を多く含んでいる食品、および比較的塩分の少ない食品のナトリウム含有量(ミリグラム(mg)表示)を示す。ナトリウムと塩化物の多くが塩に由来するので、食事に含まれる塩の含有量は、ナトリウムの含有量を2.5倍することで推定できる。
例:ナトリウム2,000mg(2g)×2.5 = 塩5,000mg(5g)
食品の栄養素量についての詳細は、USDAの食品成分データベースを検索されたい。
塩化ナトリウムの過剰摂取は、正常なナトリウム濃度を維持するために水分が細胞から引き出されて、細胞外液の体積増加につながる。しかし、水分が需要どおりに摂取できる限り、正常に働いている腎臓ならば過剰なナトリウムを排泄して身体を正常な状態に戻す(50)。大量の塩の摂取は、吐き気、嘔吐、下痢、および異常な痙攣を起こす可能性がある(64)。異常に高い血漿ナトリウム濃度(高ナトリウム血症)は、一般的に過剰な水分損失から始まり、渇きのメカニズムが損なわれていたり水が摂取できなかったりする状況を伴うことがよくある。過剰な体液の損失を伴う高ナトリウム血症の症状は、めまいや失神、低血圧、および尿生産の減少などを含むことがある。深刻な高ナトリウム血症は、浮腫(腫れ上がること)、高血圧、動悸、呼吸困難、痙攣、昏睡、および死亡に至る可能性がある。高ナトリウム血症は、ナトリウムの過剰摂取(たとえば海水の多量摂取や高濃度食塩水の静脈注射など)で起きることはまれである。末期腎不全では、塩分と水分の摂取が制限されないと、尿へのナトリウム排泄が損なわれることで体液貯留となり、その結果として浮腫、高血圧、うっ血性心不全となる可能性がある(2,65)。
2004年に、米国医学研究所の食品栄養委員会は、心血管疾患および腎臓疾患の主要なリスク要因である高ナトリウム摂取が血圧に及ぼす悪影響に基いて、ナトリウム摂取の許容上限摂取量(UL)を成人で2.3g/日(塩では5.8g/日)と設定した(5)。中高年、アフリカ系アメリカ人、および高血圧、糖尿病、または慢性腎臓病の個人を含むナトリウムの血圧への影響に最も敏感な人々には、ナトリウムの許容上限摂取量がさらに少ない可能性があることを留意すべきである。ナトリウムおよび塩の許容上限摂取量の値を年齢層ごとに下の表に示す。
年齢層 | ナトリウムのUL(g/日) | 塩(g/日) |
---|---|---|
乳児(0-12ヶ月) | 未決定* | 未決定* |
幼児(1-3歳) | 1.5 | 3.8 |
子供(4-8歳) | 1.9 | 4.8 |
子供(9-13歳) | 2.2 | 5.5 |
青少年(14-18歳) | 2.3 | 5.8 |
成人(19歳以上) | 2.3 | 5.8 |
*食品および人口乳からのみ摂取。 |
以下の薬物は、低ナトリウム血症(異常に低い血中ナトリウム濃度)のリスクを高める可能性がある(6)。
比較的低塩分(5.8g/日以下)で高カリウム(少なくとも4.7g/日)の食事が、高血圧やそれに関連する心血管疾患や腎臓病のリスク低下と相関があることを示す強力で一貫した根拠がある。加えてDASH試験では、果物、野菜、精白されていない穀物、木の実、および低脂肪乳製品を多く摂る食事が実質的に血圧を減少させることが示された。この効果は塩分摂取を5.8g/日以下にすることで強められ、3.8g/日に抑えることで最も強化される。塩分摂取を3.8g/日までに限ることを目標にすべきである。ライナス・ポーリング研究所は、果物および野菜(少なくとも5品目/日)が豊富で、塩分の多い加工食品を限定する食事を推奨する。
低塩分(3.8g/日以下)で高カリウム(少なくとも4.7g/日)の食事が、高血圧およびそれに関連する心血管疾患および腎臓疾患のリスクが高い中高年にとって、特に有益であると思われる。塩が血圧を上げる効果への感受性は年とともに上昇するので、低塩分で高カリウムの食事は中高年に特に有益である可能性がある。
Originally written in 2001 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in February 2004 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in November 2008 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in November 2008 by:
Eva Obarzanek, Ph.D, M.P.H., R.D.
Research Nutritionist (Retired)
Prevention and Population Sciences Program
Division of Cardiovascular Sciences
National, Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)
Copyright 2001-2024 Linus Pauling Institute
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目次
亜鉛はすべての形態の生物にとって不可欠な微量元素である。ヒトの栄養と公衆の健康における亜鉛の重要性は、比較的最近になって認識された。ヒトの臨床的な亜鉛欠乏症は、1961年に最初に報告された。この時、フィチン酸を多く含む(「食品の摂取源」の項参照)ために亜鉛の生物学的利用能が低い食事を摂取することが中東での「青年期栄養性小人症」と関連づけられた(1)。それ以来、亜鉛の不足は重要な公衆の健康問題、特に発展途上国での問題として、多くの専門家によって認識されている(2)。
細胞における代謝の多くの態様は、亜鉛に依存している。亜鉛は成長と発達、免疫反応、神経機能、および生殖において重要な役割を果たす。細胞レベルでは、亜鉛の機能は3つのカテゴリーに分類される:(1)触媒的機能、(2)構造的機能、および(3)調整的機能である(3)。
300超の酵素が、生命に必要な化学反応の触媒作用能力を亜鉛に依存する。亜鉛依存酵素は、すべての既知の酵素群に存在する(4)。
タンパク質や細胞膜の構造において、亜鉛は重要な役割を果たす。ジンクフィンガーモチーフとして知られる指のような構造は、多くのタンパク質の構造を安定化させる。たとえば銅は、銅亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(CuZnSOD)という抗酸化酵素の触媒作用をし、亜鉛はこの酵素における重要な構造的役割を持つ(5,6)。細胞膜の構造や機能も、亜鉛に影響を受ける。生体膜から亜鉛が失われると膜が酸化ダメージを受けやすくなり、その機能を損傷する(7)。
ジンクフィンガーのタンパク質は、転写因子(DNAと結合して特定の遺伝子の転写に影響する)として作用することで、遺伝子の発現を調整することがわかっている。亜鉛は細胞内シグナル伝達にも関わっており、ホルモンの放出や神経インパルス伝達にも影響することが知られている。成長や発達、および多くの慢性疾患に関わるアポトーシス(遺伝子によって起こされる細胞死)という重要な細胞調節プロセスでも、亜鉛が役割を果たしていることがわかっている(8)。
大量(50mg/日以上)の亜鉛を数週間にわたって摂取すると、銅の生物学的利用能に影響する可能性がある。亜鉛を高摂取すると、銅と結合するメタロチオネインというタンパク質が腸で合成される。メタロチオネインは銅を腸の細胞内に閉じ込め、体内での吸収を妨げる。通常量の亜鉛の摂取では銅の吸収は妨げられず、銅の高摂取も亜鉛の吸収に影響しない(6)。
食事から摂取できる量でなくサプリメントで摂取する量の鉄(鉄元素として38~65mg/日)は、亜鉛の吸収を減らすかもしれない(9)。この相互作用は妊娠中および授乳中の鉄補給の管理においての懸念となっており、鉄元素として60mg/日超を摂取する妊婦や授乳婦に亜鉛の補給を勧める専門家もいる(10,11)。
食事からのカルシウムの高摂取は動物の亜鉛吸収を損なわせるが、これがヒトでも起こるのかどうかは不明である。ある研究では、閉経後の女性に牛乳やリン酸カルシウムという形で890mg/日だけカルシウム摂取を増やした(カルシウムの全摂取量は1,360mg/日)ら、亜鉛の吸収と亜鉛のバランスが低下した(12)。しかしながら、思春期の少女にカルシウムクエン酸リンゴ酸の形態でカルシウム摂取を1,000mg/日だけ増加させても(全カルシウム摂取量は1,667mg/日)、亜鉛の吸収やバランスに影響はなかったことが、別の研究でわかった(13)。カルシウムとフィチン酸やフィチン酸塩との組み合わせは亜鉛の吸収に影響するかもしれず、生石灰(酸化カルシウム)を使用したトルティーヤを頻繁に食べる個人には特に関係があるであろう。10人の健康な女性(21~47歳)の研究で、食事からのカルシウムの高摂取(1,800mg/日くらい)は、フィチン酸塩の多い食事に含まれる亜鉛の吸収をさらに損なわせることはなかったことがわかった(14)。フィチン酸についての詳細は、下記の「食品の摂取源」の項を参照のこと。
食事からの葉酸塩の生物学的利用能は亜鉛に依存する酵素の作用によって増加し、このことは亜鉛と葉酸の相互作用の可能性を示唆する。亜鉛の摂取が少ないと葉酸塩の吸収が減るとした研究が過去にはあった。その一方で、葉酸の補給は亜鉛の栄養状態がぎりぎりの個人における亜鉛の体内利用を損なうとする研究もあった(5,6)。しかし、最近の研究で比較的高容量の葉酸(800μg/日)の補給を25日間しても、亜鉛の少ない食事(3.5mg/日)をした学生のグループにおける亜鉛の栄養状態は変わらなかった。この研究では、亜鉛の摂取量は葉酸塩の利用を損なわなかった(15)。
亜鉛とビタミンAはいくつかの様式で相互作用する。亜鉛は、血液中でのビタミンA輸送に必要なタンパク質であるレチノール結合タンパクを構成する。レチノール(ビタミンA)をレチナールに変換する酵素にも、亜鉛が必要である。この後者の形態のビタミンAは、目の中で光を吸収し暗順応にかかわるタンパク質であるロドプシンの合成に必要である。亜鉛欠乏症は肝臓からのビタミンAの放出減に関連があり、これは亜鉛欠乏症とともに見られる夜盲症の症状に寄与するのかもしれない(16,17)。
重篤な亜鉛欠乏症に関して知られていることの多くは、亜鉛の吸収や輸送の障害を起こす遺伝的疾患である腸性肢端皮膚炎を持つ個人の研究によってもたらされた。重篤な亜鉛欠乏症の症状は、成長や発達の遅延や停止、性的成熟の遅れ、特徴的な皮膚発疹、慢性的で重い下痢、免疫系の欠陥、創傷治癒の障害、食欲減衰、味覚障害、夜盲症、角膜の腫れや濁り、および行動障害などである。腸性肢端皮膚炎の原因が知られる前は、患者は幼くして死亡することが典型的であった。経口亜鉛治療によってそれらの症状は完全寛解に至ったが、この遺伝性疾患の個人は生涯その治療を続けねばならない(6,18)。遺伝的疾患のない個人に重篤な亜鉛欠乏症を起こすような食事性の亜鉛欠乏症にはなりにくいが、重いやけどや長引く下痢などの亜鉛吸収不全または亜鉛の喪失が増えるような状態は、重篤な亜鉛欠乏症に至るかもしれない。重篤な亜鉛欠乏症は、亜鉛の入っていない完全静脈栄養を受けている者、アルコール乱用者やペニシリンのような特定の薬剤を使用している者にも報告されている(下記の「薬物相互作用」の項参照)(19)。
軽度の亜鉛欠乏症は多くの健康上の問題を引き起こし、特に発展途上国の子供には一般的であることが今や認知されている。世界中で推定20億の人々が、食事性の亜鉛欠乏症であるとされている(20)。潜在的亜鉛欠乏症に対する感度のよい特定の指標がないことが、それが健康に及ぼす影響の科学的研究にとって障害となっている(21)。しかし、潜在的亜鉛欠乏症が身体的および神経心理学的発達の障害や、幼児が生命にかかわる感染症にかかりやすくなることに寄与することが、中度の亜鉛補給の対照試験で明らかになった(18)。実際、亜鉛欠乏症は5歳未満の子供の年間450,000人の死亡原因であると推定され、これは全世界の子供の死亡の4.4%を占める(22)。亜鉛欠乏症と健康上の問題の関係についての詳細は、「疾病予防」の項を参照のこと。
●未熟児や低出生体重児
●亜鉛が豊富な補完食の摂取が不適切で母乳で育った乳児や幼児
●子供や青少年
●妊婦や授乳婦、特に少女期の者
●完全静脈栄養補給(点滴による栄養補給)を受けている患者
●タンパク質・エネルギー栄養失調や神経性無食欲症を含む栄養失調の個人
●重篤または持続性の下痢の者
●セリアック病や短腸症候群を含む吸収不良症候群の者
●クローン病や潰瘍性大腸炎を含む炎症性の腸疾患のある者
●アルコール依存症の者、および尿中への亜鉛の排出が多く肝臓での亜鉛の濃度が低いアルコール性肝臓疾患の者
●慢性腎疾患の者
●鎌状赤血球症の者
●腸での亜鉛の吸収を減らす薬剤、亜鉛の排出を増やす薬剤、または亜鉛の利用を損なう薬剤を使用している者(下記の「薬物相互作用」の項参照)
●年配者(65歳以上)
●厳密な菜食主義者:主食が穀類や豆類である厳密な菜食主義者の食事性亜鉛の必要量は50%も高い。なぜなら、これらの食品に含まれる高濃度のフィチン酸が、亜鉛の吸収を減らすからである(「食品の摂取源」の項参照)(5)。
現在では、ヒトの亜鉛欠乏症を検出する感度のよい特定のバイオマーカーはない。血漿や血清での亜鉛の低濃度は、集団においておよび介入研究において、亜鉛の栄養状態を示すバイオマーカーとして典型的に使用されている。しかし血漿または亜鉛の状態を測定することにはいくつかの限界があり、潜在的亜鉛欠乏症を検出する感度がないことや、炎症によって低下することや、日周変動などがあげられる(24,25)。
亜鉛に対する米国での推奨量(RDA)を性別および年齢層別に表1に示す。乳幼児、子供、青少年、および妊婦や授乳婦は、亜鉛欠乏症のリスクが高い。亜鉛の栄養状態を示す感度のよい指標がまだないため、亜鉛のRDAは亜鉛の栄養状態を示すいくつかの異なる指標に基づいており、特定の年齢や性別に属するほぼすべての個人の欠乏症を防ぐであろう毎日の摂取量を表している(5)。
発育遅延または体重増加不良という直線的な成長や体重増加の大幅な遅れは、子供の軽度亜鉛欠乏症の一般的特徴である。1970年代や1980年代には、成長にかなりの遅れのある年少の子供に亜鉛補給をする数件の無作為化プラセボ対照試験がコロラド州デンバーで行われた。中度の亜鉛補給(5.7mg/日)によって、プラセボよりも成長率が高くなった(26)。最近では、発展途上国でのいくつかのより大規模な研究でも、中度の亜鉛補給によって同様の結果が見られた。亜鉛の介入試験からの成長データのメタ解析で、年少の子供の成長を制限する亜鉛欠乏症が、特に発展途上国で広く起こっていることが確認された(27~29)。亜鉛欠乏症による成長制限効果の正確なメカニズムは不明であるが、成長を調整するホルモンであるインスリン様成長因子1(IGF-1)への反応を調整する細胞シグナル伝達系に亜鉛の利用能が影響することが、研究で示されている(30)。
母親の亜鉛の栄養状態が悪いことが、新生児の注意力低下や生後6ヶ月での運動機能不良と関連がある。母親に亜鉛補給したら、極低出生体重児の運動機能の発達が改善し、インドの乳児や幼児がより元気に活動するようになり、グアテマラの乳児や幼児により機能的な活動が増えたという関連があった(31)。さらに、子供への亜鉛の補給で、中国人の1年生の神経心理学的機能(注意力など)がよくなったが、これは亜鉛が他の微量栄養素と一緒に供給された場合にのみ観察された(32)。別の2つの研究では、亜鉛の補給と発育遅延と診断された子供の注意力の測定結果との間に関連はなかった(33)。初期の研究の中には、亜鉛欠乏症が幼児の認知的発達を抑えるのではないかと示唆するものがあるが、乳児や幼児に対する13の亜鉛補給臨床試験に対する2012年のコクランレビュー(コクラン共同計画が作成する系統的総括)では、精神や運動機能の発達が亜鉛補給で改善するというエビデンス(科学的根拠)は見られなかった(34)。
適切な亜鉛摂取は免疫系の統合維持に不可欠であり(35)、自然免疫反応を媒介する細胞(好中球、マクロファージ、およびナチュラルキラー細胞)や獲得免疫反応を媒介する細胞(B細胞やT細胞)の正常な発達や機能にとって特に必須である(36,37)。さらに、亜鉛には抗酸化酵素であるCuZnSOD(上記参照)における構造的な役割がある。亜鉛欠乏症は多くの免疫機能に悪影響をもたらし、特定のサイトカインの生成減少、亜鉛依存性の酵素や転写因子の活性低下、およびT細胞の機能に重要な亜鉛依存性胸腺ホルモンであるサイムリンの活性低下に至る(38)。その結果、亜鉛欠乏症の個人は多様な病原体に感染しやすくなることが知られている(39)。
下痢:下痢性の疾患は、発展途上国で年間180万人超の5歳未満の子供の死亡につながっていると推定されている(40)。免疫系の機能に対する亜鉛欠乏症の悪影響が子供を感染性の下痢にかかりやすくし、長引く下痢が亜鉛欠乏症や栄養不良に寄与する。亜鉛欠乏症は大腸菌などの下痢を引き起こす細菌によって生産される毒素の効果も高めているかもしれないことが、研究では示されている(41)。多くの無作為化対照試験では、経口補水療法と併用した亜鉛補給によって子供の急性かつ持続性の下痢の期間や重篤度が大きく低減し、生存率が上がることが示された(42,43)。無作為化対照試験の2007年のメタ解析で、亜鉛補給は5歳未満の子供の下痢発生の頻度、重篤度、および期間を低減すると結論づけられた(44)。より最近のメタ解析では、亜鉛補給の有益な効果は6ヶ月(45)または12ヶ月(28)超の子供に限られることがわかった。世界保健機構と国連児童基金は、幼児の下痢性疾患の治療の一部として亜鉛補給を推奨している(46)。
肺炎:亜鉛補給はまた、肺炎などの下気道感染症の発生を減らすかもしれない。発展途上国でのいくつかの研究の統合解析で、亜鉛を補給された子供の肺炎罹患率が大きく減ることが実証された(47)。2つのメタ解析では、亜鉛補給が5歳未満の子供の肺炎または気道疾患の発生を減らすことがわかった(44,48)。しかしながら、抗生物質療法と同時に亜鉛補給をすることが肺炎の治療に有益かどうかは不明である(49,50)。
マラリア:子供におけるマラリアの臨床的な発作が亜鉛補給で減るかもしれないことが、いくつかの研究で示されてきた(33)。パプアニューギニアの就学前の子供によるプラセボ対照試験で、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアで保健所に行く頻度が、亜鉛補給によって38%減ったことがわかった(51)。さらに、このマラリアを起こす寄生虫が血液中に高濃度でいるようなマラリアの事例数が68%減った。このことは、より重篤なマラリアの事例を防ぐのに亜鉛補給が有益であるかもしれないことを示唆している。しかし、西アフリカの700人超の子供による6ヶ月間の試験では、亜鉛を補給した子供の熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの事例の頻度や重篤度が、プラセボを与えられた子供と異なるという結果にはならなかった(52)。加えて、急性で合併症のない熱帯熱マラリアにかかった就学前の子供に亜鉛補給は有益ではなかったことが、無作為化対照試験で報告された(53)。さらに、1~48ヶ月齢の42,000人超の子供による無作為化対照試験で、マラリアおよびその他の感染症による死亡率は、亜鉛補給によって大きくは減少しなかったことがわかった(54)。矛盾する結果の報告があるので、亜鉛補給が子供のマラリアの予防や治療に役立つかどうかは不明である(28)。
加齢による免疫機能の低下は亜鉛欠乏症による低下と似ていて、高齢者は軽度の亜鉛欠乏症になりやすい(55)。しかしながら、高齢者の免疫機能に対する亜鉛補給試験の結果はまちまちである。高齢者の免疫機能のある一面は、亜鉛補給で向上することがわかっている(56)。たとえば、65歳超の男女による無作為化プラセボ対照研究で25mg/日の亜鉛補給を3ヶ月間したら、いくつかの血液循環中の免疫細胞(たとえばCD4T細胞や細胞傷害性Tリンパ球)の濃度が上がったことがわかった(57)。49人の年配者(55~87歳)による無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、そのうち35%は亜鉛欠乏症と考えられたが、45mg/日の亜鉛補給を12ヶ月したら、感染症の発生と、炎症および酸化ストレスのex vivo(体外)でのマーカー(TNF-αおよびMDA+HAE, 8-OHdG)の値が減ったことがわかった(58)。しかしながらその他の研究では、亜鉛補給は免疫機能のパラメーターを向上させなかったと報告され(56)、亜鉛と高齢者の免疫反応に関する推奨がなされる前に、さらなる研究が必要であることを示している。
世界中の妊婦の82%が、亜鉛摂取が不適切であろうと推定されている。母親の亜鉛の栄養状態が悪いことは、低出生体重、早産、分娩合併症、および先天性異常などの多くの好ましくない妊娠結果と関連している(59)。しかし、米国および発展途上国での母親への亜鉛補給試験の結果はまちまちである(31)。ある研究では母親への亜鉛補給が出生体重を増やして早産の可能性を減らすとわかったが、ペルーとバングラデシュの女性による2つのプラセボ対照研究では、亜鉛補給は低出生体重または早産の発生に影響しなかったことがわかった(60,61)。分娩合併症に対する亜鉛補給効果を調べるように考案された補給研究もまちまちの結果を生んでいるが、亜鉛欠乏症の集団に対して行われたものはほとんどない(31)。20の無作為化対照試験の最近のシステマティックレビュー(系統的総括)で、妊娠中の亜鉛補給は早産が14%減るという関連があったことがわかったが、早産の発生の減少は主に低収入の女性に見られた(62)。しかしこの解析では、亜鉛補給が母親または乳児の健康を表すその他の指標にも有益であるという発見はなかった(62)。
風邪の症状が出てから24時間以内に亜鉛トローチ剤を使用し、起きている間に2~3時間ごとに症状が収まるまでそれを続けることは、風邪の罹患期間を短縮するために推奨されてきた。成人の風邪の治療のために、グルコン酸亜鉛のトローチ剤を使う少なくとも10の対照試験が公表されている。5つの研究で亜鉛トローチ剤によって風邪の罹患期間が短縮されたとする一方で、5つの研究では風邪の罹患期間や重篤度に関して亜鉛トローチ剤はプラセボのトローチ剤と何も変わらなかったとした。風邪の際のグルコン酸亜鉛トローチ剤の使用に関して公表された無作為化対照試験のメタ解析で、風邪の罹患期間を短縮するのにそれが有効であるとするエビデンスはやはり不足していた(63)。風邪の症状に対する酢酸亜鉛トローチ剤の効果が2つの臨床試験で調べられた。1つの研究では、起きている間に2~3時間ごとに酢酸亜鉛トローチ剤(トローチ1つにつき12.8mgの亜鉛)を服用すると、風邪の症状全体の継続期間がプラセボに比べて減った(8.1日から4.5日に減少)(64)とした一方で、もう一方の研究では酢酸亜鉛トローチ剤は風邪の罹患期間や重篤度を低減させるのにプラセボと何の変わりもなかったとした(65)。よく対照された多くの試験にもかかわらず、風邪の症状を治すための亜鉛トローチ剤の効能には疑問が残ったままである。13の試験の系統的総括およびメタ解析で、トローチ剤やシロップの形で亜鉛を補給すると風邪の症状の期間が短くなるが、主要評価項目に大きな異質性(対象となった研究で効果が一貫しないこと)があったと報告された(66)。さらに、風邪の期間短縮に効果があったのは75mg/日超の亜鉛を補給した試験で、それより少ない用量の試験では効果がなかったことが、別の総括からわかった(67)。高用量(75mg/日超)の酢酸亜鉛を使用した試験では、風邪の期間が42%短くなったことが観察された(67)。試験によって一貫しない結果になったのは、トローチ剤に使用される様々な形態(酢酸亜鉛やグルコン酸亜鉛など)からの亜鉛の放出量が異なっていたことが一因であるかもしれない(67,68)。
風邪の症状に対する高用量亜鉛補給の有益な効果の生理学的原理はよくわかっていない。起きている間に2~3時間おきに亜鉛トローチ剤を服用すると、40mg/日という亜鉛の許容上限摂取量(UL)をはるかに超えた日々の亜鉛摂取量になってしまう(「安全性」の項参照)。短期間の亜鉛トローチ剤の使用(たとえば5日未満)では、深刻な副作用がおきていない。治験では、味が悪いことと吐き気が、もっとも多い悪影響であった(66)。長期間(とたえば6~8週間)亜鉛トローチ剤を服用すると、銅欠乏症になるであろう。こうした理由から、亜鉛トローチ剤を3~5日間服用しても風邪の症状が明らかによくなったと言えない者は、医師に診断してもらうもらうように勧める専門家もいる(64)。
鼻の内皮(鼻腔を形成する細胞)に直接適用するように考えられた経鼻亜鉛製剤も、店頭で買える風邪薬として市販されている。2つのプラセボ対照試験で経鼻グルコン酸亜鉛によって風邪の期間が少し短くなったとされた(69,70)ものの、別の3つのプラセボ対照試験では経鼻亜鉛剤は何の効果もなかったことがわかった(71~73)。3つの試験のうち最も厳格に対照された試験では、風邪の一般的な原因であるライノウィルスを接種されたボランティアの風邪の重篤度や期間に、経鼻グルコン酸亜鉛は影響しなかった(71)。懸念されるのは、風邪の治療として経鼻亜鉛製剤を使用した後で臭覚がなくなる(無嗅覚症)になった者の症例報告がいくつかあることだ(74)。亜鉛に関連した無嗅覚症は治らないかもしれないので、経鼻亜鉛製剤は避けるべきである。
米国で65歳超の者の失明の一番の原因は、加齢黄斑変性(AMD)として知られる黄斑の変性疾患である。黄斑は、視覚の中央に関わる目の奥の網膜の一部である。いくつかの理由から、亜鉛はAMDの発症に関わっていると仮定されている。それらは、(1)AMDに影響を受けた網膜の部分に亜鉛が高濃度で見つかっていること、(2)加齢とともに網膜の亜鉛の含有量が減っていくと示されていること、および(3)網膜での亜鉛依存性酵素の活動は加齢とともに減っていくことが示されていることである。しかしながら、AMDの発症や進行に亜鉛の摂取が関連しているという科学的エビデンスは限られている。観察研究では、食事からの亜鉛摂取とAMDの発症との間に明確な関連があることが示されていない(75~79)。ある無作為化対照試験で、200mg/日の硫酸亜鉛(亜鉛元素としては81mg/日)を2年間摂取したら、AMD患者の視力喪失が少なくなったという結果に関心がわき起こった(80)。しかし、同じ用量や期間で行われた後の試験で、片方の目により進行した形式のAMDがある患者には、何も有益な効果がなかったとわかった(81)。抗酸化物質(500mgのビタミンC、400 IUのビタミンE、および15mgのβカロテン)と高用量亜鉛(80mgの亜鉛と2mgの銅)を毎日補給した大規模無作為化対照試験である加齢性眼疾患研究(AREDS)で、抗酸化物質と高用量亜鉛の組み合わせ、および高用量亜鉛単独のどちらでも、少なくとも片方の目に中度から重度の黄斑変性のある個人がさらに進行した黄斑変性になるリスクがプラセボに比べて大きく減ったことがわかった(82)。5年間の試験であるAREDS2では、処方の亜鉛の用量を減らす(80mgから25mgへ)と、AMDの進行に何の効果もなかったことが最近わかった(83)。より小規模な試験からのデータでは、AMDに対してビタミンやミネラルの補給は予防効果が一般的に見られない(84,85)。最近、74人のAMD患者による無作為化二重盲検プラセボ対照試験で50mg/日の亜鉛モノシステインを6ヶ月間補給したら、視力、コントラスト感度、および光回復などの黄斑機能の測定値が向上したことが報告された(86)。抗酸化物質、亜鉛、銅を含むAREDSの処方(82)は、現在ではAMD患者の治療の標準である(87)。AMDの治療における亜鉛単一補給の効果を調べるさらなる無作為化対照試験が必要である。
軽度の亜鉛欠乏症は、糖尿病の個人には比較的よくあることかもしれない(34)。頻尿によって亜鉛をより喪失することが、糖尿病患者の亜鉛の栄養状態がぎりぎりであることに寄与しているようである(88)。亜鉛補給が糖尿病患者の免疫機能を高めると報告されているものの、ある研究では50mg/日という亜鉛補給でインスリン依存性(1型)糖尿病患者の血糖コントロールに悪影響があった(89)。別の研究では、2型糖尿病患者に6ヶ月間30mg/日の亜鉛補給をしたら、血糖コントロールに大きく影響することなく酸化ストレスの非特異的測定値(血漿TBARS)が減った(90)。より最近では、2型糖尿病の40人の男性によるプラセボ対照試験で、高用量亜鉛補給(240mg/日)を3ヶ月間したら、酸化ストレスや血管機能の測定値はよくならなかったことがわかったが、この研究に参加した男性は正常な亜鉛濃度であった(91)。現在では、糖尿病患者に高用量亜鉛補給を勧める前に、ブドウ糖の代謝に亜鉛が及ぼす影響のさらなる研究が必要である(6)。糖尿病患者は亜鉛のRDAを守ることが賢明なようである(上記のRDAの項参照)。
免疫機能の維持に亜鉛の充足は不可欠であり、HIV感染者は亜鉛欠乏症に特になりやすい。HIV感染者では、亜鉛の血清濃度が低いとこの疾患がより進行した状態になり、死亡率も高いという関連がある(92,93)。AIDS患者に対する亜鉛補給研究の一つで、45mg/日の亜鉛を1ヶ月補給したら、プラセボに比べて日和見感染の発生が減った(94)。血漿亜鉛濃度の低い(0.75mg/l)231人のHIV陽性の成人によるプラセボ対照試験で、亜鉛補給(男性には15mg/日、女性には12mg/日)を18ヶ月したら、免疫不全(CD4陽性リンパ球細胞の数が200/mm3未満で定義される)の発生が76%減り、下痢の割合も60%減ったことがわかった(95)。
しかしながら、HIVウィルスも亜鉛を必要とするので、亜鉛の摂取過剰はHIV感染を進行させるかもしれない。たとえば、HIV感染の男性によるある観察研究で、食事性の亜鉛摂取が増えると疾病の進行が速くなるという関連の報告があった。この観察研究の亜鉛サプリメント摂取では、どれも生存率が悪くなった(96)。1,009人の参加者による6つの無作為化対照試験の最近の系統的総括で、亜鉛補給は成人の日和見感染の減少に対して安全で有益であり、妊婦や子供への亜鉛補給の効果を評価するさらなる試験が必要であると結論づけられた(97)。
貝や甲殻類、牛肉、およびその他の赤身の肉は、亜鉛の豊富な摂取源である。ナッツ類や豆類は、比較的良好な植物性の亜鉛摂取源である。亜鉛の生物学的利用能(体内に留まって使用される亜鉛の割合)は、亜鉛吸収を妨げる化合物が比較的少ないことや、亜鉛の吸収をよくする硫黄を含むアミノ酸(システインやメチオニン)が含まれることから、肉、卵、およびシーフードで比較的高い。全粒穀物の製品や植物性タンパク質は、亜鉛の吸収を阻害する化合物であるフィチン酸が比較的多く含まれるため、生物学的利用能が低くなる(6)。酵母の酵素作用は、食品のフィチン酸の濃度を下げる。したがって発酵させた全粒穀物パンは、発酵させていない全粒穀物パンよりも生物学的利用能が高い亜鉛を含む。米国の国民食事調査では、平均的な食事性亜鉛摂取量は成人女性で9mg/日、成人男性で13mg/日と推定されている(5)。亜鉛を比較的多く含む食品の亜鉛含有量を、ミリグラム(mg)単位で表2に示す。特定の食品の栄養素の含有量についての詳細は、USDA食品成分データベースを検索のこと(98)。
多くの亜鉛サプリメントが市販されており、酢酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、ピコリン酸亜鉛、および硫酸亜鉛などが含まれる。ピコリン酸亜鉛は亜鉛がより吸収されやすい形態であると宣伝されてきたが、ヒトにおいてこの考え方を支持するデータはほとんどない。限定的な動物実験では、ピコリン酸亜鉛の腸での吸収増加が排出の増加と相殺されるかもしれないことが示唆されている(5)。
亜鉛の急性毒性症状の単発的発生は、亜鉛メッキ容器から放出された亜鉛によって汚染された食品や飲料の摂取によって起きてきた。亜鉛の急性毒性の徴候は、腹痛、下痢、吐き気、および嘔吐などである。一回に225~450mgの用量の亜鉛によって、通常は嘔吐を起こす。50~150mg/日の用量の亜鉛サプリメントで、軽度の胃腸障害が報告されている。酸化亜鉛蒸気の吸入後には、金属ヒューム熱の発生が報告されている。特に、酸化亜鉛吸入の8時間以内に多汗症、衰弱、および動悸などが起こり、吸入しなくなった後12~24時間持続するかもしれない(5,6)。
長期間の亜鉛摂取過剰の主な結果は、銅欠乏症である。亜鉛摂取の総量が60mg/日(50mgをサプリメントから、10mgを食事から)になると、銅欠乏症の徴候が現れる。亜鉛を含む義歯接着剤の慢性的過剰使用(17~34mg/日の亜鉛を含む接着剤のチューブを1週間に2本超)の後でも、銅欠乏症は報告されている(99)。銅欠乏症を防ぐために、米国食品栄養委員会は成人の許容上限摂取量(UL)を食事およびサプリメントを含めて40mg/日に設定した(5)(表3)。
年齢層 | 許容上限摂取量(mg/日) |
---|---|
乳児、0~6ヶ月 | 4 |
乳児、7~12ヶ月 | 5 |
幼児、1~3歳 | 7 |
子供、4~8歳 | 12 |
子供、9~13歳 | 23 |
青少年、14~18歳 | 34 |
成人、19歳以上 | 40 |
亜鉛の経鼻投与は、実験動物で嗅覚消失(無嗅覚症)を起こすことが知られており(100)、グルコン酸亜鉛の経鼻薬を使用した後で無嗅覚症になった個人のいくつかの症例報告がある(75)。亜鉛に関連する無嗅覚症は不可逆性かもしれないので、亜鉛の経鼻ジェルやスプレーは避けるべきである。
テトラサイクリンやキノロン系抗生物質、およびビスホスホネートなどの特定の薬物と亜鉛のサプリメントの同時投与は、亜鉛および薬物の双方の吸収を減らして薬物の効能を低減するかもしれない(101)。亜鉛のサプリメントとこれらの抗生物質の摂取間隔を少なくとも2時間あけると、この相互作用を防ぐことができるはずである(102)。さらに、ペニシラミン(ウィルソン病の銅過剰の治療に使用される)やジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA。鉄過剰の治療に使用される)などの金属結合剤を治療に使用すると、深刻な亜鉛欠乏症になる。抗けいれん薬、特にバルプロ酸ナトリウムは亜鉛欠乏症を促進するかもしれない。利尿剤の長期使用は亜鉛の尿中排出を増やし、亜鉛の喪失量が増えることになるかもしれない。また、結核の治療薬であるエタンブトールは金属結合性があり、ラットでは亜鉛喪失量を増やすことが示されている(6)。
亜鉛の推奨量(成人女性で8mg/日、成人男性で11mg/日)は、ほとんどの個人の欠乏症を防ぐのに充分なようである。しかしヒトでの亜鉛の栄養状態を示す感度の良い指標がないため、健康を最善の状態にするであろう亜鉛摂取量を決定することが困難になっている。ほとんどの栄養素の1日の摂取量(DV)を100%含むマルチビタミン/マルチミネラルのサプリメントを摂取するというライナス・ポーリング研究所の推奨に従えば、15mg/日の亜鉛が一般的に摂取できるであろう。
年配の成人の亜鉛の必要量が高いとわかっているわけではないが、この世代の亜鉛摂取量の平均はRDAよりかなり低い傾向がある。亜鉛を吸収する能力の減少、亜鉛の利用を変える疾患になりやすくなること、および亜鉛の排出を増やす薬物の使用が増えることが、年配の成人の軽度亜鉛欠乏症のリスク上昇に寄与するかもしれない。免疫系の機能の障害などの軽度亜鉛欠乏症の結果は年配者の健康に特に関わるので、適切な亜鉛の摂取に特に注意を払わなくてはいけない。
Originally written in 2001 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in December 2003 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in October 2007 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in June 2013 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in June 2013 by:
Emily Ho, Ph.D.
Endowed Director, Moore Family Center for Whole Grain Foods,
Nutrition and Preventive Health
Professor, School of Biological and Population Health Sciences
Principal Investigator, Linus Pauling Institute
Oregon State University
The 2013 update of this article was underwritten, in part, by a grant from Bayer Consumer Care AG, Basel, Switzerland.
Copyright 2001-2024 Linus Pauling Institute
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目次
鉄は酸素輸送、エネルギー生産、およびDNA合成といった不可欠な生物学的機能を支える数百のタンパク質や酵素の必須成分である。ヘモグロビン、ミオグロビン、シトクロム、およびペルオキシダーゼは、それらの生物学的活性のために補欠分子族として鉄を含むヘムを必要とする。(詳細はこちら)
体はほとんど鉄を排泄しないので、鉄の代謝はきっちりと調整されている。特に、鉄の調整ホルモンであるヘプシジンは、体の鉄の貯蔵が必要量を満たすのに十分な場合に食事性の鉄の吸収を阻止し、細胞での鉄のゼクエストレーション(分離)を促進し、鉄の生物学的利用性を下げる。(詳細はこちら)
健康な男性と妊娠していない女性では、鉄の栄養状態は血清フェリチン(鉄貯蔵タンパク質)、血清鉄、総鉄結合能、トランスフェリン(血液中の主要な鉄輸送体)飽和度、および可溶性トランスフェリン受容体を測定する臨床検査を使用して評価できる。(詳細はこちら)
鉄欠乏症は、体の蓄えが枯渇した後でも細胞への鉄の供給が不適切であることから起こる。小球性低色素性貧血は、体の鉄の貯蔵が少なくヘモグロビンの合成や赤血球の生成が深刻に損なわれた場合に起こる。(詳細はこちら)
鉄欠乏症は世界中で最も一般的な栄養素欠乏症で、主に子供、妊娠可能年齢の女性、妊婦、頻繁な献血者、および特定の医学的症状のある者に影響する。(詳細はこちら)
鉄必要量のかなりの部分は、老化した赤血球から鉄を再利用することで賄われる。鉄の推奨量(RDA)は、男性および閉経後の女性で8mg/日、閉経前の女性で18mg/日、および妊婦で27mg/日である。(詳細はこちら)
子供の貧血を伴うまたは伴わない鉄欠乏症は、認知発達不良、学業成績不良、および異常な行動パターンと関連づけられてきた。限定的なエビデンス(科学的根拠)では、3歳より若い貧血性鉄欠乏症乳幼児の精神運動発達や認知機能に鉄の補給は何の効果もないが、それより年長の子供、青少年、および貧血および/または鉄欠乏症の女性の注意力や集中力を向上させるかもしれないことが示唆されている。(詳細はこちら)
ヘム鉄は動物性食品に含まれるヘモグロビンやミオグロビンに由来し、肉食者の全食事性鉄摂取量の10~15%を占める。しかし、植物性および動物性食品に見られる非ヘム鉄よりもヘム鉄はずっと吸収されやすいので、ヘム鉄は吸収された鉄全体の最大40%を占める。(詳細はこちら)
遺伝性ヘモクロマトーシスを患う者の重要臓器に有毒な鉄が沈着することは、肝臓がんおよび2型糖尿病を含む多くの慢性症状と関連付けられてきた。ヘム鉄摂取の増加および/または鉄の恒常性喪失も、遺伝性の障害がない個人の慢性疾患リスクを上昇させるかもしれない。(詳細はこちら)
鉄の補給は胃腸への刺激、吐き気、嘔吐、下痢、または便秘を起こすかもしれず、抗生物質や骨粗鬆症、甲状腺機能低下症、またはパーキンソン病の症状を治療する薬物を含む特定の薬剤の吸収や効能に支障をきたすかもしれない。(詳細はこちら)
鉄は地殻で4番目に多い元素であり、栄養科学で最もよく研究された微量栄養素の一つである(1, 2)。それはすべての生体の代謝における主要元素である。鉄は、第一鉄(Fe2+)と第二鉄(Fe3+)という生物学的に関連のある2つの酸化状態で存在する。鉄は、酸素輸送、エネルギー生産、DNA合成、および細胞の増殖と複製などの本質的な生物学的機能を支える数百のタンパク質や酵素の必須成分である。
ヘムは、多くの生物学的に重要な分子に見られる鉄含有化合物である(図1)。すべてではないがいくつかの鉄依存性タンパク質は、ヘム含有タンパク質(ヘムタンパク質とも呼ばれる)である。広範囲な生物学的活動をする鉄依存性タンパク質を、以下のように分類してもよい(1, 3)。
グロビン-ヘム(グロビンと結合したヘム):酸素の輸送や貯蔵に関連する非酵素的タンパク質(ヘモグロビン、ミオグロビン、ニューログロビンなど)
電子の輸送に関連するヘム酵素(シトクロムa,b,fやシトクロムCオキシダーゼなど)および/またはオキシダーゼ活性(酸化酵素活性)を持つヘム酵素(亜硫酸オキシダーゼ、シトクロムP450オキシダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、内皮型一酸化窒素合成酵素、シクロオキシゲナーゼなど)
エネルギー生産に関わる酸化還元酵素活性を持つ鉄-硫黄(Fe-S)クラスタータンパク質(コハク酸脱水素酵素、イソクエン酸脱水素酵素、NADH脱水素酵素、アコニターゼ、キサンチン酸化酵素、フェレドキシン-1など)、またはDNAの複製や修復に関わるもの(DNAポリメラーゼ、DNAヘリカーゼ)
触媒的作用の補助因子として鉄を必要とする非ヘム酵素(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、およびリジン水酸化酵素;低酸素誘導因子(HIF)プロリルヒドロキシラーゼとアスパラギニルヒドロキシラーゼ;リボヌクレオチド還元酵素など)
鉄の輸送や貯蔵を担う非ヘムタンパク質(フェリチン、トランスフェリン、ハプトグロビン、ヘモペキシン、ラクトフェリンなど)
鉄含有タンパク質は多くの機能を支えているが、そのいくつかを以下に示す。
グロビン-ヘムは酸素の輸送や貯蔵に関わるヘム含有タンパク質であり、それよりは関与が低いがフリーラジカル(遊離基)の消去剤としても作用しているかもしれない(1)。ヘモグロビンは赤血球に見られる主要なタンパク質であり、体内の鉄の約三分の二を占める(3)。肺からそれ以外の体内へ酸素を輸送するというヘモグロビンの極めて重要な役割は、それが肺と接する短時間に急速に酸素を獲得することができる能力と、組織を巡っている間に必要に応じて酸素を放出するという能力によるものである。ミオグロビンは酸素の輸送および筋肉細胞での短時間貯蔵中に機能し、運動している筋肉からの需要と酸素の供給とが釣り合うように助ける(1)。ニューログロビンと呼ばれる第三のグロビンは中枢神経系で優先的に発現するが、その機能はよくわかっていない(4)。
シトクロムは、細胞のエネルギー生産、つまり生命に必要なミトコンドリアの電子輸送に重要な役割を持つヘム含有酵素である。特に、細胞における主要なエネルギー貯蔵化合物であるATPの合成の際に、シトクロムは電子運搬体として働く。シトクロムP450(CYP)は、多くの重要な生物学的分子(有機酸、脂肪酸、プロスタグランジン、ステロイド、ステロール、およびビタミンA、D、Kを含む)の代謝に関わる酵素ファミリーであり、解毒作用や薬物および汚染物質の代謝にも関わっている。NADH脱水素酵素、およびコハク酸脱水素酵素などのクエン酸回路における非ヘムの鉄含有酵素も、エネルギー代謝に重要である(1)。
カタラーゼやいくつかのペルオキシダーゼは、潜在的に有害な活性酸素種(ROS)である過酸化水素の蓄積から、過酸化水素を水と酸素に変換する反応の触媒作用をすることで細胞を護るヘム含有酵素である。免疫反応の一部として、ある種の白血球は細菌を取り込んでそれらを殺すためにROSに晒す。好中球によるそのようなROSの一つである次亜塩素酸の合成は、ヘム含有酵素であるミエロペルオキシダーゼによって触媒される(1)。
さらに甲状腺では、ヘム含有の甲状腺ペルオキシダーゼが甲状腺ホルモン生成のためのサイログロブリンのヨウ素化を触媒しており、鉄欠乏症や鉄欠乏症性貧血の際に甲状腺の代謝が損なわれる可能性がある(「栄養素相互作用」の項参照)。
高地に住む者や慢性肺疾患の者が経験するような不適切な酸素濃度(低酸素症)は、赤血球の生成増加、血管成長(血管生成)増加、および嫌気性代謝で使用される酵素の生成増加を含む補償的な生理学的反応を引き起こす。低酸素症は、虚血/脳卒中や炎症性障害などの病態でも見られる。低酸素の状態では、低酸素誘導因子(HIF)として知られる転写因子が低酸素症への補償的反応に関わる様々なタンパク質を符号化する遺伝子中の応答配列と結合し、その合成を増やす。ジオキシゲナーゼファミリー(二原子酸素添加酵素ファミリー)の鉄依存性酵素であるHIFプロリルヒドロキシラーゼ(HIFプロリン水酸化酵素)とアスパラギニルヒドロキシラーゼ(HIF-1阻害因子(FIH-1))は、HIFの調整に関連している。細胞の酸素分圧が適正な時には、新規に合成されたHIF-αサブユニット(HIF-1α、HIF-2α、HIF-3α)は、急速な分解のためにHIF-αを標的にした鉄/2-オキソグルタル酸依存性のプロセスにおいてHIFプロリルヒドロキシラーゼによって修飾される。FIH-1に誘発されたHIF-αのアスパラギニルヒドロキシル化は、HIF-α転写複合体に対する活性化補助因子の補充を減らし、その結果HIF-αの転写活性を防いでしまう。細胞の酸素分圧が危機的なしきい値より低くなると、プロリルヒドロキシラーゼはもはやHIF-αを分解の標的にすることができない。するとHIF-αとHIF-βの結合を許すことになり、細胞核に入りエリスロポエチン遺伝子(EPO)のような標的遺伝子の特定の低酸素応答配列(HRE)と結合する転写複合体を生成する(5)。
リボヌクレオチド還元酵素(RNR)は、DNA複製に必要なデオキシリボヌクレオチドの合成を触媒する鉄依存性酵素である。RNRは、DNA損傷に反応してDNA修復も促進する。DNAポリメラーゼやDNAヘリカーゼなどのDNA合成や修復に不可欠なその他の酵素は、鉄硫黄(Fe-S)クラスタータンパク質である。根本となるメカニズムは未だにはっきりしないが、細胞内の鉄の枯渇は、細胞の周期進行、成長、および分裂を阻害することがわかっている。ヘム合成の阻害も、乳がん細胞では細胞周期の停止を誘発する(6)。
鉄は、成長、生殖、治癒、および免疫機能を含むその他の多くの重要な機能に必要である。
鉄は不可欠な無機質であるが、細胞内の遊離した鉄は酸化ストレスや細胞損傷を引き起こすフリーラジカルの生成につながるかもしれないため、鉄は潜在的に毒性を持つ。したがって、体が全身の鉄の恒常性を調整することが重要である。体は発育中の赤血球(赤芽球)、体を循環するマクロファージ、鉄を貯蔵する肝細胞、およびその他の組織などの様々な部位への鉄の輸送を厳しく調整する(7)。細胞内の鉄の濃度は体の鉄の需要に従って調整されるが(下記参照)、細胞外のシグナルもヘプシジンの作用を通して体の鉄の恒常性を調整する。
主に肝細胞で合成されるペプチドホルモンであるヘプシジンは、全身の鉄の恒常性の主要な制御因子である。ヘプシジンは鉄排出タンパク質であるフェロポーチン-1の内部移行と分解を誘発することができる。フェロポーチン-1は腸細胞、肝細胞、および鉄を再利用するマクロファージなどの特定の細胞から血漿への鉄の放出を調整する(8)。体の鉄濃度が低かったり鉄欠乏性貧血の状態の時には、ヘプシジンの発現が最小限になり、食事からの鉄の吸収や体の貯蔵からの鉄の移動ができるようにする。対照的に、鉄の貯蔵が十分だったり鉄が過負荷になっている時には、ヘプシジンは食事性の鉄の吸収を阻害し、細胞の鉄のゼクエストレーション(分離)を促進し、鉄の生物学的利用性を下げる。ヘプシジンの発現は炎症や小胞体ストレスの状態では上方制御され、低酸素では下方制御される(9)。2B型ヘモクロマトーシス(血色素症)では、ヘプシジンの遺伝子であるHAMPの突然変異によるヘプシジン欠乏症が組織における異常な鉄の沈着を起こす(「鉄の過負荷」の項参照)。留意したいのは、体を襲う微生物の鉄の利用性を制限することで、ヘプシジンは自然免疫応答における主要な抗菌的役割をしていると考えられることである(「感染中の鉄捕獲防御」の項参照)(10)。
鉄応答エレメント(IRE)は、鉄の貯蔵、輸送、および利用の調整における重要なタンパク質を符号化するメッセンジャーRNA(mRNA)の中に見られるヌクレオチドの短配列である。鉄調整タンパク質(IRPすなわちIRP-1、IRP-2)はIREと結合可能で、mRNAの安定性と翻訳を制御し、それによってフェリチン(鉄貯蔵タンパク質)やトランスフェリン受容体-1(TfR;細胞の鉄の取り入れを制御する)などの特定のタンパク質の合成を調整する(1, 2)。
鉄の供給が少ない時は、鉄は貯蔵や血漿への放出に利用できない。IRPと結合する鉄が少なくなり、IRPはIREと結合するようになる。フェリチンとフェロポーチン-1(鉄排出タンパク質)を符号化するmRNAの5'端にあるIREとIRPが結合すると、mRNAの翻訳とタンパク質合成が阻害される。未成熟な赤血球におけるヘム合成の重要な調整酵素を符号化するmRNAの翻訳も、鉄の保持のために減る。対照的に、TfRと二価金属輸送体-1(DMT1)を符号化するmRNAの3'端にあるIREに結合するIRPは、鉄の輸送体の合成を促進し、それによって細胞への鉄の取り込みを増やす(1, 2)。
鉄の供給が多い時はより多くの鉄がIRPと結合し、それによってmRNAのIREとIRPの結合が防がれる。これによって鉄の貯蔵に関係するタンパク質(フェリチン)と排出に関連するタンパク質(フェロポーチン-1)の合成が増え、鉄の輸送体(TfRとDMT1)の合成が減って鉄の取り込みが限定されるようになる(2)。脳内でもIRPはアミロイド前駆体タンパク質(APP)mRNAの5'端との結合が妨げられ、それによってAPPの発現が可能になっている。APPはフェロポーチン-1の安定化によってニューロン(神経細胞)からの鉄の排出を促進する。パーキンソン病(PD)ではAPPの発現が不適切に抑制され、ドーパミン作動性ニューロンに鉄が蓄積することになる(11, 12)。
鉄はほとんどの感染病原体が成長し拡散するために必要であり、感染された宿主も効果的な免疫反応を開始するために鉄が必要である。Tリンパ球の分化と増殖、および病原体を殺すための活性酸素種(ROS)の発生にも鉄が十分にあることが重要である(13)。感染中および炎症中にはヘプシジンの合成が上方制御され、血清鉄濃度が下がり、フェリチン(鉄貯蔵タンパク質)濃度が上がる。このことは、病原体から鉄を隔離することが宿主の重要な防御メカニズムであるという考えを裏付けている(2)。
成人の体における鉄の総含有量は女性で2.3g、男性で3.8gと推定されている(2)。体は鉄をほとんど排泄しない。基礎的な喪失、月経による出血、および新しい組織の生成のための鉄の需要は、毎日少量の食事性の鉄(1~2mg/日)を吸収することで補われている。体内の鉄は主に赤血球にあり、ヘモグロビン1gあたり3.5mgが含まれている。老化した赤血球は脾臓でマクロファージに取り込まれ、約20mgの鉄がヘムの再利用によって毎日回収される。放出された鉄は脾臓のマクロファージのフェリチンに貯蔵されるか、鉄をその他の組織に運ぶトランスフェリン(血中の主要な鉄輸送体)へとフェロポーチン-1(鉄排出タンパク質)によって運ばれる。鉄の再利用は非常に効率的であり、毎日約35mgが再利用される(1)。
鉄の貯蔵量、体内循環している鉄の量、および血液学的パラメータの測定は、炎症性障害、寄生虫感染、および肥満のない健康な人々の鉄の栄養状態の評価に使用可能である。一般的に使用される鉄の状態のバイオマーカーは、血清フェリチン(鉄貯蔵タンパク質)濃度、血清鉄濃度、総鉄結合能(TIBC)、およびトランスフェリン(血中の主要な鉄輸送体;TSAT)飽和度などがある。可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)も、鉄の貯蔵が枯渇している際の鉄の栄養状態の指標である。鉄欠乏症および鉄欠乏性貧血の場合には、二鉄トランスフェリンと結合する細胞表面結合トランスフェリン受容体が増やされ、利用可能な鉄の取り込みを最大化する。したがって、細胞結合トランスフェリン受容体の分割によって増えたsTfRの濃度が鉄の欠乏時には上昇する。ヘモグロビン濃度、平均赤血球ヘモグロビン濃度、平均赤血球容積、および網赤血球ヘモグロビン含量を含む血液学的マーカーは、貧血がある場合の異常を検出するのに役立つ(9, 14)。
留意したいのは、血清フェリチンは炎症によって上方制御される急性相反応タンパク質であることだ。重要なことに、病原体による利用性を制限するために炎症によって血清ヘプシジン濃度も上昇する。したがって炎症の可能性を除外するために、鉄の栄養状態を評価する際には炎症マーカー(C反応性タンパク質、フィブリノゲンなど)も含めることが大切である(14)。
ビタミンA欠乏症はしばしば鉄欠乏症とともに現れ、鉄の代謝を変化させることで鉄欠乏性貧血を悪化させるかもしれない(15)。ビタミンA補給は鉄欠乏性貧血に有益であり、子供や妊婦の鉄の栄養状態を向上させることが示されてきた(15, 16)。ビタミンAと鉄の組み合わせは、鉄またはビタミンA単独での補給よりも貧血を効果的に治すようである(17)。ヘモグロビンに取り込むために、ビタミンAは貯蔵場所から発育中の赤血球への鉄の移動を促進するのかもしれない(15, 16)。さらに、ラットでの研究では鉄欠乏症が血漿および肝臓のビタミンA濃度を変えることが示されている(18, 19)。
銅の栄養状態が適切であることは、正常な鉄の代謝と赤血球の生成に必要である。貧血は銅欠乏症の臨床的兆候であり、鉄は銅欠乏症の動物の肝臓に蓄積することがわかっている。このことから銅は(銅を含んだセルロプラスミンを介して)、赤血球生成のための骨髄への鉄の輸送に必要であることが示される(20)。銅の利用性と鉄の代謝との関連は、ヒトでも確立している。銅欠乏症は、二次性セルロプラスミン欠乏症や肝臓での鉄の過負荷および/または肝硬変へと至る可能性がある(21)。銅欠乏症の被験者においては、経口銅補給によって正常なセルロプラスミン濃度や血漿フェロキシダーゼ活性が回復し、鉄の代謝障害が補正された(22)。さらに、高い鉄濃度の調乳を飲んだ乳児は低い鉄濃度の調乳を飲んだ乳児よりも銅の吸収が少なかったため、鉄の高摂取が乳児の銅の吸収に支障をきたすかもしれないことが示唆される(23)。
亜鉛は赤血球生成を適切に維持するために必須である。鉄欠乏症と亜鉛欠乏症が同時に起こると、鉄欠乏性貧血を悪化させるかもしれない(24)。その一方、空腹で高用量の鉄サプリメントを亜鉛のサプリメントと同時に摂取すると、亜鉛の吸収が阻害されるかもしれない。食物と一緒に摂取すると、鉄のサプリメントは亜鉛の吸収を阻害しないようである。鉄強化食品が亜鉛吸収を損なうことはない(25, 26)。
カルシウムがあると、非ヘム鉄(肉、家禽の肉、および海産物以外の食物源およびほとんどのサプリメント由来)およびヘム鉄の摂取源からの鉄吸収が減る(27)。しかし、最長12週間までカルシウムの補給をしても、おそらくは鉄の吸収を増やして補ったため、鉄の栄養状態は変化しなかったことがわかっている(28)。鉄のサプリメントを摂取している個人は、カルシウムの豊富な食物やサプリメントの摂取から2時間空けて鉄の吸収を最大化するようにすべきである。
重篤な鉄欠乏性貧血は、次のように甲状腺代謝を損なうことがある。それらは (1) 脳下垂体の甲状腺刺激ホルモン反応を変化させる; (2) 甲状腺ホルモン生成のためのサイログロブリンのヨウ素化を触媒する甲状腺ペルオキシダーゼの活性を下げる;および (3) 肝臓でT4からT3への変換を制限し、T3ターンオーバーを増やし、T3の核受容体との結合を減らすことである(29)。西アフリカおよび北アフリカでは、学童のうち最大25%が甲状腺腫と鉄欠乏性貧血を同時に発症していると推定されている(30)。甲状腺腫のある鉄欠乏症の子供による無作為化対照研究で、ヨウ素添加塩を60mg/日の鉄とともに週に4回摂取したら、プラセボに比べて甲状腺の大きさが大幅に減少したことが示された(31)。鉄欠乏性貧血を治すことによって、甲状腺障害を軽減するためのヨウ素補給の効能が向上することが、さらなる介入によって確認された((29, 30)の文献でレビュー)。
鉄欠乏症は米国および世界で最も一般的な栄養素欠乏症である。鉄欠乏症の程度を以下に軽度から重度の順に示す。
鉄の貯蔵は枯渇するが、機能的な鉄供給は制限されていない。
明らかな貧血が起こる前に、骨髄を含む組織への機能性鉄供給が赤血球生成を損なうほど不適切になる。
個人のヘモグロビン濃度が、同性同齢で同じ高度に住む健康な集団のヘモグロビン濃度分布で平均から標準偏差2よりも低くなると、貧血であると定義される(32)。2013年には、人口が50位までの国の子供および青少年の障害の最多原因が貧血であった。19歳未満の者の鉄欠乏性貧血の罹患率が最も高い国々は、アフガニスタン(41%)とイエメン(39.8%)であり、インドは貧血の症例数が最大である(1億4790万人)。米国での罹患率は19.3%と推定され、子供および青少年の鉄欠乏性貧血の症例が1600万近いとされる(33)。
鉄欠乏性貧血は、正常な赤血球生成を支えるのに不適切な量の鉄しかない時に発生する。鉄欠乏性の貧血は通常、小球性であり低色素性であることが特徴である。すなわち、赤血球が測定可能なくらい通常よりも小さく、正常な状態よりも色が薄いくらいまでそのヘモグロビン含有量が減っている。鉄欠乏症のこの段階では、症状は貧血および/または鉄依存性酵素の機能がよくないことによる不適切な酸素輸送の結果かもしれない。血液学的パラメータの変化は、鉄欠乏性貧血の臨床的診断に使用される(「鉄の栄養状態の評価」の項参照)。鉄欠乏症が貧血の唯一の原因ではなく、貧血のみを根拠とした鉄欠乏症の診断または治療は、根底にある原因の誤診や不適切な治療につながるかもしれないことを覚えておくことが重要である(34)。貧血のその他の栄養学的原因に関する情報については、「葉酸塩」および「ビタミンB12」のタイトルの記事を参照のこと。
鉄欠乏症の症状の大部分はそれに関連する貧血の結果であり、疲労、頻脈、動悸、およびあえぐような頻呼吸などを含むかもしれない。鉄欠乏症はいくつかの面で運動能力や身体的作業能力を損なう。鉄欠乏性貧血では、赤血球のヘモグロビン含有量が少ないことで活動中の組織への酸素輸送が減少してしまう。筋肉細胞でのミオグロビン濃度の減少は、酸化的代謝のためにミトコンドリアへ運搬可能な酸素の量を制限する。鉄の枯渇も、電子の輸送やATP合成に必要なシトクロムやその他の鉄依存性酵素のミトコンドリアでの含有量を減らすことによって、筋肉の酸化能を下げてしまう(「機能」の項参照)(35)。
鉄欠乏症の個人では、甲状腺の機能が悪いことと甲状腺ホルモンの合成が損なわれることで、寒さに晒された際に正常な体温を維持する能力が妨害されるであろう(「機能」の項参照)。鉄欠乏症はまた、好中球の食作用や抗菌作用、および感染に対するTリンパ球の増殖反応も損なうかもしれない(1)。重篤な鉄欠乏性貧血は、もろくてスプーン状の爪、口角の痛み、味蕾の萎縮、および舌の痛みを起こすかもしれない。稀なケースでは鉄欠乏性貧血が進行して、咽頭筋の退化により喉や食道に網状組織ができて嚥下困難になるかもしれない(36)。プランマービンソン症候群としても知られる食道の網状組織の形成は、鉄欠乏症に加えて遺伝的体質が関わっているのかもしれない。幼年期の鉄欠乏症および鉄欠乏性貧血は精神運動的な発達を損ない、短期および長期の行動的かつ認知的な変化を引き起こすことが示されている((37)の文献でレビュー)。さらに、非食物を摂取することが特徴的な行動障害である異食症は、鉄欠乏症の症状および原因であるかもしれない(38)。
新生児および6ヶ月までの乳児:妊娠期に母体の鉄貯蔵が不適切だったり貧血だったりすると、妊娠期間や出生体重が減る可能性がある。すなわち、早産および/または低体重の新生児は、鉄欠乏性貧血のリスクが高い(14)。子癇前症や妊娠糖尿病を含む妊娠合併症でも、早期産児および正期産児の鉄貯蔵量が低くなるかもしれない(14)。
健康な満期産児が持つ150~250mgの鉄の大部分は妊娠第三期に蓄積されたものであり、生後4~6ヶ月の生活に十分である(34)。母乳は比較的鉄が少ない(0.2~0.4mg/L)上に、生後6ヶ月までは腸での鉄の吸収が少ないままなので、6ヶ月未満の乳児にとって鉄の貯蔵は必須である。この時期に持続する急速な成長速度での鉄の高需要は、早期産児では体の鉄不足を悪化させる可能性がある(14)。さらに、臍帯結紮が早かった(生後1分未満)乳児は、結紮が遅かった乳児に比べて生後3~6ヶ月で鉄欠乏症に少なくとも2倍なりやすいことが、無作為化対照試験のレビューで提唱された(39)。しかし健康な正期産児は、生後6ヶ月以前に外部から鉄を補給する必要がほとんどない(1)。
生後6ヶ月から3歳までの乳児および幼児:正期産児の鉄貯蔵は、通常は生後の数ヶ月間持ちこたえるのに十分であるが、6ヶ月超の乳児には鉄欠乏症のリスク上昇がある(1)。増加し続ける組織の質量、血液量、および鉄貯蔵の補填のための持続的な鉄の必要量を考えると、米国医学研究所が設定したように、生後7~12ヶ月の乳児に対する鉄の推奨量(RDA)は11mg/日である(表1参照)。
1~3歳の幼児の鉄のRDAは7mg/日である。1999~2002年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータに基づくと、生後12~35ヶ月の幼児の鉄欠乏症の罹患率は6.6~15.2%、鉄欠乏性貧血の罹患率は0.9~4.4%と、民族や社会経済学的地位によって幅があった(14)。
留意したいのは、世界保健機関(WHO)および米国小児学会が1歳児全員の貧血検査を推奨していることだ。しかしながら、米国予防医学専門委員会(USPSTF)の最近の報告では、検査による利点と不利点を評価する十分なエビデンス(科学的根拠)がないと明言されている(34, 40)。
青少年:思春期の初期は急速な成長期である。思春期の少女に月経の際に起こる出血によって、青少年の鉄の必要量がさらに増える(1)。青少年期の鉄のRDAは、少年で11mg/日、少女で15mg/日である(表1参照)。
妊娠可能年齢の妊娠していない女性:2003~2006年のNHANESのデータによると、鉄の栄養状態を示す3つのマーカー(ヘモグロビン、フェリチン、トランスフェリン飽和度の百分率)のうち2つが欠乏症のカットオフ値より低い米国女性の割合は、妊娠していない女性で9.8%だった(41)。
経口避妊薬を使用すると月経の出血が減り、そのため子宮内避妊具(銅のコイル)に比べて鉄の栄養状態がよいという関連がある(1)。
授乳には食事性の鉄の需要が低いという関連があり、妊娠や出産の間に枯渇した鉄の貯蔵を補充することができる。しかし、出産数が多い女性はそのために鉄欠乏症のリスクが高く、鉄の補充が十分ではないかもしれない(41)。
妊婦:発育中の胎児や胎盤による鉄の利用の増加や母体の血液量の増加によって鉄の利用が増えるため、妊娠中は鉄の必要量が大幅に増える(42)。2005~2006年のNHANESからのデータの解析で、可溶性トランスフェリン受容体と血清フェリチンの対数比で評価したところ、18.1%の妊婦(平均年齢27.5歳)は鉄が不足していたことがわかった(43)。鉄欠乏症の罹患率は、妊娠の第1三半期に比べて第2三半期や第3三半期の方が高かった(それぞれ4.5%、20.7%、29.7%)。さらに、妊娠中の鉄欠乏症は、メキシコ系および黒人系アメリカ人の方がヒスパニックでない白人のアメリカ人よりも罹患率が高かったことがわかった(それぞれ23.6%、29.6%、13.9%)(43)。
慢性的出血や急性の失血で鉄欠乏症になるかもしれない。150g/Lのヘモグロビン濃度の血液1ミリリットル(mL)は鉄0.5mgを含む。したがって、わずかな血液でも慢性的に出血すれば鉄欠乏症になるかもしれない。
寄生虫感染:発展途上国での慢性的出血および鉄欠乏症の一般的な原因は、腸の寄生虫感染である(44)。
頻繁な献血:頻繁に献血をする個人、特に月経のある女性は、欠乏症予防のために鉄の摂取を増やす必要があるかもしれない。献血500mLごとに200~250mgの鉄が含まれているからである(45, 46)。
定期的な激しい運動:激しい持久力訓練をするアスリートは、毎日の鉄の喪失が大きいことがわかっている。これは、血液細胞量や筋肉量が増えることや、消化管からの微視的な出血(抗炎症薬の定期的使用を伴う)の増加、または赤血球の脆弱性や溶血現象によるものかもしれない(47)。食品栄養委員会は、定期的に激しい運動をする者は平均的な鉄の必要量が30%高いであろうと推定している(25)。
セリアック病:セリアック病(グルテン性腸症)は、人口の1%に発生すると推定されている自己免疫疾患である。セリアック病の者がグルテンを含む食物や製品を摂取すると、免疫系の反応が腸の粘膜を損い、栄養吸収不要や鉄欠乏性貧血になるかもしれない(48)。
萎縮性胃炎:この病態は通常、胃の細胞を攻撃する抗体の存在と関連し、悪性貧血と関係があるとされてきた(「ビタミンB12」のタイトルの記事参照)。萎縮性胃炎はビタミンB12と鉄の吸収の両方を同時に損なうが、月経期の女性では体内のビタミンB12の貯蔵が枯渇する数年前に鉄欠乏症が起こるかもしれない(47)。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染:H.ピロリ菌感染は、胃腸での出血がなかったとしても鉄欠乏性貧血と関連があり、特に子供のそれと関連がある。2000~2001年のNHANESのデータで、3歳超の者ではH.ピロリ菌感染があると、感染がない者に比べて鉄欠乏症(血清フェリチン濃度に基づく)が40%も多いことが示された(49)。胃腸の潜在出血や食事からの鉄をめぐって細菌と競合しあうことが、感染者の鉄欠乏症の原因であるかもしれない。さらにヘリコバクター・ピロリ菌感染も、萎縮性胃炎の病原としての役割があるのかもしれない(47)。
炎症性腸疾患(IBD):鉄欠乏性貧血は、IBD(潰瘍性大腸炎、クローン病)の患者の間で一般的に報告されている(50)。これはおそらく腸での鉄吸収が損なわれていることと、潰瘍化した粘膜からの出血によるものであろう。
胃バイパス手術:ある種の胃バイパス手術(肥満外科手術)は、栄養素の中でも鉄の吸収不全を起こすことにより、鉄欠乏症のリスクを高める(51)。
肥満:体重と鉄の栄養状態との間の逆相関が、子供および成人の観察研究のいくつかで報告されている(52, 53)。肥満な者のヘプシジン発現が高いことが、鉄の食事性摂取が適切でも鉄の吸収を損なうのかもしれない。肥満の者は、体重減少すれば血清ヘプシジン濃度が下がり、鉄の栄養状態が改善するかもしれない(9)。
慢性疾患性貧血:急性および慢性の炎症によって、異常に低い循環鉄濃度や貧血の発症に至るのかもしれない。このタイプの炎症性の貧血は慢性疾患性貧血(ACD)としても知られ、炎症性疾患、がん、重症疾患、外傷、慢性的感染、および寄生虫の外寄生に一般的に見られる。炎症に誘発されたヘプシジンの上方調整によって、食事性鉄の吸収や体内の鉄貯蔵部位からの鉄の移動が阻害されることで、貧血が起こると考えられている(「鉄の恒常性の全身調整」の項参照)(9)。
鉄の摂取源が不適切な菜食:植物性の鉄(非ヘム鉄)は、動物性の摂取源からの鉄よりも効率的に吸収されない(「摂取源」の項参照)。そのため米国医学研究所(IOM)の食品栄養委員会(FNB)は、鉄の生物学的利用性は西洋式混合食では18%であるのに対し、菜食だと10%でしかないと推定している。したがって完全な菜食をしている者の鉄の推奨量(RDA)は、非菜食の者のRDAよりも1.8倍高いかもしれない(25)。しかし菜食でも、全粒穀物、豆類、ナッツ、種子類、ドライフルーツ、鉄強化されたシリアル、および緑色葉物野菜を含む場合は、鉄欠乏症のリスク上昇と関連しないようである(「摂取源」の項参照)(54)。
慢性腎疾患(CKD):CKD患者が鉄を喪失するのは、腎臓機能が正常な者(0.83mL/日の失血で約100mg/年に相当)に比べて、相当量を胃腸から失血(毎年1.2Lの失血で年に約400mgの鉄に相当)しているからである。血液透析を受けている患者では推定失血量がさらに多く、鉄の喪失量は年に1,000~2,000mg以上であるかもしれない。CKD患者の持続的な炎症は、体内の鉄貯蔵が適切でも赤血球生成のための鉄供給が不適切になることに寄与するかもしれない(55)。
鉄のRDAは2001年に改定され、鉄欠乏症予防と混合食を摂る者の鉄貯蔵を適切に維持することに基づいている(表1;(25))。
鉄欠乏症または鉄欠乏性貧血を予防または緩和することで、以下のような健康状態や疾患に関して鉄の不足や赤血球生成の欠陥の影響を制限することができる。
鉄は中枢神経系の発達に決定的に重要であり、鉄欠乏症は出生前期間および出生後初期には特に有害であると考えられている。鉄依存性酵素は、神経の髄鞘形成、神経伝達物質合成、および神経細胞の正常なエネルギー代謝に必要である(56)。大部分の観察研究で、貧血の有無によらず子供の鉄欠乏症と、認知発達不良、学業成績不良、および異常な行動パターンとの関係がわかった((37)の文献でレビュー)。幼年期初期における精神運動的および精神的な欠陥が鉄の不足だけによるものなのか、または鉄欠乏性貧血や炎症性貧血のように鉄欠乏症と低いヘモグロビン濃度の両方の効果によるのかは不明なままである(14)。
27ヶ月より若い鉄欠乏性貧血の子供による6つの小規模プラセボ対照試験(1978~1989年に発表)の最近のシステマティックレビュー(総括)で、鉄による治療(11日未満)は治療開始から30日以内における精神運動的および精神的発達の測定値に何らかの一貫した効果があるという確信的なエビデンスは見られなかった(57)。貧血で鉄欠乏の乳児による1つの無作為化二重盲検試験だけが4ヶ月にわたる鉄による治療の影響を調べ、認知発達の指標に対する意義深い有益性が見つかったが、さらに確認する必要がある(58)。貧血でない鉄欠乏の乳児(生後0~9ヶ月)による5つの無作為化対照試験のレビューで、生後18ヶ月までの精神運動的発達(精神的発達ではない)の改善が示唆された(59)。乳児期初期(生後4~6ヶ月)の鉄補給も、プラセボに比べて9歳時の認知能力や学業に対する長期的効果は実証されなかった(60)。現在では、貧血があってもなくても、鉄欠乏症の乳児の神経発生的結果に対する鉄による治療の有益性を示すエビデンスは限定的なままである。
貧血および/または鉄欠乏症であるより年長の子供の認知的結果の向上に、鉄治療はより効果的であるかもしれない。17の無作為化対照試験のシステマティックレビューで、鉄補給は27ヶ月未満の幼児の精神発達に何の効果もなかったが、7歳超の子供の精神発達のスコアをやや向上させたことがわかった(61)。鉄欠乏症、貧血、または鉄欠乏性貧血の6歳超の子供、青少年、および女性による無作為化対照試験のより最近のメタ解析で、参加者の鉄の栄養状態とは無関係に、鉄補給が注意力や集中力を向上させるかもしれないことが示された(62)。鉄での治療によるIQ測定値の向上の可能性も、貧血の参加者の鉄の状態に関係なく報告された。記憶能力、精神運動機能、および学業の測定値に関するその他の有益性は見られなかった。
鉄欠乏症による脳機能の変化は、それが幼児期初期に起こると鉄治療に反応しにくいようである。幼い時期の鉄欠乏症の長期的結果には、社会経済学的業績の不良や、不安、うつ病、および統合失調症といった特定の精神病理リスクの上昇が含まれるかもしれない(56)。
妊婦の重篤な貧血と、低出生体重、早期出産、および新生児や母体の死亡率などの妊娠結果への害との関連について、疫学的研究は強力なエビデンスを提供している(63)。鉄欠乏症は重篤な貧血に寄与する主要な要因であるが、鉄欠乏性貧血が妊娠結果の不良を起こすというエビデンスは未だに不足している。さらに、妊娠期の鉄補給は女性の鉄の栄養状態や血液学的パラメータを改善すると示されたが、低出生体重および/または未熟児、新生児の死亡、および先天性異常などの妊娠結果への害を大きく減らすことはできなかった(64)。また妊娠期の日常的補給は、妊娠期間の長さや新生児のアプガールスコアに何の効果もなかった(40)。それにもかかわらず、大部分の専門家は母体の貧血の管理は出生前の健康管理の重要な一部であると考えており、IOMは各妊娠三半期ごとの貧血検査を勧めている(65)。
妊娠の第2三半期および第3三半期には鉄の需要が大きく増え、妊婦へのRDAは27mg/日である(「推奨量」の項参照)(25)。米国産科婦人科学会はすべての妊婦の貧血検査を推奨し、必要ならば鉄補給を勧めている(66)。そうとはいえ、米国予防医学専門委員会(40」および米国家庭医学会(67)は、妊娠中の鉄欠乏性貧血検査や鉄補給の有益性と不利益性を評価するエビデンスが不足していると考えている。
しかしながら、マラリアが風土病の地域では、マラリアの予防および管理の手段とともに鉄補給をすることは、妊娠結果を良くするかもしれない。最近の2つの無作為化プラセボ対照試験では、鉄補給をした鉄欠乏症および鉄が十分な妊婦のマラリア感染リスクの上昇は見られず、このことはマラリアの間欠予防治療(IPT)を採用しているマラリアが風土病の国における全妊婦への鉄補給を支持している(68, 69)。
たとえ少量でも鉛に慢性的に晒された子供は、学習障害や行動的な問題を起こしやすく、IQも低くなりやすい。成長や神経学的な発達における欠陥は、妊娠中や授乳中に鉛に晒された女性の乳児に起こるかもしれない。成人では、鉛毒性によって腎臓損傷や高血圧になるかもしれない。塗料製品、ガソリン、および食品用の缶への鉛の使用は米国では停止しているが、鉛の毒性は引き続き大きな健康問題であり、都心部に住む子供では特にそうである(70)。2012年に米国疾病管理予防センターは、リスクのある子供を識別するために血中鉛濃度の基準値を1 デシリットル 当たり5マイクログラム(μg/dL)に設定した。しかしながら、これ以下なら子供が100%安全であるという血中鉛濃度は知られていない(71)。
鉄欠乏症と鉛中毒には、低い社会経済的地位、少数民族集団、および都市居住者といった多くの同じリスク要因がある。鉄欠乏症は、特にDMT1腸輸送体を介しての腸での鉛吸収を増やすことで、子供の鉛中毒リスクを上げるかもしれない(72)。しかし、真に鉄欠乏症または慢性的に鉛に晒されている鉄が十分な子供(鉛に晒された家に住むなど)に対しては、鉛中毒での鉄補給は控えるべきであるかもしれない(72)。
下肢静止不能症候群(RLS;別名むずむず脚症候群またはウィリス・エクボム病)は、原因不明の神経学的運動障害である。RLSの者は、下肢を動かしたくなる抵抗し難い衝動や一過性の動きの中断という不快な感覚を経験する。これらの感覚は休息中により多く、しばしば睡眠の妨げとなる(73)。RLSの罹患率は女性の方が男性よりも高く、加齢とともに増える(74)。この症候群は患者の約50%に遺伝するようであり、慢性腎不全とも関係する(73)。RLSの発症には鉄欠乏症が関わっているかもしれず、神経伝達物質であるドーパミンの合成における律速鉄依存性酵素のチロシン水酸化酵素の活動に影響するのであろう(74)。RLSの管理には、鉄治療やドーパミン作動薬などの薬剤の使用が含まれる(73)。現在の臨床的エビデンスは、RLSの症状のいくつかを緩和するのに鉄治療が役立つのかどうかを評価するには不十分である(74)。しかしウィリス・エクボム病症候群財団のメディカルアドバイザリーボード(医学諮問委員会)は、すべてのRLS患者における鉄の栄養状態が評価されるべきであり、有益であるかもしれない者には鉄治療がケースバイケースで試されるべきであると提言している(73)。
体で吸収され利用される食物やサプリメントからの鉄の量は、個人の鉄の栄養状態や鉄がヘムの形態であるかどうかによって影響される。非ヘム鉄とは異なったメカニズムで吸収されるので、ヘム鉄はすぐに吸収されやすく、またその吸収はその他の栄養素による影響を受けにくい(2)。体の鉄の状態を改善しようと、鉄が十分な者に比べて貧血や鉄欠乏の個人では鉄の吸収が強化される。
ヘム鉄は主に肉、家禽の肉、および魚のヘモグロビンやミオグロビンに由来する。ヘム鉄は食事中の鉄のわずか10~15%しか占めていないが、吸収された食事性鉄全体の最大で三分の一にもなるかもしれない(54)。ヘム鉄の吸収は、非ヘム鉄のそれよりもその他の食事性要因に影響されにくい(27)。
植物、乳製品、肉、および食品やサプリメントに添加された鉄塩は、すべて非ヘム鉄の摂取源である。非ヘム鉄の吸収は、同じ食事に含まれるエンハンサー(促進物質)やインヒビター(阻害物質)によって強く影響を受ける(27)。
非ヘム鉄吸収のエンハンサー
非ヘム鉄吸収のインヒビター
米国の全国調査で、食事性鉄の平均摂取量は男性で16~18mg/日、閉経前および閉経後の女性で12mg/日、および妊婦で15mg/日であることが示された(25)。したがって、米国の閉経前の女性および妊婦の大半はRDAよりも少ない鉄しか摂取していないが、多数の男性はRDAより多く鉄を摂取している(「推奨量」の項参照)。米国では、ほとんどの穀物製品は非ヘム鉄が強化されている。比較的鉄の豊富ないくつかの食品の鉄含有量を、表2にミリグラム(mg)で示す。特定の食品の栄養素含有量についての詳細は、米国農務省の食品成分データベースを検索のこと。
鉄のサプリメントは、鉄欠乏症および鉄欠乏性貧血の予防と治療用と表示されている。鉄欠乏症のリスクのない個人(成人男性や閉経後の女性など)は、適切な医学的評価無しで鉄のサプリメントを摂取すべきではない。多くの鉄サプリメントが市販されており、異なる形態で異なる元素鉄の割合で提供される。硫酸第一鉄七水和物には元素鉄が20%含まれており、硫酸第一鉄一水塩には33%含まれ、グルコン酸第一鉄では12%、フマル酸第一鉄では33%である。特別に断りがなければ、この記事での鉄とは元素鉄のことである。
腸での鉄吸収の調節解除は、体が過剰な鉄を排泄できないので、鉄の過負荷に至るであろう(2)。しかし、長期の鉄補給による鉄の過負荷は、遺伝的体質でない健康な個人には非常に稀である。いくつかの遺伝性障害では、鉄の摂取が正常でも体に病理学的な鉄の蓄積が起こることがある。未検出なままの遺伝性疾患が多いことや、慢性的鉄過剰摂取のより微妙な効果が最近懸念されていることから、鉄欠乏症でない個人への補給は避けるべきである(「鉄過負荷に関連する疾患」の項参照)。
遺伝性ヘモクロマトーシス(HH)とは、鉄代謝に関する遅発性常染色体劣性遺伝疾患であり、肝臓、心臓、およびその他の組織に鉄が蓄積してしまう。この疾患は、肝硬変、糖尿病、心筋症(心臓の筋肉の損傷)、性腺機能低下症、関節症(関節トラブル)、および皮膚色素沈着の増加などが起こるかもしれない((78)の文献でレビュー)。HHには4つの主要なタイプがあり、突然変異をしている特定の遺伝子によって分類されている。最も一般的なHHのタイプは1型またはHFE関連HHと呼ばれ、HFE遺伝子の突然変異に由来する(79, 80)。1型HHケースの大半は、HFE遺伝子の突然変異C282Y G>A(rs1800560)がホモ接合になる。1型HH患者の4%に見られるその他の突然変異は、HFE遺伝子のH63D C>G(rs1799945)である。HFE遺伝子によって符号化されたタンパク質は、腸での食事性鉄の吸収を調整し体の鉄貯蔵を感知する役割があると考えられている(81)。HFE遺伝子の変異は、細胞での鉄の取り込みが増加することに関連がある。30歳前に典型的に発症する若年性ヘモクロマトーシス(HH2型)は1型HHよりもずっと稀で、ヘモジュベリン(2A型)またはヘプシジン(2B型)のどちらかの機能に影響する遺伝子変異に由来する(82)。3型HHはトランスフェリン受容体2遺伝子(TFR2)の変異によるもので、4型HH(フェロポーチン病とも呼ばれる)は、細胞外に鉄を運び出すのに重要なタンパク質であるフェロポーチン-1(SLC40A1)を符号化する遺伝子の変異によるものである(「調整」の項参照)。4型HHは、1型HHに次いで2番目に多い遺伝性鉄過負荷障害である(78)。
HHの鉄過負荷は、鉄過負荷の重篤度によって決定される間隔で一回につき500mLの血液を除去する静脈切開によって治療される。キレート療法は、静脈切開治療を受けられないHH患者の鉄を取り除く別の選択肢である。HHの者は鉄サプリメントを避けるように忠告されるが、鉄の豊富な食物を避けるようにとは一般的に言われない。高用量ビタミンCレジメン(治療計画)は、HH患者の鉄過負荷を悪化させるかもしれない(75)。肝硬変のリスク上昇のため、アルコール摂取は強く禁止される(83)。遺伝子検査は血液サンプルが必要であるが、家族にヘモクロマトーシスの病歴のある者などHHのリスクがあるかもしれない者の利用が可能である。
鉄過負荷になるその他の遺伝性障害には、無セルロプラスミン血症、低トランスフェリン血症、フリードライヒ運動失調症、および晩発性皮膚ポルフィリン症などがある(2)。
鉄過負荷は、鉄欠乏症にはよらない重篤な遺伝性貧血の者が発症するかもしれない。食事からの鉄の過剰吸収は、体が赤血球を作ろうと努力し続けている結果起こるのかもしれない。ベータサラセミア(地中海貧血症)は、βグロビン遺伝子の突然変異によるヘモグロビンA合成の欠損が特徴である。中間型サラセミア患者は、サラセミアの最も重篤な形態(重症型サラセミアと呼ばれる)の者のように輸血を必要としないが、腸からの鉄吸収が増えることで鉄の過負荷を起こす(84)。鉄の過負荷リスクのあるその他の貧血患者は、鉄芽球性貧血、溶血性貧血、ピルビン酸キナーゼ欠乏症、および重症型サラセミアなどの者であり、特にそれは彼らが何回も輸血をして治療されることによるものである。遺伝性の球状赤血球症や軽症型サラセミアの者は、鉄欠乏症と誤診され何年も大容量の鉄で治療されることがなければ、通常は鉄過負荷にはならない。鉄の過負荷は、血液透析や慢性肝疾患(代謝性、ウィルス性、およびアルコール性)とも関連付けられてきた(2)。
遺伝性ヘモクロマトーシス(HH)における重要臓器への有害な鉄沈着は、肝臓がん、2型糖尿病、および神経変性疾患と関連付けられてきた。HHでない者でも、鉄の過負荷は慢性疾患のリスクを上昇させるかもしれない。遺伝性障害のない者における組織での鉄の蓄積が、食事性鉄の高摂取によるものなのかどうかは十分にわかっていない(1)。
肝臓での異常な鉄の蓄積が特徴的な遺伝性ヘモクロマトーシスは、肝臓がん(肝細胞がん(HCC))のリスク要因である。鉄の蓄積は、脂質、タンパク質、およびDNAへの損傷を起こす酸化ストレスを増やすことで、発がん性物質として機能すると考えられている。9つの観察研究のメタ解析で、健康な参加者および慢性肝疾患の患者でHFE遺伝子にC282Y変異があると、HCCのリスクが上昇することがわかった(「鉄の過負荷」の項参照)(85)。その他のメタ解析でも、HFE遺伝子のC282YおよびH63D変異と、がん全体のリスク上昇との間の関連が報告されている(86, 87)。しかしHFE遺伝子の変異と肝臓外の部位でのがんのリスクに関する報告をしている研究は少ないか、一貫していないかである。すべてではないが、いくつかの観察研究でC282Y変異と結腸直腸がん(88)、乳がん(88, 89)、および上皮性卵巣がん(90)のリスクとに大きな関連があることがわかった。HFE遺伝子のH63D変異は、白血病(91, 92)、および胃がん(93)のリスク上昇と関連があった。
食事性鉄の高摂取でヘモクロマトーシスでない者のがんリスクが上昇するのかどうかも調査されている。ヘム鉄が豊富な赤肉または加工肉(白肉ではない)の摂取は、結腸直腸がん(CRC)のリスク上昇と関連付けられてきた(94)。肉が高温で調理される際に発生する発がん性化合物(複素環式アミンと呼ばれる)や、赤肉や加工肉を食べた後で消化管で作られる発がん性Nニトロソ化合物に晒されることで、そのように関連するのかもしれない(95)。観察研究のいくつかのメタ解析でも、赤肉のヘム鉄とCRCの関連の可能性が示唆されている(96~98)。これは、損傷を起こすかもしれないNニトロソ化合物やヘム鉄が触媒する反応で派生する脂質過酸化最終産物に、結腸の細胞がより多くさらされることよるものであると説明されてきた(99)。さらに、大規模ながんと栄養に関する欧州前向き研究(EPIC)からの最近の結果で、食道腺がんのリスクが高いことと赤肉/加工肉およびヘム鉄の高摂取との関連が示唆された(100)。
血管壁の損傷とアテローム性動脈硬化症の発症における鉄に誘発された酸化ストレスの役割が実験研究で示唆されたが、それはほとんどの心血管疾患の根底にある(101)。しかし、ヒトでの鉄の栄養状態と心血管疾患の疫学的研究では、矛盾する結果が生じてきた。156,427人の参加者(9,236の冠動脈性心疾患(CHD)または心筋梗塞(MI)症例)による17の前向きコホート研究の最近のシステマティックレビューおよびメタ解析では、鉄の状態に関する多くの異なる測定値とCHD/MIとの間に強い関連があることを裏付けるエビデンスを見つけることができなかった(102)。血清トランスフェリン飽和度が最も高い四分位の者は、最も低い四分位の者よりもCHD/MIの発症が18%低かっただけであった(102)。21の前向き研究の別のメタ解析では、血清トランスフェリン飽和度や血清鉄はCHDリスクと逆相関があるとわかった。しかし、ほとんどの研究で炎症による紛らわしい影響への補正をしていないことを、著者らは注記している(103)。このレビューではCHDの発症と食事性鉄の総摂取量との間の逆相関を報告しているが、食事性ヘム鉄はCHDの発症と正の相関があった(103)。鉄の貯蔵とCHD/MIの関係はさらなる解明が必要であるが、鉄欠乏症のリスクがない者(成人男性や閉経後の女性など)は過剰な鉄摂取を控えることが賢明であろう。
遺伝性ヘモクロマトーシス(HH)の者は、2型糖尿病の発症リスクが高いことが知られている(104)。ヘモクロマトーシスとは別に、2型糖尿病の病因における過剰な鉄の役割も増大するエビデンスから示唆されている。横断研究、症例対照研究、および前向きコホート研究は、フェリチン濃度(体の鉄貯蔵を反映する)が高いと低い場合に比べて2型糖尿病(105)やメタボリック症候群(106)のリスクが高いことを、炎症への補正の後で報告している。鉄の状態に関するその他の指標が2型糖尿病のリスクとどのように関係するのかは、現在ではよくわからない(107~110)。HH患者の鉄の過負荷で誘発される酸化ストレスは、膵臓のβ細胞を傷つけインスリン分泌を損なうと考えられている。HHでない被験者では、鉄の過剰はβ細胞の機能を損傷するのではなく肝臓を損ない、ブドウ糖代謝に支障をきたしてインスリン抵抗性を起こすのかもしれない(111, 112)。静脈切開による鉄の除去は、2型糖尿病(113)およびメタボリック症候群(114)の被験者の代謝指標を向上させることが示されている。体の鉄貯蔵を減らすことが2型糖尿病やメタボリック症候群の予防に役立つのかどうかを決定する追加的な無作為化対照試験が必要である。
鉄は細胞代謝や神経伝達物質およびミエリンの合成に関わっていることから、正常な脳や神経の機能に必要である。鉄の恒常性の調節解除は、アルツハイマー病、パーキンソン病、および筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病(ALS))を含む多くの神経変性疾患で観察されている(115~117)。脳での鉄の異常蓄積は食事性鉄の摂取増加によるものではなく、細胞の複雑な鉄調整プロセスが破壊されることの結果であるようだ(117)。脳での鉄の蓄積は酸化ストレスを増加させるかもしれず、脳は酸化ストレスに特に影響されやすい。神経変性疾患の患者の脳における鉄恒常性破壊のメカニズムは、活発に研究されている。たとえば、遺伝子改変マウスのモデルを使用した研究では、上流の一酸化窒素(NO)の上昇によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の発現(11)またはタウタンパク質の消失(12)が神経細胞の鉄排出を損わせ、パーキンソン病で影響を受ける脳の特定部位への鉄の蓄積に至るのかもしれないことが示された。初期段階のパーキンソン病患者による予備的二重盲検プラセボ対照試験では、鉄キレート剤であるデフェリプロンの12ヶ月間経口投与で、黒質と呼ばれる脳の部位での鉄沈着が減り、全身的な鉄の恒常性を損なうことなく運動能力が向上したことが実証された(118,119)。
鉄含有製品の偶発的な過量服用は、6歳未満の子供の中毒死の単独で最大の原因である。元素鉄の経口致死量は体重1kg当たり約180~250mgであるが、これより相当少なくても致命的である。急性の毒性症状は、体重1kg当たり約20~60mgの鉄用量で起こるかもしれない。鉄の毒性の重篤度は吸収された元素鉄の量に関係するので、鉄の過量服用は非常事態である。急性の鉄中毒は4つの段階で症状を呈する。(1)摂取から1~6時間以内では、症状は吐き気、嘔吐、腹痛、タール便、無気力、弱い速脈、低血圧、発熱、呼吸困難、および昏睡を含むかもしれない。(2)すぐに致命的でないならば、約24時間症状が鎮まるかもしれない。(3)鉄の摂取後12~48時間して症状がぶり返し、心血管系、腎臓、肝臓、血液、および中枢神経系といった臓器系の深刻な不全の兆候があるかもしれない。そして(4)摂取から2~6週間後に中枢神経系、肝臓(硬変)、および胃への長期的損傷が起こるかもしれない(25, 120)。
鉄欠乏症の治療で用いられる治療用濃度では、鉄サプリメントは胃腸への刺激、吐き気、嘔吐、下痢、または便秘を起こすかもしれない。便はしばしば色が濃く見える。鉄を含んだ液体は一時的に歯を着色することがあるが、その液体を薄めることがこの効果の予防に役立つ(120)。空腹ではなく食物と一緒に鉄サプリメントを摂取すると、胃腸の症状を緩和できるかもしれない。米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)は、鉄の許容上限摂取量(UL)を胃腸の苦痛を予防することに基づいて設定した(表3)。青少年(14~18歳)と、妊婦や授乳婦を含む成人のULは45mg/日である。厳密な医学的監督下で鉄による治療を受けている者に対しては、このULの適応は意図されていないことを留意すべきである。遺伝性ヘモクロマトーシスまたはその他の鉄過負荷症状のある者、およびアルコール性硬変やその他の肝臓疾患のある者は、UL未満の鉄摂取量でも有害作用があるかもしれない(25)。
制酸薬、ヒスタミン(H2)受容体拮抗薬(シメチジン、ラニチジンなど)、およびプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、ランソプラゾールなど)のような胃の酸度を下げる薬剤は、鉄の吸収を損なうかもしれない。次の薬剤と同時に鉄のサプリメントを摂取すると、その薬剤の吸収や効能を下げるかもしれない。それらはカルビドパおよびラボドパ(シネメット)、レボチロキシン(シンスロイド、レボキシル)、メチルドパ(アルドメット)、ペニシラミン(カプリミン、デペン)、キノロン、テトラサイクリン、およびビスフォスフォネート(120)である。したがってこれらの薬剤は、鉄サプリメントの摂取から2時間の間隔を空けて摂取するのが最善である。コレスチラミン(クエストラン)およびコレスチポール(コレスチド)は血中コレステロール濃度を下げるのに使用されるが、鉄の吸収に支障をきたすかもしれないので、これも鉄サプリメントとは少なくとも4時間空けて摂取すべきである(121)。痛風の治療に使用される薬剤のアロプリノール(ザイロプリム)は肝臓での鉄貯蔵を増やすかもしれず、鉄サプリメントと併用すべきではない。
免疫反応における鉄の重要な機能にもかかわらず、鉄の栄養状態と感染症、特にマラリアのかかりやすさとの関係の本質は論争の的であった。鉄捕獲は病原体に対する防御メカニズムとして認知されている(「感染中の鉄捕獲防御」の項参照)が、鉄補給、特にマラリア風土病地域に住む鉄が足りている子供への鉄補給の安全性に関する懸念が起きている(122)。
熱帯に住む子供への鉄補給は、臨床的なマラリアや肺炎などの他の感染症のリスク上昇と関連付けられてきた(123, 124)。東アフリカ(タンザニア)のマラリア風土病地域に住む24,076人の子供(1~35ヶ月)による無作為化対照試験で、鉄および葉酸を亜鉛有りまたは無しで補給する効果が、全死因および入院に関して亜鉛単独またはプラセボの効果と比べて調査された(125)。鉄、葉酸、および/または亜鉛の投与は重篤な有害作用、入院、および死亡のリスクを上昇させることがわかり、したがって早期に中止された。試験のさらなる解析で、鉄が足りている子供は鉄欠乏症の子供(貧血の有りまたは無し)に比べて、鉄補給の後の有害作用のリスクがあることが明らかになった(125)。日常的鉄補給のそのような有害作用の潜在的リスクは、マラリアがない環境(ネパール南部)の学齢前の子供には見られなかった(126)。
35の試験の最近のレビューで、マラリアの予防および管理ができるマラリア風土病地域に住む子供の臨床的マラリアやその他の寄生虫症、感染、および全死因のリスクは、鉄補給によって上昇しなかったことが示された(127)。さらに、3つの高品質試験の統合解析で、抗マラリア治療と併用した鉄補給は子供を臨床的マラリアから守り、血液学的パラメータを改善したことが実証された(127)。世界保健機関(WHO)は現在、マラリア風土病地域においてマラリアの予防、診断、および治療の方策とともに乳幼児や子供への鉄補給を行うことを推奨している(128)。
鉄のRDAに従うことで、ほとんどの者に有害作用を起こすことなく鉄欠乏症を予防するのに十分な鉄が得られるはずである。十分な鉄は様々な食事から得られるものではあるが、かなりの者が欠乏症を予防するのに適量な鉄を摂取していない。鉄の一日摂取基準量(DV)の100%を含むマルチビタミン/ミネラルのサプリメントは、18mgの元素鉄を含む。この鉄量は閉経前の女性には有益であろうが、男性および閉経後の女性にとってのRDAをずっと上回る。
遺伝性ヘモクロマトーシスは一般的ではなく、慢性疾患リスクに関する長期的な食事性鉄の過剰摂取効果も未だにはっきりしないため、鉄欠乏症のリスクがない男性および閉経後の女性は、鉄を含まないマルチビタミン/ミネラルのサプリメントを摂取すべきである。男性または50歳超の者に特定して調整された多くのマルチビタミンは鉄を含まない。
中年および年配の者では、やや高めの鉄貯蔵が鉄欠乏症よりもずっと一般的であるかもしれない(129)。したがって鉄欠乏症と診断されない限り、年配者は一般的に鉄を含んだ栄養サプリメントを摂取すべきでない。さらに、単に鉄のサプリメントで鉄欠乏症を治療するのではなく、鉄欠乏症の根底にある原因を決定することは極めて重要である(「推奨量」の項参照)。
Originally written in 2001 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in March 2003 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in January 2006 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in August 2009 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in April 2016 by:
Barbara Delage, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in May 2016 by:
Marianne Wessling-Resnick, Ph.D.
Professor of Nutritional Biochemistry
Department of Genetics and Complex Diseases
Harvard T.H. Chan School of Public Health
The 2016 update of this article was underwritten, in part, by a grant from Bayer Consumer Care AG, Basel, Switzerland.
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