目次
非金属微量元素であるヨウ素は、ヒトの甲状腺ホルモンの合成に必要である。ヨウ素の欠乏は世界の多くの地域における重要な健康問題である。地球上のヨウ素の大部分は海に存在し、土壌のヨウ素の含有量は地域によって異なる。むき出しになった土壌表面が古いほど、ヨウ素は侵食によって浸み出してしまっている可能性が高い。ヒマラヤ、アンデス、アルプスといった山岳地帯や、ガンジス川のような洪水のあった川の流域は、世界でも最もひどくヨウ素が欠乏している地域に挙げられる(1)。
ヨウ素は甲状腺ホルモンであるトリヨードチロニン(T3)とチロキシン(T4)の必須成分で、したがって甲状腺が正常に機能するために不可欠である。人体の甲状腺ホルモンの需要に答えるために、甲状腺は血液からヨウ素を捕捉し、甲状腺ホルモンにそれを取り込む。その甲状腺ホルモンは貯蔵され、必要に応じて血液に放出されて循環する。肝臓や脳といった標的組織では、生理学的活性を持つT3が細胞核の甲状腺ホルモン受容体と結合し、遺伝子発現を制御する。標的組織では、脱ヨード酵素として知られるセレン含有酵素によって、最も多く循環している甲状腺ホルモンであるT4がT3に変換される。このようにして甲状腺ホルモンは、成長、発達、代謝、生殖機能を含む多数の生理学的プロセスを制御している。(1,2)。
甲状腺機能の制御は、脳(視床下部)や脳下垂体も関係する複雑なプロセスである。視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌により、脳下垂体が甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌する。これが甲状腺によるヨウ素の捕捉、甲状腺ホルモンの合成、およびT3やT4の放出を促進する。T4やT3が適切に循環して視床下部や脳下垂体のホルモン濃度にフィードバックされ、TRHやTSHの生成を減少させる(下図)。循環しているT4の濃度が減少した際には、脳下垂体がTSHの分泌を増やす。それによりヨウ素の捕捉が増え、T3およびT4の生成と放出も増える。ヨウ素が欠乏すると、T4の生成が不十分になる。血液中のT4の濃度が下がると、脳下垂体はTSHの排出量を増やす。TSH濃度が常に高いと、甲状腺腫としても知られる甲状腺肥大を引き起こす可能性がある(「欠乏症」の項参照)(3)。
視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌により、脳下垂体が甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌する。これが甲状腺によるヨウ素の捕捉、甲状腺ホルモンの合成、およびT3(トリヨードチロニン)やT4(チロキシン)の放出を促進する。食物からのヨウ素の摂取が十分であると、T4やT3が適切に循環して視床下部や脳下垂体のホルモン濃度にフィードバックされ、TRHやTSHの生成を減少させる。循環しているT4の濃度が減少した際には、脳下垂体がTSHの分泌を増やす。それによりヨウ素の捕捉が増え、T3およびT4の生成と放出も増える。食事から摂取するヨウ素が欠乏すると、T4の生成が不十分になる。血液中のT4の濃度が下がると、脳下垂体はTSHの排出量を増やす。TSH濃度が常に高いと、甲状腺腫としても知られる甲状腺肥大を引き起こす可能性がある。
ヨウ素の欠乏は、予防可能な脳損傷の最も一般的な原因として世界中で認められている。ヨード欠乏症(IDD)の症状は、精神遅滞、甲状腺機能低下症、甲状腺腫、および様々な程度のその他の成長上や発達上の異常などを含む(1,4)。WHOは世界人口の30%以上(20億人)が、ヨウ素の栄養状態を示す尿中への排出ヨウ素濃度が100マイクログラム(μg)/リットル未満で、ヨウ素の摂取が不十分であると推定している。さらに、世界中の学童期(6~12歳)の子供のうち推定31.5%(2億6,600万人)は、ヨウ素の摂取が不足している(5)。大規模な国際的取り組みの結果、ヨウ素不足の国でのヨウ素添加塩の使用などにより、1990年代にヨウ素の欠乏は劇的に是正された(6)。今日では、世界の70%の世帯がヨウ素添加塩を使用している(7)。ヨード欠乏症を根絶するための国際的取り組みについては、ヨード欠乏症国際対策機構(ICCIDD)やWHOのウェブサイトを参照されたい。
甲状腺腫である甲状腺肥大は、ヨード欠乏症の最初の最も明白な兆候の一つである。甲状腺は、持続的なTSHの刺激によって肥大する(「機能」の項参照)。軽度のヨード欠乏症では、十分な甲状腺ホルモンがこれによる反応だけで人体に供給される可能性がある。しかし、もっと重度のケースのヨード欠乏症では、甲状腺機能低下症に陥る。適切にヨウ素を摂取することで甲状腺腫の大きさは一般的に小さくなるが、甲状腺機能低下症の可逆性は個人の発育段階によって異なる。ヨード欠乏症は発育のすべての段階において悪影響を及ぼすが、発達途上の脳に最も損害を与える。成長や発達の様々な側面の制御だけでなく、出生前および産後すぐに最も活発となる中枢神経系の髄鞘形成に、甲状腺ホルモンは重要である(2,6)。
胎児のヨウ素欠乏は、母体のヨウ素欠乏に起因する。母親のヨウ素欠乏による最も深刻な影響の一つが、先天性甲状腺機能低下症である。重度の先天性甲状腺機能低下症は時にクレチン病と称される症状になり、不可逆性の精神遅滞に至る可能性がある。クレチン病は2つの形態で起こるが、それらにはかなりの症状の重複が見られる。神経性の症状では、精神や身体発育の遅滞および聴覚消失が特徴で、胎児の甲状腺が機能する前に胎児に影響する母体のヨウ素欠乏の結果である。粘液水腫性または甲状腺機能低下性の症状は、低身長および精神遅滞が特徴である。甲状腺機能低下性の症状は、ヨウ素欠乏に加えてセレン欠乏を伴い(「栄養素の相互作用」の項参照)、甲状腺ホルモン生産を阻害する食事中の甲状腺腫誘発物質と関係する(「甲状腺腫誘発物質」の項参照)(8)。
ヨウ素欠乏地域では乳児の死亡が増え、ヨード欠乏症を治すことで子供の生存率が上がることがいくつかの研究で示されている(9)。乳児期は急速な脳の成長および発達の時期である。適切なヨウ素の摂取による十分な甲状腺ホルモンが正常な脳の発達に欠かせない。先天性甲状腺機能低下症がなくても、乳児期のヨード欠乏は、異常な脳の発達やその結果としての知的障害に至る可能性がある(10)。
子供や青少年のヨウ素欠乏は、しばしば甲状腺腫を伴う。甲状腺腫の発生は青少年期にピークとなり、女子に多い。ヨウ素欠乏地域の学童は、ヨウ素が十分な地域の学童に比べて学業成績が不振で、IQが低く、学習障害の発生率が高い。18の研究のメタ分析により、ヨード欠乏症だけで子供の平均IQが13.5%低下したと結論づけられた(11,12)。
成人では、不適切なヨウ素の摂取によって、甲状腺腫や甲状腺機能低下症になる可能性がある。甲状腺機能低下症の影響は、成人の脳では子供よりも軽微であるが、甲状腺機能低下症によって応答時間が鈍化したり、精神機能が損なわれたりする(1)。甲状腺機能低下症のその他の症状としては、疲労、体重増加、寒冷不耐性、および便秘などがある。
妊娠中および授乳中の女性は、ヨウ素の需要が増える(「RDA」の項参照)(6)。妊娠中のヨード欠乏症は、流産、死産、および先天性異常の発生と関係がある。しかも、妊娠中の深刻なヨード欠乏症は、出生児の先天性甲状腺機能低下症や神経認知欠損になる可能性がある(「出生前の発育」の項参照)(6,8)。ヨード欠乏症の授乳中の女性は、ヨード欠乏症の影響を特に受けやすいその子供たちに十分なヨウ素を供給できない可能性がある(「新生児および乳児」の項参照)(1)。米国甲状腺学会が推奨するように(13)、出生前に毎日150μgのヨウ素サプリメントを服用することは、米国の妊娠中および授乳中の女性がこれらの危険期に十分なヨウ素を確実に摂取することに役立つであろう。
ヨウ素の欠乏が甲状腺による血液中のヨウ素の捕捉を増加させるので、ヨード欠乏症の個人はすべての年齢で、放射線誘発性甲状腺がん(「疾病の予防」の項参照)やヨウ素に起因する甲状腺機能亢進症(「安全性」の項参照)になりやすい(1)。
セレンの欠乏がヨード欠乏症を悪化させることがある。ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に欠かせないが、セレンに依存する酵素(ヨードチロニンデヨージナゼ)も、チロキシン(T4)が生物学的活性を持つ甲状腺ホルモンであるトリヨードチロニン(T3)に変換されるのに必要である(6,8)。加えて、ビタミンAまたは鉄の欠乏が、ヨード欠乏症を悪化させる可能性がある(6,14)。
食物の中にはヨウ素の利用や甲状腺ホルモンの生産を妨げる物質を含むものがあり、これらの物質は甲状腺腫誘発物質と呼ばれる。コンゴ民主共和国における甲状腺腫の発生は、キャッサバを食したことと関係する。これはチオシアン酸塩に代謝される化合物を含み、甲状腺によるヨウ素の摂取を阻害する。ある種のキビおよびアブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリ、カリフラワー、および芽キャベツなど)も甲状腺腫誘発物質を含む。さらに、大豆イソフラボン、ゲニステイン、およびダイゼインが甲状腺ホルモンの合成を阻害することがわかっている(15)。これらの甲状腺腫誘発物質の大部分は、大量に摂取したりヨード欠乏症時に摂取したりしない限り、臨床的に問題ではない。最近では、喫煙がヨウ素欠乏地域における甲状腺腫のリスクの増大に関連している可能性があることが示された(16)。
適切なヨウ素強化プログラムなしでヨウ素欠乏地域に住む人々のヨード欠乏症のリスクはよく認識されているが、ヨウ素が十分だと思われている国でも、ある集団はヨウ素を適切に摂取していないのではないかという懸念が持ち上がっている。ヨウ素添加塩、魚、および海藻を摂らない菜食主義および非菜食主義の食事は、ヨウ素がほとんど含まれていないことが判明している(1,6,17,18)。尿中へのヨウ素の排出の研究によれば、ヨウ素の摂取はスイス(19)、ニュージーランド(20)、および米国(21)で減っていることが示唆されている。これはおそらく塩分摂取を減らす食事の推奨に固執する人が増えたからであろう。しかし、米国での2003~2004年の全国健康栄養調査のデータでは、ヨウ素の摂取は安定し(22)、米国は現在ヨウ素が足りていると考えられている。また、スイスにおける子供や妊婦のヨウ素の栄養状態が、1998年にヨウ素添加塩のヨウ素濃度の増加が義務付けられた後で改善したことが最近の研究でわかった(19)。スイスも現在ではヨウ素が足りていると考えられている(23)。
ヨウ素のRDAは、2001年に米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)によって再評価された。推奨量は、正常な甲状腺機能を持つ個人の甲状腺へのヨウ素蓄積量を測定する方法を含むいくつかの方法を用いて計算された(6)。これらの推奨量は、ヨード欠乏症国際対策機構、世界保健機構、およびユニセフの推奨量と一致している(2)。
放射性ヨウ素、特にヨウ素131Iは、原子炉事故の結果として環境中に放出されることがある。放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積は、特に子供で甲状腺がんのリスクを高める。ヨウ素欠乏状態で甲状腺のヨウ素捕捉活動が高まると、放射性ヨウ素(131I)の甲状腺への蓄積が増えることになる。したがって、ヨード欠乏症の個人は放射線誘発性甲状腺がんの発症の危険性が高まる。なぜならそうした個人は放射性ヨウ素をより多く蓄積することになるからだ。原子炉事故による放射線被曝の48時間前または8時間後以内に薬理学的服用量のヨウ化カリウム(成人に50~100mg)を投与すると、甲状腺のヨウ素131Iの摂取を著しく減らすことができ、放射線誘発性甲状腺がんのリスクを減らすことができる(24)。1986年のチェルノブイリ原子炉事故後に、ポーランドで予防としてヨウ化カリウムを迅速に広範囲で使用したことが、ヨウ化カリウムによる予防が広く行われなかった放射性物質の降下地域に比べてポーランドでの子供の甲状腺がんの発生に著しい増加が見られなかったことを説明している可能性がある(25)。米国では、原子力発電所からの重大な放射性物質放出の事態における一般大衆の防護措置として、ヨウ化カリウムの使用を考慮することを原子力規制委員会(NRC)が要求している(26)。
繊維嚢胞性乳腺症とは、良性の(がんでない)乳房の状態で、片方または両方の乳房にしこりや不快感があるのが特徴である。エストロゲンで治療したラットでは、ヨード欠乏症によって繊維嚢胞性乳腺症に見られるものと似た変化が現れたが、ヨウ素を再補充してやるとこれらの変化が元に戻った(27)。繊維嚢胞性乳腺症の233人の女性を対象とした非対照研究(比較群を設定しない研究)では、ヨウ素分子(I2)の水溶液を毎日体重1kgあたり0.08mgの分量で6~18ヶ月間服用することで、70%以上が痛みやその他の症状がよくなった(28)。約10%の試験参加者が副作用を報告したが、それは研究者が軽微とみなすものだった。繊維嚢胞性乳腺症を持つ56人の女性によるヨウ素分子水溶液の二重盲検プラセボ対照試験(体重1kgあたり0.07~0.09mgのI2を毎日6ヶ月間)では、ヨウ素分子水溶液を服用した女性の65%が症状の改善を報告したのに対して、プラセボを服用した女性では33%であった(28)。近年行われた胸の痛みの記録がある111人の女性の二重盲検プラセボ対照臨床試験では、ヨウ素分子(3mg/日または6mg/日)を5ヶ月間服用することで全体的に痛みが軽減した(29)。この研究では、ヨウ素分子の服用量が最も高かった女性の半数以上が胸の痛みが50%以上軽減したと自己評価したのに対して、プラセボを服用した女性では8.3%だった。繊維嚢胞性乳腺症に対するヨウ素分子の治療効果を決定するには、大規模な対照臨床試験が必要である。これらの研究で使用されたヨウ素の服用量(体重60kgで3~7mg/日)は、米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)が推奨する許容上限摂取量(UL)よりも数倍高く、医師の管理下でのみ使用されるべきである(「安全性」の項参照)。
大部分の食品のヨウ素含有量は、土壌のヨウ素含有量に依存する。海洋動物は海水からヨウ素を濃縮できるので、シーフードはヨウ素が豊富である。ある種の海藻(わかめなど)も、ヨウ素を非常に多く含む。加工食品は、ヨウ素酸カルシウムやヨウ素酸カリウムといった食品添加物またはヨウ素添加塩を加えてあるため、ヨウ素濃度が若干高い可能性がある。米国では動物の餌にヨウ素が一般に添加されているため、乳製品は比較的良好なヨウ素の摂取源である。英国および北欧では、ヨウ素含有量の低い牧草地で牛が草をはむ夏に、乳製品のヨウ素濃度が低下する傾向がある(6)。下表はヨウ素を豊富に含む食品のヨウ素含有量をマイクログラム(μg)で示したものである。ヨウ素の含有量は食品によって大きく変化するので、これらの数値は近似値とみなされるべきである(30)。
ヨウ化カリウムは、典型的にはマルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントのような、他の成分との組み合わせの栄養補助食品として入手可能である。ヨウ化カリウムの全重量の約77%がヨウ素である(15)。ヨウ素の一日摂取量(DV)を100%含むマルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントで、150μgのヨウ素が摂取できる。米国民の大部分はヨウ素添加塩や食品添加物によって十分なヨウ素を食事から摂取しているが、150μg/日のヨウ素を追加して摂取してもヨウ素摂取過多にはなりにくいであろう。(「安全性」の項参照)。
ヨウ化カリウムおよびヨウ素酸カリウムがヨウ素添加塩に使用されていることがある。米国およびカナダでは、ヨウ素添加塩1gあたり77μgのヨウ素を含む。その他の国では、塩1gあたり通常20~40μgのヨウ素を含む。ヨウ素の添加濃度は、その他の摂取源からのヨウ素の摂取量や毎日の塩の消費量などの変数で変わってくる。ヨウ素添加植物油の年間摂取量も、ヨウ素の摂取源として変数に使用する国もある(2,15)。
急性のヨウ素中毒はまれで、普通は何グラムも服用した場合にのみ起こる。急性ヨウ素中毒の症状は、口、喉、および胃の灼熱感、発熱、吐き気、嘔吐、下痢、弱脈、および昏睡である(6)。
自然食品の食事で2,000μg/日より多いヨウ素を摂取することはまれであり、大部分の食事では1,000μg/日未満である。食事に多量の海藻を含む北日本の海岸地域に住む人々は、50,000~80,000μg/日(50~80mg/日)のヨウ素を摂取していることがわかっている(1)。
ヨウ素欠乏状態では:ヨウ素不足の人々へのヨウ素補給プログラムで、主に年配者や多結節性甲状腺腫を持つ人々にヨウ素誘発性の甲状腺機能亢進症(IHH)の発生が増えた。ヨウ素欠乏状態の人々では、150~200μg/日のヨウ素摂取でIHHの発生が増えることがわかっている。ヨウ素の欠乏によって、正常な甲状腺の調節システム(「機能」の項参照)に反応しない自発的な甲状腺結節になるリスクが高まり、ヨウ素補給の後で甲状腺機能亢進症になる。IHHはヨード欠乏症であると考える専門家もいる。一般に、ヨウ素不足の人々への小さなリスクよりも、ヨウ素供給プログラムによる大きな利益の方が勝っている(1,31)。
ヨウ素充足状態では:ヨウ素が足りている人々(米国民など)では、過剰なヨウ素摂取が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中濃度の上昇、甲状腺機能低下症、および甲状腺腫に関連することが最も一般的である。TSH濃度のわずかな上昇が甲状腺ホルモンが不適切に生成されていることを示すとは必ずしも限らないが、それはヨウ素摂取が過剰な場合の甲状腺機能の異常を示す最初の兆候である。ヨウ素が十分な成人では、1,700~1,800μg/日のヨウ素摂取でTSH濃度が上昇することがわかっている。甲状腺機能低下症を発症するリスクを最小限にするため、米国医学研究所の食品栄養委員会(FNB)は、ヨウ素の許容上限摂取量(UL)を成人で1,100μg/日に設定している。非常に高用量の(薬理学的服用量の)ヨウ素は、TSHによる甲状腺の刺激が高まることで甲状腺肥大(甲状腺腫)を引き起こす可能性がある。18,000μg/日(18mg/日)を超す量を長期間摂取することで、甲状腺腫の発生が増えることがわかっている。ヨウ素のULを年齢層ごとに下表に示す。ULは、医師による管理下でヨウ素による治療を受けている個人に適用されるものではない(6)。
年齢層 | UL(μg/日) |
---|---|
乳児(0-12ヶ月) | 設定不能* |
幼児(1~3歳) | 200 μg/日 |
子供(4-8歳) | 300 μg/日 |
子供(9-13歳) | 600 μg/日 |
青少年(14-18歳) | 900 μg/日 |
成人(19歳以上) | 1,100 μg/日(1.1 mg/日) |
*摂取源は食物および人工乳のみであるべきである。 |
ヨード欠乏症、結節性の甲状腺腫、または自己免疫性甲状腺疾患を持つ個人は、一般の人々には安全であると考えられている摂取量でも敏感であり、ヨウ素摂取のULでは安全でない可能性がある(6)。嚢胞性線維症を持つ子供も、ヨウ素の過剰摂取による有害作用に対してより敏感である可能性がある(32)。
観察研究によって、ヨウ素の摂取増加が甲状腺乳頭がんの発生増加と関連することがわかった。この理由ははっきりしない。以前にヨウ素不足だった人々では、塩へのヨウ素添加計画で相対的に甲状腺乳頭がんの増加が増え、甲状腺濾胞がんが減った。一般に、甲状腺乳頭がんは甲状腺濾胞がんよりも侵攻性が弱く、予後も良い(33)。
異常な心臓鼓動の予防に使用される薬のアミオダロンはヨウ素の含有量が高く、甲状腺の機能に影響する可能性がある。プロピオチオウラシル(PTU)やメチマゾールといった甲状腺機能亢進症の治療薬は、甲状腺機能低下症のリスクを増やす可能性がある。さらに、薬理学的服用量のヨウ化カリウムと一緒にリチウムを使用すると、甲状腺機能低下症になる可能性がある。また、薬理学的服用量のヨウ化カリウムは、ワルファリンの抗凝固効果を下げる可能性がある(6,32)。
ヨウ素のRDAは、甲状腺の正常な機能を十分に保証する。今日では、RDAより多くヨウ素を摂取しても利益があるというエビデンス(根拠)はない。米国の大部分の人々は食事で十分なヨウ素を摂取しており、補給は不要である。胎児の発育期と乳児期に十分なヨウ素を摂ることが重要であるので、妊婦および授乳中の女性は150μg/日のヨウ素を補給するサプリメントの服用を考慮すべきである(「欠乏症」の項参照)。
加齢によってヨウ素の需要が著しく変化するということはないので、中高年にもヨウ素の摂取に関する推奨に変化はない。
Written in April 2003 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Updated in March 2010 by:Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University
Reviewed in March 2010 by:
Elizabeth N. Pearce, MD, MSc.
Associate Professor of Medicine
Section of Endocrinology, Diabetes, and Nutrition
Boston University School of Medicine
Copyright 2001-2024 Linus Pauling Institute
1. Hetzel BS, Clugston GA. Iodine. In: Shils M, Olson JA, Shike M, Ross AC, eds. Modern Nutrition in Health and Disease. 9th ed. Baltimore: Williams & Wilkins; 1999:253-264.
2. Dunn JT. What's happening to our iodine? J Clin Endocrinol Metab. 1998;83(10):3398-3400. (PubMed)
3. Larsen PR, Davies TF, Hay ID. The thyroid gland. In: Wilson JD, Foster DW, Kronenberg HM, Larsen PR, eds. Williams Textbook of Endocrinology. 9th ed. Philadelphia: W.B. Saunders Company; 1998:389-515.
4. World Health Organization. Eliminating Iodine Deficiency disorders. World Health Organization, [Web page]. 04/09/2003. http://www.who.int/nut/idd.htm. Accessed 04/11/2003.
5. de Benoist B, McLean E, Andersson M, Rogers L. Iodine deficiency in 2007: global progress since 2003. Food Nutr Bull. 2008;29(3):195-202. (PubMed)
6. Food and Nutrition Board, Institute of Medicine. Iodine. Dietary reference intakes for vitamin A, vitamin K, boron, chromium, copper, iodine, iron, manganese, molybdenum, nickel, silicon, vanadium, and zinc. Washington, D.C.: National Academy Press; 2001:258-289. (National Academy Press)
7. United Nations Children's Fund. The State of the World's Children 2007, UNICEF. New York; 2006. p. 109.
8. Levander OA, Whanger PD. Deliberations and evaluations of the approaches, endpoints and paradigms for selenium and iodine dietary recommendations. J Nutr. 1996;126(9 Suppl):2427S-2434S. (PubMed)
9. DeLong GR, Leslie PW, Wang SH, et al. Effect on infant mortality of iodination of irrigation water in a severely iodine-deficient area of China. Lancet. 1997;350(9080):771-773. (PubMed)
10. Hetzel BS. Iodine and neuropsychological development. J Nutr. 2000;130(2S Suppl):493S-495S. (PubMed)
11. Tiwari BD, Godbole MM, Chattopadhyay N, Mandal A, Mithal A. Learning disabilities and poor motivation to achieve due to prolonged iodine deficiency. Am J Clin Nutr. 1996;63(5):782-786. (PubMed)
12. Bleichrodt N, Shrestha RM, West CE, Hautvast JG, van de Vijver FJ, Born MP. The benefits of adequate iodine intake. Nutr Rev. 1996;54(4 Pt 2):S72-78.
13. Becker DV, Braverman LE, Delange F, et al. Iodine supplementation for pregnancy and lactation-United States and Canada: recommendations of the American Thyroid Association. Thyroid. 2006;16(10):949-951. (PubMed)
14. Zimmermann MB, Jooste PL, Pandav CS. Iodine-deficiency disorders. Lancet. 2008;372(9645):1251-1262. (PubMed)
15. Hendler SS, Rorvik DM, eds. PDR for Nutritional Supplements. 2nd ed. Montvale: Thomson Reuters; 2008.
16. Knudsen N, Bulow I, Laurberg P, Ovesen L, Perrild H, Jorgensen T. Association of tobacco smoking with goiter in a low-iodine-intake area. Arch Intern Med. 2002;162(4):439-443. (PubMed)
17. Remer T, Neubert A, Manz F. Increased risk of iodine deficiency with vegetarian nutrition. Br J Nutr. 1999;81(1):45-49. (PubMed)
18. Davidsson L. Are vegetarians an 'at risk group' for iodine deficiency? Br J Nutr. 1999;81(1):3-4.
19. Zimmermann MB, Aeberli I, Torresani T, Burgi H. Increasing the iodine concentration in the Swiss iodized salt program markedly improved iodine status in pregnant women and children: a 5-y prospective national study. Am J Clin Nutr. 2005;82(2):388-392. (PubMed)
20. Thomson CD, Woodruffe S, Colls A, Doyle TD. Urinary iodine and thyroid status of New Zealand residents. In: Roussel AM, Anderson RA, Favier A, eds. Trace Elements in Man and Animals. Vol 10. New York: Kluwer Academic Press; 2000:343-344.
21. Hollowell JG, Staehling NW, Hannon WH, et al. Iodine nutrition in the United States. Trends and public health implications: iodine excretion data from National Health and Nutrition Examination Surveys I and III (1971-1974 and 1988-1994). J Clin Endocrinol Metab. 1998;83(10):3401-3408. (PubMed)
22. Caldwell KL, Miller GA, Wang RY, Jain RB, Jones RL. Iodine status of the US population, National Health and Nutrition Examination Survey 2003-2004. Thyroid. 2008;18(11):1207-1214. (PubMed)
23. Iodine Level, United States, 2000. [Web page]. January, 2007. National Center for Health Statistics. Available at: http://www.cdc.gov/nchs/data/hestat/iodine.htm. Accessed 7/11/2007.
24. Zanzonico PB, Becker DV. Effects of time of administration and dietary iodine levels on potassium iodide (KI) blockade of thyroid irradiation by 131I from radioactive fallout. Health Phys. 2000;78(6):660-667. (PubMed)
25. Nauman J, Wolff J. Iodide prophylaxis in Poland after the Chernobyl reactor accident: benefits and risks. Am J Med. 1993;94(5):524-532.
26. Nuclear Regulatory Commission. Consideration of potassium iodide in emergency plans. Nuclear Regulatory Commission. Final rule. Fed Regist. 2001;66(13):5427-5440. (PubMed)
27. Eskin BA, Grotkowski CE, Connolly CP, Ghent WR. Different tissue responses for iodine and iodide in rat thyroid and mammary glands. Biol Trace Elem Res. 1995;49(1):9-19. (PubMed)
28. Ghent WR, Eskin BA, Low DA, Hill LP. Iodine replacement in fibrocystic disease of the breast. Can J Surg. 1993;36(5):453-460. (PubMed)
29. Kessler JH. The effect of supraphysiologic levels of iodine on patients with cyclic mastalgia. Breast J. 2004;10(4):328-336. (PubMed)
30. Pennington JAT, Schoen SA, Salmon GD, Young B, Johnson RD, Marts RW. Composition of core foods of the US food supply, 1982-1991. III. Copper, manganese, selenium, iodine. J Food Comp Anal. 1995;8:171-217.
31. Delange F. Risks and benefits of iodine supplementation. Lancet. 1998;351(9107):923-924.
32. Hendler SS, Rorvik DR, eds. PDR for Nutritional Supplements. Montvale: Medical Economics Company, Inc; 2001.
33. Feldt-Rasmussen U. Iodine and cancer. Thyroid. 2001;11(5):483-486. (PubMed)