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概要

  • 植物ステロールとは、コレステロールに構造や機能が似た植物由来の化合物である。(詳細はこちら)
  • 初期の人類の食事は1g/日くらいまで植物ステロールが豊富だったが、今日の西欧風の典型的な食事は、植物ステロールが比較的少ない。(詳細はこちら)
  • 植物ステロールは腸でのコレステロール吸収を抑制する。(詳細はこちら)
  • 多くの臨床試験で、少なくとも0.8gの植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品を毎日摂取すると、血清LDLコレステロールが低下することが実証された。(詳細はこちら)
  • いくつかの疫学研究で植物ステロールを含む植物性の食品を高摂取するとがんのリスクが減少するという関連がわかったが、植物性の食品に含まれる植物ステロールまたはその他の化合物が予防的要因なのかどうかは明らかでない。(詳細はこちら)
  • いくつかの臨床試験の結果で、比較的低用量の植物ステロールの補給が良性前立腺過形成の尿路症状を改善することができると示唆されたが、この発見を確認するさらなる研究が必要である。(詳細はこちら)
  • 植物ステロールを豊富に含む食品は、未精製の植物油、全粒穀物、ナッツ、および豆類などである。(詳細はこちら)
  • 植物性ステロールまたはスタノールを添加された食品や飲料は、今では世界中の多くの国で市販されている。また、多くの国がそのような商品の健康強調表示を認めている。(詳細はこちら)

序説

ヒトの進化の大部分で、大量の植物性食品が消費されたことであろう(1)。食物繊維や植物性タンパク質が豊富なことに加えて、我々の祖先の食事はコレステロールに似た構造と機能を持つ植物由来のステロールである植物ステロールが豊富であった。現代の食事に植物ステロールを含む植物性食品を再導入することで、血清脂質(コレステロール)プロフィールを改善し心血管疾患リスクを減少させることができるというエビデンスがどんどん増えてきている(2)。コレステロールはヒトを含む動物の体内での主要なステロールであるが、植物には様々なステロールが見られる(3)。栄養学者は2つのグループの植物ステロールを把握している。それらは(1)ステロールの環状構造部分に二重結合を持つステロール(図1参照)、および(2)ステロールの環状構造部分に二重結合がないスタノール(図2参照)である。植物やヒトの食事に最も豊富なステロールは、シトステロールとカンペステロールである。スタノールも植物には含まれるが、食事性の植物ステロール全体のわずか10%くらいでしかない。ヒトの血液や組織中のコレステロールは、食事や内因性のコレステロール合成に由来するものである。対照的に、ヒトの血液や組織中のすべての植物ステロールは食事由来である。なぜならばヒトは植物ステロールを合成できないからだ(4)

Figure 1. Chemical Structures of Cholesterol, Sitosterol, and Campesterol.

Figure 2. Chemical Structures of Sitostanol and Campestanol.

定義

植物ステロール:植物由来のステロールやスタノールの総称。

植物性ステロールまたはスタノール:植物由来のステロールまたはスタノールに一般的に使用される用語で、これらの植物性化学物質は食品やサプリメントに添加される。

植物ステロールもしくはスタノール・エステル:脂肪酸とステロールまたはスタノールとの間にエステル結合を作ることによってエステル化した植物性ステロールまたはスタノールのこと。エステル化は腸の細胞内や工業的プロセスで起こる。エステル化は植物性ステロールやスタノールをより脂溶性にするので、マーガリンやサラダドレッシングなどの脂肪を含む食品に溶けやすくなる。本記事では、植物ステロールやスタノール・エステルの重さを、それに相当するエステル化されていないステロールやスタノールの重さで表す。

代謝と生物学的利用性

食事性コレステロールの吸収と代謝

食事性のコレステロールは、腸の内面に並ぶ細胞(腸細胞)によって吸収されるために、混合ミセルに混ざり込まなければならない(5)。混合ミセルは、脂肪を含む食事をした後に小腸で作られる胆汁塩、脂質(脂肪)、およびステロールの混合物である。腸細胞の内部では、コレステロールがエステル化されカイロミクロンとして知られる中性脂肪(トリグリセリド)が豊富なリポタンパク質に取り込まれ、これが体内を循環していく(6)。循環中のカイロミクロンから中性脂肪がなくなるにつれ、それらはカイロミクロンレムナントになり肝臓で吸収される。肝臓ではカイロミクロンレムナント由来のコレステロールが他のリポタンパク質に作り戻されて体内を循環して輸送されたり、小腸へと分泌される胆汁になったりする。

食事性植物ステロールの吸収と代謝

様々な食事には似たような量の植物ステロールとコレステロールが含まれていることが典型的であるが、ヒトでは血清植物ステロール濃度は血清コレステロール濃度よりも数百倍低いことが通常である(7)。食事性植物ステロールの10%未満が体内で吸収されるのに対して、食事性コレステロールは50~60%が吸収される(8)。コレステロールと同様に、植物ステロールも腸細胞で吸収される前に混合ミセルに組み込まれなければならない。いったん腸細胞に入ると、ABCG5とABCG8として知られるATP結合カセット(ABC)タンパク質のペアから成る排出輸送体の活性によって植物ステロールの体内吸収は阻害される(4)。ABCG5とABCG8は互いに輸送体の半分ずつを構成し、輸送体は植物ステロールと非エステル化されたコレステロールを腸細胞から腸管腔へと染み出させる。植物ステロールはABCG5/G8輸送体によってコレステロールよりもずっと多く腸に戻されるので、食事性の植物ステロールはコレステロールよりも腸での吸収がずっと少なくなる。腸細胞の内部では、植物ステロールはコレステロールほどたやすくエステル化されないので、コレステロールよりもずっと低い濃度でカイロミクロンに組み込まれる。カイロミクロンに組み込まれたこれらの植物ステロールは体内循環にのり、肝臓で吸収される。いったん肝臓内に入ってしまうと、植物ステロールは肝臓のABCG5/G8輸送体によって急速に胆汁の中に分泌される。コレステロールも胆汁に分泌されるかもしれないが、植物ステロールが胆汁に分泌される割合のほうがコレステロールの分泌よりもずっと高い(9)。したがって、植物ステロールの血清濃度がコレステロールよりも相対的に低いことは、腸での吸収が減ることと植物ステロールの胆汁への分泌が増えることで説明ができる。

生物学的活性

コレステロール吸収とリポタンパク質代謝への効果

植物性ステロールまたはスタノールを高摂取すると、ヒトの血清総LDLコレステロール濃度を減らせることはよくわかっている(「心血管疾患」の項参照)(10,11)。腸管腔では、植物ステロールは混合ミセルからコレステロールを分離しコレステロールの吸収を抑制する(12)。1.5~1.8g/日の植物性ステロールまたはスタノールの摂取で、ヒトのコレステロール吸収が30~40%減る(13,14)。より高用量(2.2g/日の植物性ステロール)では、コレステロール吸収は60%減った(15)。コレステロール吸収が減ることで、組織でのLDL受容体の発現が増え、その結果として血中のLDLの除去が進む(16)。コレステロールの吸収が減ることは、コレステロールの合成が増えることとも関連している。また、植物ステロール摂取を増加させると、ヒトの内因性コレステロール合成が増えることもわかっている(13)。植物ステロール摂取の増加によってコレステロール合成が増加するにもかかわらず、血清LDLコレステロール濃度が正味では減ることになる。

その他の生物学的活性

培養細胞や動物モデルの実験では、植物ステロールはコレステロール低下とは無関係の生物学的活性があるかもしれないことが示唆される。しかし、ヒトにおけるそれらの重要性は未知である。

細胞膜特性の変化

コレステロールは哺乳類の細胞膜の重要な構造成分である(17)。コレステロールを植物ステロールで置換すると、ガラス容器内(in vitro)では細胞膜の物性が変わることがわかっており、これはシグナル伝達または膜結合酵素の活性に影響する可能性がある「19,20)。出血性脳卒中の動物モデルからの限定的なエビデンスでは、植物性ステロールまたはスタノールを非常に多く摂取すると、赤血球の細胞膜のコレステロールが移動されて血球の変形能が下がり壊れやすくなる可能性が高くなることが示された(21,22)。しかし、植物ステロール(1g/1,000kcal)を4週間毎日補給しても、ヒトの赤血球の壊れやすさは変わらなかった(23)

テストステロン代謝の変化

動物モデルからの限定的なエビデンスで、植物ステロールを非常に多く摂取すると、テストステロンをより強力な代謝物であるジヒドロテストステロンに変換する膜結合酵素である5αレダクターゼ(5α還元酵素、5αリダクターゼ)を抑制することによって、テストステロンの代謝が変わってしまう可能性があると示唆された(24,25)。植物ステロールの摂取がヒトでテストステロンの代謝を変えるのかどうかは不明である。1.6g/日の植物ステロールエステルを1年間摂取した男性の遊離テストステロンまたは血清総テストステロン濃度に大きな変化は見られなかった(26)

がん細胞のアポトーシスの誘発

正常な細胞と異なり、がん細胞はアポトーシス(プログラム化された細胞死)を開始させる細胞死シグナルに反応する能力がない。培養されたヒトの前立腺がん(27)、乳がん(28)、および結腸がん(29)にシトステロールを加えると、アポトーシスを誘発することがわかっている。

抗炎症作用

培養細胞や動物研究からの限定的なデータでは、植物ステロールはマクロファージや好中球といった免疫細胞の炎症活性を減衰させるかもしれないことが示唆されている(30,31)

疾病予防

心血管疾患

植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品

LDLコレステロール:遊離またはエステル化された植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品を毎日摂取することで、血清総コレステロール濃度および血清LDLコレステロール濃度が下がることが多くの臨床試験でわかっている(10,32-35)。18の対照臨床試験の結果をまとめたメタ解析で、平均2g/日の植物性ステロールまたはスタノールを含むスプレッドの摂取によって、血清LDLコレステロール濃度が9~14%下がったことがわかった(36)。23の対照臨床試験の結果をまとめたより最近のメタ解析で、平均3.4g/日の植物性ステロールまたはスタノールを含む植物性食品の摂取で、LDLコレステロール濃度が約11%減ったことがわかった(37)。別のメタ解析では、植物性ステロール強化食品の23の臨床試験および植物性スタノール強化食品の27の臨床試験の結果を別々に調べた(11)。少なくとも2g/日の用量で、植物ステロールおよびスタノールのどちらもLDLコレステロール濃度を約10%減らした。2g/日よりも高用量だと、植物性ステロールまたはスタノールのコレステロール低減効果を大きく向上させることはなかった。直近では、59の無作為化対照試験の結果を分析したメタ解析で、試験開始時のLDLコレステロール濃度が高い者の方がLDLコレステロール濃度が大きく低下したことがわかった(38)。より少ない用量の植物性ステロールまたはスタノールの研究結果では、臨床的に有意義な少なくとも5%のLDLコレステロール低下が、0.8~1.0g/日の用量で起きることが示唆された(39-43)。一般的に、植物性ステロールと植物性スタノールのコレステロール低下の効能を比べた試験では、これらはどちらも同等であるとわかった(44-46)。これらの研究では4週間よりも長く行われたものはほとんどないが、植物性ステロールおよびスタノールのコレステロール低減効果は1年までも続くことが、少なくとも2つの研究でわかった(26,47)。対照臨床試験からのデータに加えて、自由に生活している状態での植物ステロール/スタノールを強化したマーガリンの習慣的摂取について調べた5年間の研究でも、コレステロール濃度に有益な効果が見られた(48)。最近では、長期間のLDLコレステロール低減効果を維持するのに植物性ステロールはスタノールほど効果的でないのではないかという懸念が持ち上がった(49-51)。これらの懸念に対処する植物性ステロールと植物性スタノールの効能を直接比べる長期間の試験が必要である(11)

冠動脈性心疾患のリスク:植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品の長期摂取が冠動脈性心疾患(CHD)のリスクに与える効果は不明である。多くの介入試験の結果は、薬物治療や食事の変更による10%のLDLコレステロール低下はCHDリスクを20%も下げる可能性を示唆している(52)。米国のコレステロール教育プログラムの成人治療委員会IIIは、植物ステロールもしくはスタノール・エステル(2g/日)の摂取をLDLコレステロールが高い者への最大限の食事療法の一部に含めた(53)。飽和脂肪が少なく、果物や野菜、全粒穀物、および食物繊維が豊富な心臓に良い食事に植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品を足すことで、CHDリスクの低減にさらに効果的になる可能性がある。たとえば、飽和脂肪を一価不飽和脂肪や多価不飽和脂肪で置き換えた食事にすると、30日後に血清LDLコレステロールが9%減ったが、同じ食事に1.7g/日の植物性ステロールを追加すると24%の減少となった(54)。より最近の結果では、植物性ステロール(1g/1,000kcal)、大豆タンパク、アーモンド、および粘性食物繊維を含むコレステロール低下食品の組み合わせの食事を1ヶ月続けると血清LDLコレステロール濃度が平均で30%低下し、これはスタチン(HMG-CoA還元酵素を抑制する薬物)によってもたらさらる低減と大きく変わらなかった(55)。しかし、1年間そのようなコレステロール低減食をした個人の解析で、LDLコレステロールの減少は平均で13%でしかなかったものの、ほぼ3分の1の参加者ではLDLコレステロール低下が20%より大きかった(56)。植物性ステロールは、観察されたコレステロール濃度の低減に寄与したこの食事の主要成分であった(57)。米国食品医薬品局(FDA)は、植物ステロールもしくはスタノール・エステルを強化した食品の定期的な摂取は心疾患のリスクを低減させるかもしれないという健康強調表示を食品のラベルに使用することを認めている(58)

食物性植物ステロール

植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品の毎日の摂取がLDLコレステロール濃度を大きく減らす可能性があることを発見した臨床試験は、食事に天然に含まれている植物ステロールを考慮していない(59)。血清LDLコレステロール濃度に対する食物性植物ステロール摂取の影響を考慮した研究は比較的少ない。食物性植物ステロール摂取は、様々な集団で約150~450mg/日にわたると推定されている(60)。限定的なエビデンスでは、食物性植物ステロールはコレステロールの吸収を減らすのに重要な役割を果たしているかもしれないことが示唆されている。英国での横断研究で、食物性植物ステロール摂取は、飽和脂肪や食物繊維摂取についての調整をした後ですら血清総コレステロール濃度および血清LDLコレステロール濃度と逆相関があった(61)。同様に、スウェーデンの集団の解析で、食物性植物ステロール摂取は男女の総コレステロールと女性のLDLコレステロールとの間に逆相関があることがわかった(62)。1回の食事によるテストで、コーンオイルから150mgの植物ステロールを除去すると、コレステロール吸収が38%増え(63)、小麦胚芽から328mgの植物ステロールを除去するとコレステロール吸収が43%増えた(64)。さらなる研究が必要ではあるが、これらの発見は植物性食品由来の食物性植物ステロールの摂取が心血管の健康に重大な影響がある可能性を示唆している。

がん

動物研究からの限定的なデータで、非常に多量の植物ステロール摂取、特にシトステロールの摂取は乳がんや前立腺がんの成長を抑制するかもしれないことが示唆された(65-67)。ヒトの食事性植物ステロール摂取とがんのリスクの関連を調べた疫学研究はわずかである。これは、一般的に食べられている食品の植物ステロール含有量に関するデータベースが最近になってやっと開発されてきたからである。ウルグアイでの一連の症例対照研究で、食事性植物ステロール摂取は、胃がん、肺がん、または乳がんと診断された者の方ががんのない対照群の者よりも低いことがわかった(68-70)。米国での症例対照研究で、乳がんまたは子宮内膜がん(子宮がん)と診断された女性は、がんのない女性よりも食事性植物ステロール摂取が少なかったことがわかった(71,72)。対照的に米国での別の症例対照研究では、前立腺がんと診断された男性はがんのない男性よりも食事性カンペステロール摂取が多かったことがわかったが、植物ステロール全体の摂取は前立腺がんリスクと関連がなかった(73)。植物ステロールを含む植物性食品の高摂取とがんリスクの低下との関連がわかったとする疫学研究もあるものの、その防護的要因が植物性食品の植物ステロールなのかその他の化合物なのかは不明である。

疾病治療

良性前立腺過形成(BPH)

良性前立腺過形成(BPH)は、前立腺の非がん性肥大を表す用語である。肥大化した前立腺は尿道を圧迫する可能性があり、その結果排尿が困難になる。植物ステロールの混合物(βシトステロールとして市販されている)を含む植物抽出物はしばしば、BPHに関連する泌尿器症状のための薬草療法に含まれる。しかし、BPHの症状のある男性に対する植物ステロールサプリメントの効能を調べた対照試験は比較的少ない。BPHの症状のある200人の男性による6ヶ月間の研究で、60mg/日のβシトステロール剤によってプラセボに比べて症状のスコアが改善し、最大尿流が増え、排尿後残尿量が減った(74)。追跡研究で、βシトステロールによる治療を続けた38人の参加者でこれらの改善が18ヶ月まで維持されたと報告された(75)。同様にBPHの症状のある177人の男性による6ヶ月の研究で、130mg/日の別のβシトステロール剤によってプラセボより症状のスコアが改善し、最大尿流が増え、排尿後残尿量が減った(76)。これらとその他の2つの対照臨床試験の結果をまとめたシステマティックレビュー(系統的総括)で、βシトステロール抽出物は最大尿流を平均で3.9ml/秒増やし、排尿後残尿量を平均で29ml減らしたことがわかった(77)。いくつかの臨床試験の結果から、比較的低用量の植物ステロールがBPHに関連する下部尿路の症状を改善する可能性があるということが示唆されるが、これらの結果を確認するさらなる研究が必要である(78)

摂取源

食品

今日のほとんどの先進国での典型的な食事と異なり、我々の祖先の食事は植物ステロールが豊富で、おそらく1,000mg/日も含まれていたであろう(1)。今日の食物性植物ステロール摂取は、集団によって150~450mg/日とばらつくであろうと推定される(3)。菜食主義者、特に完全菜食主義者は一般的に食物性植物ステロール摂取が最も多い(79)。植物ステロールはすべての植物性食品に含まれるが、最も多いのは植物油、ナッツ油、およびオリーブ油などの未精製植物油である(3)。ナッツ、種子、全粒穀物、および豆類も植物ステロールの良好な食品源である(5)。いくつかの食品の植物ステロール含有量を表1に示す。特定の食品についての栄養素含有量については、米国農務省の食品成分データベースを参照のこと。

表1 いくつかの食品の全植物ステロール含有量(80-83)
食品 分量 植物ステロール(mg)
小麦胚芽 約120ml(57g) 197
こめ油(米糠油) 大さじ1(14g) 162
ごま油 大さじ1(14g) 102
コーン油 大さじ1(14g) 117
キャノーラ油 大さじ1(14g) 92
ピーナッツ 約28g 62
小麦ふすま 約120ml(29g) 58
アーモンド 約28g 39
芽キャベツ 約120ml(78g) 34
ライ麦パン 2切れ(64g) 33
マカデミアナッツ 約28g 33
オリーブ油 大さじ1(14g) 22
Take Control(登録商標)スプレッド 大さじ1(14g) 1,650mgの植物ステロールエステル(1,000mgの遊離ステロール)
Benecol(登録商標)スプレッド 大さじ1(14g) 850mgの植物ステロールエステル(500mgの遊離ステロール)

植物性ステロールおよび植物性スタノールを強化した食品

コレステロール低減効果を実証した臨床試験の大部分では、マーガリンやマヨネーズのような脂肪を含む食品に溶かした植物性ステロールもしくはスタノール・エステルが使用された(11)。より最近の研究で、植物性ステロールまたはスタノールを適切に溶かせば低脂肪または無脂肪の食品ですらそれらを効果的に体に届けることができることが示された(10,59)。低脂肪ヨーグルト(43,84-86)、低脂肪乳(87-89)低脂肪チーズ(90)、ビターチョコレート(91)、およびオレンジジュース(92,93)に添加された植物性ステロールまたはスタノールが、対照臨床試験でLDLコレステロールを低下させたことが報告された。マーガリン、マヨネーズ、植物油、サラダドレッシング、ヨーグルト、牛乳、豆乳、オレンジジュース、棒状のスナック菓子、および肉などの植物性ステロールまたはスタノールを添加した様々な食品が、米国、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、およびニュージーランドで市販されている(10)。最近のメタ解析で、スプレッド、マヨネーズ、サラダドレッシング、牛乳、またはヨーグルトに添加された植物性ステロール/スタノールは、チョコレート、オレンジジュース、チーズ、肉、および棒状のシリアル菓子などのその他の製品に加えられる場合よりも、LDLコレステロール濃度を低下させるのにより効果的であったことがわかった(38)。LDLコレステロールを低下させるのに効果的な用量は最大で2g/日(11)、最少で0.8~1.0g/日(10)であることが、今までの研究から示される。コレステロール低減効果を実証した臨床試験の大半では、1日分の用量の植物性ステロールまたはスタノールを2~3回の食事に分けていたが、これはLDLコレステロール低減により効果的かもしれない(38)。しかし、1日分の植物性ステロールまたはスタノールを1回の食事で摂取しても、いくつかの臨床試験ではLDLコレステロールが下がったことがわかった(43,85,86,94,95)

サプリメント

βシトステロールとして市販されている植物ステロールのサプリメントは、米国では処方箋なしで入手可能である。60~130mg/日のβシトステロールが良性前立腺過形成(BPH)の症状を軽減することが、いくつかの臨床試験でわかっている(「良性前立腺過形成」の項参照)。0.5gの植物ステロールを含む噛むソフトカプセル(ゲル)が、2g/日の推奨量でコレステロール低下に効くとして市販されている。植物ステロールのサプリメントは、脂肪を含む食事と一緒に摂取すべきである。

安全性

米国では、様々な食製品に添加された植物性ステロールやスタノールは、FDAによって一般的に安全であると認められている(GRAS認証)(96)。またEUの食品科学委員会は、様々な食製品に添加された植物性ステロールやスタノールはヒトが摂取しても安全であると結論づけた(97)。しかしながら委員会は、食製品からの植物性ステロールやスタノールの摂取は3g/日を超えるべきではないと推奨している。なぜならこれより多く摂取しても健康への有益性のエビデンスがないことと、高摂取による望ましくない効果があるかもしれないからである。

悪影響

植物性ステロールまたはスタノールを1年間まで定期的に摂取しても、それに関連する悪影響はほとんどない。1.6g/日の植物性ステロールを強化したスプレッドを摂取した者は、対照となるスプレッドを1年間まで摂取した者と比べても何の悪影響も報告しなかった(26)。また1.8~2.6g/日の植物スタノールを強化したスプレッドを1年間まで摂取した者も、何の悪影響も報告しなかった(47)。マーガリンに含まれる最大8.6g/日までの植物ステロールを3~4週間摂取しても健康な男女には良好な耐用性があり、腸内細菌や女性ホルモン濃度に悪い影響を及ぼすことはなかった(98)。植物ステロールは通常良好な耐用性が見られるが、吐き気、消化不良、下痢、および便秘が時として報告されることもあった(74,76)

シトステロール血症(フィトステロール血症)

シトステロール血症はフィトステロール血症としても知られ、ABCG5またはABCG8遺伝子のどちらのコピーにも起こる突然変異を受け継ぐことによって起こる非常に稀な遺伝性疾患である(99)。どちらかの輸送タンパク質の突然変異がホモ接合である個人は、腸での植物ステロール吸収が増え胆汁中への排出が減ることで、血清植物ステロール濃度が劇的に高くなる。血清コレステロール濃度が正常またはやや高くても、シトステロール血症の個人は早発性アテローム性動脈硬化のリスクが高い。シトステロール血症の個人は、植物性ステロールが添加された食品またはサプリメントを避けるべきである(10)。より一般的であるシトステロール血症のヘテロ接合保因者における植物性ステロール摂取の効果が、2つの研究で調べられた。2人のヘテロ接合保因者が3g/日の植物性ステロール摂取を4週間(100)しても、12人のヘテロ接合保因者が2.2g/日の植物性ステロールを6~12週間摂取しても、血清植物ステロール濃度が異常に高くなることはなかった(101)

妊娠と授乳

食品やサプリメントに添加された植物性ステロールまたはスタノールは、妊婦や授乳婦への安全性が研究されていないので、妊婦や授乳婦に勧められない(10)。現在、菜食主義者の女性のように天然の植物ステロールを食事で高摂取しても、妊娠や授乳に悪影響があるというエビデンスはない。

薬物相互作用

植物性ステロールまたはスタノールのコレステロール低減効果は、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の効果を補足するかもしれない(102,103)。対照臨床試験の結果では、スタチンを治療に使用している個人が2~3g/日の植物性ステロールまたはスタノールを摂取すると、LDLコレステロールがさらに7~11%減少するかもしれないことが示唆されていて、これはスタチンの用量を2倍にすることに匹敵する(50,104-106)。抗凝固作用のためにワルファリン(クマジンまたはコウマディン)を使用している患者が4.5g/日のスタノールエステルを8週間摂取しても、プロトロンビン時間(INR)に影響はなかった(107)

栄養素との相互作用

脂溶性ビタミン(ビタミンA,D,E,K)

植物性ステロールやスタノールがコレステロールの吸収を減らし血清LDLコレステロール濃度を下げることから、脂溶性ビタミンの状態に対するその効果も臨床試験で研究された。血漿ビタミンA(レチノール)濃度は、植物性ステロールもしくはスタノール・エステルを1年まで摂取しても影響がなかった(11,26)。血漿ビタミンD(25ヒドロキシビタミンD3)濃度には大部分の研究で何の変化もなかったが、1つのプラセボ対照試験で1.6g/日のステロールエステルを1年間摂取した個人に血漿25ヒドロキシビタミンD3濃度に小さい(7%)が統計的に有意義な減少が見られた(26)。ビタミンKの状態に植物性ステロールまたはスタノール摂取が悪影響するというエビデンスはほとんどない。1.6g/日のステロールエステルを6ヶ月間摂取したら血漿ビタミンK濃度が取るに足らない14%の減少になったという関連があったが、ビタミンKの状態の機能的指標であるカルボキシル化されたオステオカルシンには影響がなかった(26)。より短期間のその他の研究では、植物ステロールやスタノール・エステルの摂取は、ビタミンK1(108,109)、またはビタミンK依存性凝固因子(110)の血漿濃度に大きく影響しなかった。植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品の摂取は、多くの研究で血漿ビタミンE(α-トコフェロール)濃度を減少させるとわかっている。しかし、α-トコフェロールの濃度をLDLコレステロール濃度に標準化した場合には、これらの減少は一般的にそれほどでもない。このことは、観察された血漿α-トコフェロール濃度の減少が一部にはその担体リポタンパク質であるLDLコレステロールの減少によるものであるということを示唆している。一般に、1.5g/日以上の植物性ステロールやスタノールを強化した食品の摂取は、栄養状態のよい集団では脂溶性ビタミンの栄養状態に悪影響を及ぼさないことがわかっている。

カロテノイド

食事性のカロテノイドはリポタンパク質で循環する脂溶性植物化学物質である。多くの研究で、植物性ステロールまたはスタノールを強化した食品の短期または長期の摂取後に、10~20%の血漿カロテノイド濃度の減少が観察された(11)。血清総コレステロール濃度またはLDLコレステロール濃度に標準化された場合でも、αカロテン、βカロテン、およびリコピンの減少は持続するかもしれない。このことは、植物ステロールがこれらのカロテノイドの吸収を妨げる可能性があることを示唆している(111)。血漿カロテノイド濃度の減少が健康リスクをもたらすのかどうか不明であるが、いくつかの研究でカロテノイドの豊富な果物や野菜の摂取を増やすと、植物ステロールによる血漿カロテノイドの減少を防げる可能性があることがわかった(112)。あるケースでは、カロテノイドの豊富な野菜1食分を含む5食分の果物や野菜を毎日摂取するようにすると、2.5g/日の植物ステロールもしくはスタノール・エステルを摂取する者の血漿カロテノイド濃度を維持するのに十分であった(113)


Authors and Reviewers

Originally written in 2005 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University

Updated in September 2008 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University

Reviewed in September 2008 by:
Peter J.H. Jones, Ph.D.
Professor of Nutrition
Director, Mary Emily Clinical Nutrition Research Center
School of Dietetics and Human Nutrition
McGill University

Copyright 2005-2024  Linus Pauling Institute 


References

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