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要約

  • アブラナ科の野菜は、グルコシノレートとして知られる硫黄含有化合物の豊富な供給源であるという意味で独特である。(詳細はこちら)
  • アブラナ科の野菜を刻んだり噛んだりすると、イソチオシアネートやインドール3カルビノールといった生理活性グルコシノレート加水分解物が生成される。(詳細はこちら)
  • いくつかの疫学的研究では、アブラナ科野菜の高摂取は肺がんや結直腸がんのリスク低下と関連づけられているが、ヒトのがんのリスクに対するアブラナ科野菜の効果に遺伝的差異が影響している可能性があるというエビデンス(科学的根拠)がある。(詳細はこちら)
  • グルコシノレートの加水分解物は、ホルモンに影響されやすいがんの発症を阻害して性ホルモンの代謝や活性を変える可能性があるが、ヒトにおけるアブラナ科野菜の摂取と乳がんまたは前立腺がんとの逆相関のエビデンスは限定的であり、一貫性がない。(詳細はこちら)
  • 米国国立がん研究所を含む多数の機関が多様な野菜や果物を毎日摂取することを推奨しており、推奨される摂取量は、年齢、性別、および運動の度合いによって異なる。しかしながら、アブラナ科野菜のみに対する推奨はなされていない。(詳細はこちら)

序説

アブラナ科野菜またはアブラナ属野菜は、アブラナ科または十字花科として植物学者に知られている科に属する植物の仲間であることからそう名付けられた。一般的に消費されている多くのアブラナ科野菜はアブラナ属に属し、ブロッコリー、芽キャベツ、キャベツ、カリフラワー、カラードグリーン、ケール、コールラビ、カラシナ、ルタバガ、カブ、パクチョイ、およびハクサイなどを含む(1)。ルッコラ、セイヨウワサビ、ダイコン、ワサビ、およびクレソンもアブラナ科野菜である。

アブラナ科の野菜は、ツンとする香りや辛味(苦味という人もいる)を出す硫黄含有化合物であるグルコシノレートの豊富な供給源であると言う点で独特である(2)。ミロシナーゼと呼ばれる植物の酵素類によるグルコシノレートの加水分解(ばらばらにすること)によって、生物活性を持つインドールやイソチオシアネートといった化合物が形成される(3)。ミロシナーゼは、無処置の植物細胞ではグルコシノレートから物理的に隔離されている。しかしながら、アブラナ科野菜を刻んだり噛んだりすると、ミロシナーゼがグルコシノレートに触れて、その加水分解の触媒作用をする。現在では、アブラナ科野菜やいくつかのグルコシノレート加水分解物の高摂取ががんの予防に役立つ可能性に興味が持たれている(「インドール3カルビノール」と「イソチオシアネート」の項参照)。

疾病予防

がん

他のほとんどの野菜と同様に、アブラナ科野菜はがんの予防に相乗的に役立つ可能性のある多様な栄養素や植物性化学物質の良好な供給源である(4)。ヒトにおけるアブラナ科野菜の摂取とがんのリスクとの関係を調べる際に難しいことの一つは、一般的に野菜が豊富な食事の恩恵と、特にアブラナ科野菜が豊富な食事による恩恵とを分離することである(5)。アブラナ科野菜がその他の野菜と異なっている一つの特徴は、グルコシノレート含有量が多いことである(6)。グルコシノレート加水分解物は、発がん性物質がDNAを傷つける前にその除去を促進するか、正常な細胞ががん細胞に変化するのを防ぐのに役立つように細胞シグナル伝達経路を変えることによって、がんの予防に役立っている可能性がある(7)。グルコシノレート加水分解物のいくつかは、エストロゲンのようなホルモンの代謝や活性を、ホルモンに影響されやすいがんの発症を防ぐように変えている可能性がある(8)

1996年より前に発表された疫学的研究の広範な再調査で、87の症例対照研究の大部分(67%)で、ある種のアブラナ科野菜の摂取とがんのリスクの逆相関が見られた(9)。その時点では、その逆相関は肺がんと消化管のがんで最も強いように見えた。この後ろ向き症例対照研究の結果は、参加者ががんと診断される前に食事の情報を収集する前向きコホート研究よりも、(症例群と対照群の)参加者の選定および食事内容の思い出しにおけるバイアスによって歪められているようである(10)。過去10年間において、前向きコホート研究や個人の遺伝的変異を考慮した研究の結果は、アブラナ科野菜の摂取とある種のがんのリスクの関係が以前に思われていたよりももっと複雑であることを示唆している。

肺がん

肺がんリスクにアブラナ科野菜の摂取がもたらす効果を評価する際には、アブラナ科野菜の摂取を増やすことによる有益性は、喫煙をやめることに比べて小さいであろうことを覚えておくことが大切である(11,12)。いくつかの症例対照研究で、肺がんと診断された人々はがんでない対照群の人々に比べて、アブラナ科野菜の摂取がかなり少なかったことがわかっている(9)が、より最近の前向きコホート研究の結果はまちまちである。オランダ人男女(13)、アメリカ人女性(14)、およびフィンランド人男性(15)の前向き研究で、アブラナ科野菜の高摂取(1週間に4回以上)は肺がんリスクが大きく減ることと関連があった。しかし、アメリカ人男性(14)およびヨーロッパ人男女(11)による前向き研究では、逆相関は見られなかった。いくつかの研究の結果から、グルコシノレート加水分解物の代謝に影響する遺伝的要因が、肺がんリスクに対するアブラナ科野菜摂取の効果に影響している可能性が示されている(「遺伝的影響」の項参照)(16~21)

結直腸がん

ある小規模な臨床試験で、ブロッコリーを250g/日と芽キャベツを250g/日摂取すると、よく焼かれた肉に含まれる発がんの可能性のある物質の尿中への排出が大きく増加したことがわかった。これは、アブラナ科野菜の高摂取が食事に含まれるある種の発がん性物質の排出を促進して、結直腸がんのリスクを減らす可能性を示唆している(22)。1990年より前に行われたいくつかの症例対照研究で、結直腸がんと診断された者は結直腸がんでない者よりも様々なアブラナ科野菜の摂取が少ないようだとわかっていた(23~26)。しかし、大部分の前向きコホート研究では、時間をかけて結直腸がんを発症するリスクとアブラナ科野菜の摂取との間に逆相関は見られなかった(27~32)。一つの例外はオランダ成人での前向き研究で、アブラナ科野菜の摂取が最も多い(平均で58g/日)男女は、摂取が最も少ない者(平均で11g/日)に比べて、大腸がんになる可能性が大きく低かった(33)。驚いたことに、その研究ではアブラナ科野菜の高摂取と女性の直腸がんのリスクの増加に相関があった。肺がんの場合のように、アブラナ科野菜の摂取と結直腸がんのリスクとの関係は、遺伝的要因によって複雑になっているのかもしれない。最近の数件の疫学的研究の結果では、アブラナ科野菜の摂取による予防的効果は、グルコシノレート加水分解物の代謝および除去能力における個人の遺伝的差異に影響されている可能性がある(「遺伝的影響」の項参照)(34~37)

乳がん

内因性エストロゲンである17β-エストラジオールは、不可逆的に16α-ヒドロキシエストロン(16α-OHE1)または2-ヒドロキシエストロン(2-OHE1)へと代謝される。 2-OHE1と対照的に、 16α-OHE1は非常にエストロゲンと似ており、培養下でエストロゲンに影響されやすい乳がん細胞の増殖を強めることがわかっている(38,39)。17β-エストラジオールの代謝を2-OHE1に移行させ、同時に16α-OHE1から離すことが、乳がんのようなエストロゲンに影響されやすいがんのリスクを減らすのではないかという仮設があった(40)。小規模な臨床試験で、健康な閉経後の女性のアブラナ科野菜の摂取を4週間にわたって増やしたところ、尿中の2-OHE1対16α-OHE1の比率が増えた。このことは、アブラナ科野菜の摂取が多いとエストロゲンの代謝を変える可能性があることを示唆している。しかしながら、尿中の2-OHE1対16α-OHE1の比率と乳がんリスクの関係は明らかでない。数例の小規模な症例対照研究で、乳がんの女性は2-OHE1対16α-OHE1の比率が低いことがわかった(41~43)が、より大規模の症例対照研究および前向きコホート研究では、尿中の2-OHE1と16α-OHE1の比率と乳がんリスクとの間には特に関連がなかった(44~46)。アブラナ科野菜の摂取と乳がんリスクに関する疫学的研究の結果もまちまちである。米国、スウェーデン、および中国での数件の症例対照研究では、乳がんの女性のアブラナ科野菜の摂取は、がんでない対照群の女性と比べてかなり少なかった(47~49)。しかし7つの大規模前向きコホート研究の統合解析では、アブラナ科野菜の摂取は乳がんのリスクと関連がなかった(50)。285,526人の女性の前向き研究では、野菜全体の摂取は乳がんのリスクと関係がなかった。この研究では、キャベツ、根菜類、および葉物野菜といった野菜のタイプごとの分類と乳がんのリスクとは個別に関連づけられていない「51)。

前立腺がん

グルコシノレート加水分解物は、培養した前立腺がん細胞の成長を妨げ、そのプログラム死(アポトーシス)を促進することが知られている(52,53)が、アブラナ科野菜の摂取と前立腺がんのリスクに関する疫学的研究の結果は一貫していない。1990年以降に発表された8つの症例対照研究のうちの4つでは、前立腺がんの男性のアブラナ科野菜の摂取の程度は、がんでない対照群の男性とくらべてかなり低かった(54~57)。アブラナ科野菜の摂取と前立腺がんリスクの関連を調べた5つの前向きコホート研究では、統計的に意味のある逆相関は全体的には見られなかった(58~62)。しかしながら、その中で前立腺がんの症例が最多で最も長く追跡調査した研究では、前立腺特異抗原(PSA)検査を受けた男性に限って分析してみると、アブラナ科野菜の摂取と前立腺がんリスクには意義深い逆相関があった(58)。PSA検査で選別された男性は前立腺がんと診断される可能性がより高いため、このように分析を限定することは、検出バイアスを減らす一つの方法である(63)。加えて、直近の前向き研究で、アブラナ科野菜の摂取は前立腺以外に転移してしまっている転移性前立腺がん(すなわち、末期前立腺がん)と逆相関があることがわかった(62)。現在では、アブラナ科野菜の高摂取が前立腺がんのリスクを減らすという仮説は、疫学的研究で控えめにしか裏付けられていない(1)

遺伝的影響

がんのリスクに対するアブラナ科野菜摂取の効果に、ヒトの遺伝的差異が影響している可能性があるというエビデンスが増えている(64)。イソチオシアネートはグルコシノレート加水分解物であり、アブラナ科野菜の摂取によるがん予防効果に役立っていると考えられている。グルタチオンS転移酵素(GST)は、イソチオシアネートを含む多様な化合物を体外への排出を促進するように代謝する酵素群である。GST酵素の活性に影響する遺伝的差異(多型性)がヒトで発見されている。GSTM1遺伝子とGSTT1遺伝子のヌル(null)型変異は遺伝子欠失が大きく、GSTM1遺伝子のヌル型またはGSTT1遺伝子のヌル型を2つ受け継いだ個人は、対応するGST酵素を作ることができない(65)。そのような個人においてGST酵素の活性が低いと、アブラナ科野菜の摂取後にイソチオシアネートの除去が遅くなり、それが長く体内に留まることになる(66)。この考えを支持するように、いくつかの疫学的研究でアブラナ科野菜からのイソチオシアネートの摂取と肺がん(16~19)または大腸がん(34~36)リスクとの逆相関が、GSTM1ヌル型および/またはGSTT1ヌル型の個人に顕著であるとわかった。これらの発見は、イソチオシアネートのような保護的働きを持つ可能性のある化合物をより遅く代謝する個人では、アブラナ科野菜の高摂取による身体保護的効果が強化されることを示唆している。あるいは、GST酵素は発がん性物質の解毒に主要な役割を果たし、ヌル型の遺伝子を持つ個人はがんになりやすいことが予期されるので、発がん性物質濃度が高い状態でアブラナ科野菜の保護的効果がますます重要であれば、そのような集団においてはアブラナ科野菜が重要な保護効果を示すのかもしれない(67)

栄養素との相互作用

ヨウ素と甲状腺機能

キャベツやカブなどのアブラナ科野菜を非常に多く摂取すると、動物は甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン不足)を起こすことがわかっている(68)。数ヶ月にわたって推定で1.0~1.5kg/日の生のパクチョイを食べた88歳の女性が、重篤な甲状腺機能低下症を発症し昏睡状態になったという報告がある(69)。この結果には2つのメカニズムが働いていることがわかっている。アブラナ科野菜に見られるグルコシノレートの何種類か(例えばプロゴイトリン)の加水分解ではゴイトリンという化合物が作られ、これが甲状腺ホルモンの合成を阻害することがわかっている。インドールグルコシノレートという別種のグルコシノレートの加水分解ではチオシアネートイオンが放出され、甲状腺による吸収をヨウ素と競う。アブラナ科野菜の摂取あるいはもっと一般的な喫煙によるチオシアネートイオンに多くさらされても、ヨウ素欠乏でない限り甲状腺機能低下症のリスクが増えるようには見えない。ヒトでにおける1つの研究では、150g/日の加熱した芽キャベツを4週間にわたって食べても、甲状腺の機能には悪影響がなかった(70)

推奨される摂取量

米国国立がん研究所を含む多くの機関で毎日様々な野菜や果物を食べること(分量は年齢、性別、および運動量で異なる。(71)) を勧めているが、アブラナ科野菜のみに関する推奨はない。アブラナ科野菜とがんの予防に関してもっと学ばなければいけないことが多いが、いくつかの疫学的研究の結果から、成人はアブラナ科野菜を週に少なくとも5回摂るように図るべきであることが示されている(14,58,71)

表1 アブラナ科(アブラナ属)野菜に含まれる有益である可能性のある化合物
ビタミン ミネラル 植物性化学物質
葉酸塩 カリウム カロテノイド
ビタミンC セレン 葉緑素
    食物繊維
    フラボノイド
    インドール3カルビノール
    イソチオシアネート
    リグナン
    植物ステロール

Authors and Reviewers

Originally written in 2005 by:
Jane Higdon, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University

Updated in December 2008 by:
Victoria J. Drake, Ph.D.
Linus Pauling Institute
Oregon State University

Reviewed in December 2008 by:
David E. Williams, Ph.D.
Principal Investigator, Linus Pauling Institute
Professor, Department of Environmental and Molecular Toxicology
Oregon State University

Copyright 2005-2024  Linus Pauling Institute


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